2014.05.16 感性・感情の建築的役割、建築学会特別研究委員会設置申請(7)74

 2011年度  2010年度作成

テーマ;感性・感情に関する建築的役割を体系化する基礎的研究

委員会名:感性・感情に関する建築的展開の特別研究委員会

 

1.研究目的

近年、感性の時代、個性の時代といわれながらも、建築はこれにどう応えてきたのであろうか。感性や感受性について生活環境の果たす役割が大きいにもかかわらず、生活環境たる建築の役割があまりみえてこない。特に、生活空間の質の向上や生活水準の向上を今後問題にするならば、物理的環境整備は当然にしても、感情も含めて感性の面からのアプローチの充実は必要不可欠である。ところが、現状は、実務家が実務遂行の際に感性を扱い、市民もまた日常生活の中で感性を楽しむ、のはいいにしても、感性が真理として扱いにくいこともあって、学術はこの種の問題を避けている。このため、市民からの建築への期待はあいかわらず低いままである。

そこでここでは、学術の果たす役割の模索として、市民や実務家が育み実践してきた感性・感情について、種々整理して分析と体系化を試み、これをもって感性的なアプローチの基礎を築くことにした。この種の研究は、感性の時代にふさわしい建築のあり方を学術の面からリードするためのものである。ここで扱う感性は「やさしさ」と「うつくしさ」であり、感情は「なれ」と「あきらめ」であり、対象は住まいづくりと街づくりである。特に街づくりにおいて、感性的アプローチをどう展開すべきかが問われていると考え、まちづくりのあり方を論及する。

 

.委員会設置理由

本学会には街づくりや感性を扱う委員会があるが、これらは提案者のいう感性の時代に即したアプローチの構築を目指すという考えにあうものではない。前述のように、本研究は学術すなわち学会側からの支援を必要とするので、委員会を新しく設置したい。理由は;学術の府、とりわけ委員会において活動することがとりもなおさず、個々の感性を一同に集積するということになるからである。また、委員会の旗印のもとで多種多様な分野からの多種多様な議論によって火種を起こし、全国各地において市民と実務者を巻き込んで活動を展開したいがためである。

 

.研究項目

 (1)実務家個人の感性の集積と分析・体系化:

実務家が住まいづくりについて、どんな感性をどのように反映させているか。主に設計コンセプトと感性といった枠組みでアンケート調査を含め議論ベースにのるものを集積し、分析・体系化を考える。ただし、地域は限定する。

(2)市民個人の感性の集積と分析・体系化:

住まいづくりにおいて、市民(住民)がどのような感性をもって実務家に対応しているのか。また各自の住まいにおいてどのような感性をもって生活の充実(あるいは質の向上)をめざしているのか。こうしたケースにおいて感性についてアンケート調査を含めデータを収集し、分析・体系化をはかる。

(3)建築空間と感性との関係性について:

感性のファクターとして「やさしさ」と「うつくしさ」の二つについて、市民生活の中でどのようなイメージがもたれているかをデータ収集により探る。これについては、種々の街づくり報告書などを調査材料にする。

(4)美の建築的意味の論及:

美はどう建築で扱われているのか、明らかにする。特に美について専門家の受け止め方を考える。美が権力に利用されるという捉え方もあれば、素朴に捉えようとする方もあり、また売らんがための商業ベースの捉え方もある。これらを踏まえての調査をする。ただし、この項目は美のメカニズムの解明ではないことを断っておく。

(5)なれとあきらめの建築的論及:

感情として「なれ」と「あきらめ」について論及する。建築家が自称良いセンスでもって建築をつくっても、建築に対する市民側の反応は様々である。市民は建築にどう納得していくのか、納得させられていくのか、を明らかにする。これは、学術的ロジックの追求ではなく、いわば個人(人間)の中で理想と現実のバランスをどうとっていくかというものである。

(6)街づくりについての多面的分析:

