アメリカの友人

小説と詩を書くブログ。

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 すてきな三毛猫が、死んだ鼠を僕にくれます。

 しかし僕は鼠を食べませんので、それを庭に埋めます。そして盛り上がった土の上に鼠ぐらいの大きさの石を置き、手を合わせながら鼠の冥福を祈ります。

 このすてきな三毛猫は、よく死んだものを僕にくれるのです。
 死んだバッタや死んだトカゲ、そして死んだ携帯電話など、僕が喜びそうにないものばかりです。携帯電話のときもやはり庭へ埋める儀式をしたのですが、しばらくすると土の中から音が聞こえてきたので、ふたたび庭を掘り返す羽目になりました。出てきた携帯電話を耳にあてると、グリーンスリーブスの曲が電子音で流れてきました。僕は時間が止まったようにじっとその曲を聴いていたのですが、ちょうどそのとき、すてきな三毛猫が一万円札をくわえてきたので、止まった時間が急に動きだしたせいで転んでしまう人みたいに僕も転びそうになりました。でもよく見ると、お札の裏側は真っ白になっており、ただ「ごめんなさい」と一言書いてあります。そのお札は三日ほど取っておいたのですが、なぜそんなお札が存在するのか理解できなかったので、結局、庭へ埋めるしかありませんでした。

 でもすてきな三毛猫は、まだ死んでいないものを持ってきたこともあるのです。
 ある日、家の外からビービーと音がするので表へ出てみると、ヘルメットを被った女性が棒のようなもので庭の地面をなぞっていました。事情を聞くと、彼女は探知機で地雷を探しているのだといいます。
「といっても爆発する地雷じゃなくて、わたしが勝手にそう呼んでる地雷のことなんだけどね」
 ではなぜヘルメットを被っているのだろうと思いましたが、きっと話の肝はそこではないと感じたので聞かないことにしました。
「なんだか、この庭っていろんなものが埋まってるみたい。だけど埋めるという手段は、それ以外に方法がないときの最終手段でしょ?」
 すてきな三毛猫は、塀の上から僕がその人をどう処理するのかを眺めていました。でも彼女はまだ死んでいないので、鼠のときみたいに庭へ埋めることはできません。

 その後、地雷の彼女は僕の家に住みはじめました。
 そして、すてきな三毛猫が何かをくわえてきたときは、それを庭へ埋めるべきかどうか二人で考えることにしました。そうすれば、庭が地雷原にならずに済みますし、彼女も地雷を探す必要がなくなります。
 彼女の言う地雷が、いったい何なのかも知りたいですし。

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 王様になって欲しい、とその男は私に言った。

 必要なときに王様の椅子に座っているだけでよく、あとは飲んだり食べたり、自宅に帰ったりしてもよいと。
「それから毎月、手取りで12万円の給料が支給されます。安いかもしれませんが、宮殿に寝泊まりすれば生活費もかかりません」
 宮殿で侍従長をしているというその男に、あなたは毎月いくら貰ってるんですかと質問すると、上手く話をそらされた。
「まあ、欲しいものがあれば宮殿の経費でも買えますし。土地や高級車みたいなものは無理ですが、ちょっとした洋服とか家電ならOKです」

 私は住んでいたアパートを引き払って宮殿に引っ越した。家賃や光熱費なんかを支払うと、給料の半分以上が飛んでいくからである。宮殿内で私に与えられた部屋は、8畳間にキッチンや風呂、トイレが付いた間取りであり、それまで住んでいたアパートよりは多少広かった。私は妹と二人で暮らしていたので、二部屋もらえるように希望したのだが、今は空いてる部屋はここしかないと言われた。
「高校までは少し遠くなったけど、いい部屋だと思うわ。前みたいに、部屋の真ん中をカーテンで仕切ればいいし」
 でも、妹は一応部外者扱いなので、妹の食費分として3万円が給料から天引きされることになった。

 妹は、昼間は学校へ通い、帰宅後は宮殿で小間使いのようなアルバイトをしていた。月に3万円ほどバイト代が出ていたようだが、それを食費として召し上げるのはさすがに気が引けた。それに妹は、アルバイトをすることで宮殿の人たちとも仲良くなったようだし、小間使いのかわいい衣装も気に入っているようだった。