以上の項目の成果を街づくりの中で反映させ展開させる。街づくりにおいて、美しさとは何をどうすることになるのか。なれとあきらめはどのように現れてくるのか。このように考えて、これまでの街づくりの捉え方とはまったく異なるアプローチで街づくりを論及する。街づくりについて、市民サイドのしかも個人レベルでの思いや評価がどうあるべきか、方法を考えるとともに、データを集積し分析する。ただし、扱う街は限定する。

 

.委員会構成

委員候補については、少数精鋭として6名とするが、多種多様な職種と分野からの結集として委員友を6名いれる。この12名の方は、この種の問題について提案者と熱く語ったことのある賛同者である。以下に名前を記す。

(1)委員:**、**(福井大、計画系)、**(建築家、東京)、**(建築哲学研究家,東京)、**(名古屋大、構造系)、**(大阪大、環境系)

(2)委員友(提案採択されれば正式に依頼):**(文筆家、東京)、**(清水建設技研、街並系)、**(日研BP,ジャーナリズム)、**(名古屋市大、設計系)、**(龍谷大、計画系)、**(中部電力、マネジメント系)

なお、委員会開催地を東京、名古屋、大阪とし、また各地において趣旨に賛同する市民と実務家の方々を会友として結集もしたい。

 

.期待される成果

市民と実務家を巻き込む討議および交流を通して、まずは研究者・教育者の頭の中に多様な感性・感情のあることを認識することができれば、これをもって第一段階の成果としたい。次に、そうした感性・感情のデータを(学術の場において)分析と体系化に着手したという事実は、市民や実務家に学術からの信頼感を与えたことになり、これをもって第二段階の成果としたい。もちろん、この種の問題については、一委員会で決着がつけられるものではなく、あくまでも新委員会による道筋照らしそのものに意味がある。これらの成果を、建築学会大会2012(東海)で開催するシンポジウムにて公開し、広く皆さんにこの種の観点をPRし理解をいただくとともに、大いに議論を巻き起こして火種を拡散させれば、大成功としたい。これをもって新しい潮流が芽生えたといえる。

 

.過去の業績

建築学会大会2010(北陸)において、これまで研究対象とはなりにくかった「夢と希望とロマン」をテーマにトークラリーとシンポジオンが開催された。これは、本学会にとって21世紀にふさわしい新たな挑戦と受け取ってよいであろう。また、ここに至るまで、9年前から細々と実施してきた交流の広場として(大会関連行事として実施されてきた)討議の集いやのシンポジオンや討議の集いが下地になっていることはいうまでもないことである。こうした企画にて、まさに交流を介して感性やひいては人間性の健全さを問い続けてきており、しかも若い人にこの種の問題に対しての種まきもしてきた。いままさに、花を開かせる条件はそろった。

 

.研究期間、予算

2011年4月~2013年3月 初年度21.5万、次年度27,5万、計49万円

.そのほか

 雑感を述べたい。(1)建築学会大会2010(北陸)は、これまでの大会とは一味もふた味も違ったものとなった。これは、富山の支所の人材構成が研究者に加えて巷の実務者も含めて多種多様だった結果のように思える。もう少し理屈をつければ、多種多様な人材構成ゆえに、多種多様な考え方やアプローチが自然とうまれ、本学会がいう「市民に開かれた学会」や「研究成果の社会への還元」という題目に、少なからず応えることができたといえる。ならば、このノリで委員会活動にも、文字通りの社会的責任と貢献を市民レベルで実現させることも可能であるはずである。

(2)市民感覚は司法においてしっかりとシステムに組み込まれ根付き始めているが、建築の分野ではいかがであろうか。住まいづくりや街づくりで市民参加といっても単にWSをして、そこからアイデアやニーズを建築家たちのみが汲み取りビジョン化している。これではどうみても市民感覚とはいえない。感性についても、おなじことがあると考える。

(3)感性の時代とはいえ、個人個人のもつ感性について個を尊重したつながりがないので、ここに体系化が必要として、学術ベースでの支援を行うことを急務と考える。