 私が王様になってから数年後、妹は高校を卒業し、小間使いとして正式に宮殿で働いていた。8畳間の部屋は相変わらず二人で使っていたが、妹も仕事が忙しくなったせいか、二人で一緒に過ごす時間も少なくなっていた。いずれ妹にも部屋が与えられ、私一人でこの部屋を使えるようになる日も来るのだろうが、それはそれで少し寂しいと思った。

 妹が宮殿から消えたのは、そんなことを考えていた矢先である。
 一緒に消えたのは、あの侍従長の男だった。

 他の侍従たちに話を聞くと、侍従長には妻子がいるので、妹と二人で駆け落ちでもしたのだろうと。
 それで、私も王様としての、または兄としての責任を取らなければならないことになり、その妻子は今、私の8畳間の、カーテンの向こうで暮らしている。

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 それは30センチメートル四方の平べったい木箱だった。昆虫の標本箱みたいにガラス張りになっており、祖父が言うには、その箱の中にはきわめて小さな体をした人間が沢山棲んでいるのだという。だから毎日水や食べ物を与えたり、日光に当ててやらなければならないのだと。


「この箱の中では、1ミリが1キロメートルの長さになる。だからね、この箱は九州がすっぽり入るぐらいの大きさがあるんだよ」

 しかし箱の中はカビのようなものが所々に生えているだけで、だた眺めていても面白いものではなかったのを覚えている。それに、アメリカやロシアが大きいことは知っていたが、当時子どもだった私には九州の大きさが上手く想像できなかった。地球儀で探したら、日本でさえ小さなシミにしか見えないのだから。

「もう50年も前になるが、一度、箱の中を顕微鏡で調べたことがあってね。カビの生えたようなところを覗いてみると、建物のようなものがたくさん集まっているところが見えたのさ。それで、もっと倍率を上げてみると、人のような形をしたものが幾つも動いているのが見えたんだよ。彼らは歩いたり立ち話をしているように見えたが、その中にじっと動かない人が一人だけいてね。その人が男か女かは分からなかったが、その時、お互いに目が合ったような気がしたんだ」

 祖父は昨年死んでしまったが、葬式では、その箱の話はまったく出てこなかった。祖父の娘である私の母にそれとなく尋ねてみても、何の話かピンときていないような反応だったし、母方の親戚も皆、私の質問に妙な顔をするばかりだった。
 後日、遺品整理のために祖父の家で作業をしていると、それらしい箱を見つけてしまった。しかし、その箱は既にガラスが取り外されており、カビのようなものも見当たらなかった。

 それからしばらく過ぎたある日、私の自宅にスーツを着た女性がやってきて、祖父の箱を譲ってほしいと言ってきた。私は、遺品として貰ったものだから無理だと言ったが、女性はその箱がどうしても必要なのだと言って、私に百万円の札束を差し出した。私は、その場で5分ほど腕組みしながら考えたあと、そのお金で一緒に九州旅行へ付き合ってくれるなら譲ってもいいと彼女に提案した。すると彼女もまた5分ほど腕組みしたあと、分かりましたと言って了承した。冗談のつもりで言ったのだが、彼女の真剣な顔を見ていると断るのも悪いし、箱も、もういらない気分になった。

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 私が人間になったとき、私は淡い水色の、春物のワンピースを着ていました。頭には麦わら帽子をかぶり、腕にはバスケットをぶら下げていたので、まるで春の陽気に誘われてピクニックにでも出かけるような恰好だったでしょう。私は、デパートの婦人服売り場に置かれたマネキンでした。ですので、そのお店にいた人たちはマネキンが急に動き出したと思ったのです。しかしそのときの私はすでに人間になっていたので、正確にいうとマネキンが動き出したわけではありません。私は売り場の店長に挨拶をして、店内で騒動を起こしてしまったことや、もうマネキンとして働けないことを謝りました。季節はまだ冬だったので、外には雪が降っていたのを覚えています。


 私はデパート側の計らいで、婦人服売り場の店員として雇ってもらえることになりました。仕事の様子はいつも見ていたので、仕事を覚えるのにさほど苦労はしませんでしたし、同僚の方たちはとても親切にしてくれました。しかし、売り場に置かれているマネキンたちの視線にはどこか冷たいものがあり、私のことを疎ましく思っているように感じました。もちろん、マネキンに感情があるはずはないのですが、自分も昔はマネキンだったのですから、そう簡単に心を割り切ることもできません。
 結局、私は一年ほど働いたあと、デパートの店員を辞めてしまいました。

 仕事と住む場所を失った私は、あてもなく街を歩いていました。するとある日、ゴミ捨て場に裸のマネキンが横たわっているのが目に入り、私はしばらくその場から動けなくなりました。マネキンは男性の形をしており、仰向けになって空を眺めていました。私はゴミの中から見つけた服をそのマネキンに着せると、彼の体を抱えてその場を去りました。それから歩き疲れて公園のベンチに横になると、私は長い夢を見ました。

 夢の中で、私と彼は結婚し、子どもを作りました。あまり収入は多くなかったけれど、子どもを大学までやって立派に育て上げることができました。やがて子どもも結婚し、孫を抱くことができたのです。
 私は夢から覚めると、海の見える窓辺に座っていました。手を見ると皺だらけになっており、体も少し重く感じました。
「年を取ると皆そうなるのさ」と、傍らに置かれたマネキンの男性が言いました。「でも、君はそれで満足なのだろ?」
 海辺には、麦わら帽子の女の子が歩いていました。今日は、ピクニックにはよい天気です。

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 この街には巨大な塔が立っている。直径が一キロメートル、高さが十キロメートルもあるため近づくと壁にしか見えない。そして普通の塔と違って真っすぐに立っているわけではなく、地面に向かって弓なりにカーブしているため、遠くから眺めると今にも倒れそうに見える。ちょうど糸を垂らした釣り竿のように見えることから『巨人の釣り竿』と呼ばれることもあるが、もともとは空に向かって真っすぐに伸びていたものであり、それが数千年ほど前から傾きはじめて現在の状態に至ったのだという。専門家が構造を調べた結果、毎年ほんの少しずつ地面に向かって傾き続けてはいるものの、あと千年は何の問題もないという結論が出されている。
 とはいえ、塔がいつ倒れるか分からないという不安は街に暮らしている者なら誰でも抱く心理である。そのため、塔が倒れようとしている方向にある(つまり塔が倒れた時に潰されてしまうであろう)細長い形をしたエリアは、誰も好んで住みたいとは思わないため、昔は貧しい者が暮らす地域として知られていた。しかし、戦後の経済成長によって街全体が豊かになったことで問題のエリアに住む者が減ったため、現在ではその跡地に広大な公園が整備されている。
 その公園は、一番迫力のある方向から塔を眺められる場所ということで観光地になっており、私はその公園で観光客を相手にアイスクリーム売りをしている。公園には他にも玩具を売ったりビールを売ったりする者がいて、それぞれに自分の屋台を構えている。私が売っているアイスクリームはどこにでもあるような普通のものだが、特徴を出すために塔の形をまねた大き目のクッキーを突き刺している。そしてアイスクリームを手渡すとき「今日は暑いので、どうか塔が倒れないうちにお召し上がり下さい」という決め台詞を言うことにしているのだが、特に客から反応が返ってくることはない。隣でビール売りをしている女はそんな私の姿を見ながらよく笑っている。
「毎日笑わせてるんだから、たまにはビールでもおごってくれ」と私は言う。
「じゃあ、わたしはアイスクリームが欲しいわ」と女は言う。
 私たちはベンチに座って商品を交換する。
 私がビールを飲むと、女はアイスクリームに突き刺さったクッキーを地面に捨てる。
 クッキーに群がる鳩。
 空を昇る風船。
 私は女の顔にビールをぶちまけたあと、女に長いキスをする。
 きっとそんな日に、塔は倒れる気がするのだ。

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