アメリカの友人

小説と詩を書くブログ。

2009年04月

朝の
澄んだ空気のなか
祈りを捧げる
やり方は知らない
ただ目を閉じる
まぶたが
太陽のぬくもりを感じる
僕はダメな人間だと思う
死んだほうがいいと思う
そんな下らない
弱気な自分や
未来を信じて疑わない
キラキラした自分が
一つにとけて
まぶたにあふれた

祈りは届かない
ただ朝の
空腹を感じるだけ

いつもの木陰の

いつものベンチに

いつもの人が座ってる

春も

夏も

夕暮れの秋も

雪降る白い冬も

いつもの人は

いつものベンチ

いつもの場所に座ってる

うまく言えないけど

たぶん

それでいいのだと

私は思った


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 昼下がりだった。
「なんかね、そこの駅でね…」
 路上を擦れ違う通行人の口から、ふいに話が聞こえてきた。
「ベレー帽かぶった頭のおかしな男がね、駅で暴れたんだって…」
 駅の入口は――すでに野次馬の群衆で膨れ上がっていた。彼らはなぜか一様に、喪服のような黒っぽい服を着ている……なぜだろう?
 僕は黒い群衆を掻き分けながら駅の構内へ入って行った。二十人ほどの警官が群衆の真ん中に集まっているのが見えたが――ベレー帽の男など僕にはまったく見えなかった。
 僕は切符を買い、自動改札を抜けて駅のホームへ向かった。大きな紙袋を抱えたお婆さんや、無表情な女子高生と擦れ違った。
 電車を待つ間、僕はホームで煙草を吸った。近くにいたカップルのお喋りが、ふと耳に入ってきた。
「明日ね、地球が終わっちゃうんだって…」
「そんなわけないさ」
「ホントよ…」
 三本目の煙草に火を点けたところで電車がやって来た。カップルのお喋りはまだ続いていた…

 僕は電車に乗り込むと適当な場所に座った。車内はガラ空きだった。僕から離れた場所には一組の老夫婦とお坊さんがいて、割と近い場所に若い女が一人座っていた。
「ねえお爺さん、地球最後の日をどう過ごしましょうか…」
「不安なのかい?」
「ええ少し…」
 またその話か…。狂った男といい、喪服の群衆といい――誰か偉大な人間でも死んだのだろうか? お坊さんがなぜ電車なんかに乗ってるんだ…?
 ふいに若い女が、僕を見てウインクした…
「死んだのよ…、大切なものが…」

 やがて僕は電車を降りた。駅舎を出て空を見上げると――灰色の雲間から、こぼれるように太陽の光が差し込んでいた。僕はポケットから紙切れを取り出した。簡単な地図が書いてあるのだ。駅と薬局と、ちょっと入り組んだ道――地図どおりに歩いて行ったら――五分でアパートに辿り着いた。
 僕は部屋のドアをノックした…
「あら…」
 開いたドアから、妹が顔を覗かせて言った。
「ずいぶん久しぶりね…、ちゃんと生きてたんだ…」
 妹は妊娠している――お腹が風船みたいに、ポッコリ膨らんでる…

 妹は時間をかけて珈琲を淹れてくれた。僕は彼女と長い話をした…
「不安なの…、いろんなことがね…」妹は、膨らんだお腹に手を当てて言った。「この子、今どんな気分なんだろ…。ほんとは外に出たくないんじゃないかな…」

 …そんなことないさ

 …じゃあ兄さんは、どんな気分だった?

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「ありがとよ、旦那」
 ある冬の路上だった。子供達にいじめられていた犬を、私が助けてやったのは…
「旦那は最初、憐れなオイラのこと見捨てようとしただろ?でもオイラ見逃さなかったね。旦那の目に涙が光っていたのを…」
 よしてくれよと言って私がその場を立ち去ろうとすると、犬はズボンのスソを噛んで引っ張った。
「待ってくれよ旦那!お礼に酒でもさ!」
 犬は私を離そうとしなかった。それで仕方なく、犬に連れられ近くの焼鳥屋へ入った。

「もしかして旦那」犬はシッポを振りながら言った。「キレイなお姉ちゃんのいる店のほうがよかったかい?」
 私達は小一時間酒を呑み適当に世間話をした。店を出ると外はすっかり暗くなっていた。犬はまた別の店で呑み直そうと私を誘ったが、私は明日仕事があるからと言って断った。
「つまんねえな…」犬は自分の前足に目を落としながら言った。「オイラ、旦那と友達になりたかったんだ…」
 私たちはさよならを言って別れた。しばらく歩いて振り返ると、私のことをじっと見送っている犬の姿が見えた。私が手を振ったら、犬は暗い空に向かって遠吠えをした。星がきれいな夜だった…

 それから一週間ほど過ぎたある夜、私はまたあの犬に会った。ひどく寒い夜でどうにも一杯呑みたい気分だった。それで呑み飲み屋の明りを探していると私はふと犬の姿に気づいた。犬は、冷たい路面に力なく横たわっていた。近づいて体を揺すってやったが、シッポひとつ動かなかった。
「旦那、オイラ死んじまったよ…」犬は言った。「死ねば楽になると思っていたんだが、そうじゃないんだね…。オイラ、寒くてしょうがないんだ…」
 私は硬くなった犬を拾い上げ、腕に抱いたまま家へ帰った。家に着くと物置からシャベルを探し出し、庭の適当な場所を選んで穴を掘った。私は穴を掘り終えると煙草に火を点けた。肺いっぱいに吸い込んだ煙を、ゆっくりと暗い空に吐き出した。夜空に星はなかった。私は暗い穴の中に犬を寝かせ、上から土をかぶせた。それだけ済ませると私は酒を呑んで眠った。夢は見なかった…

 春になり、犬を埋めた場所から芽が出てきた…。芽は長い時間をかけて成長し――やがて見上げるほど大きな木になった…

 ある昼下がり、私が木陰で休んでいると一羽の小鳥がやってきた。小鳥は木の枝に止まり、さも自慢げに歌をうたったあと、木陰でうたた寝する私にそっと話し掛けた…

「ねえ旦那、アタシのこと好き?」

 
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 夢を見る機械というものがある。ひどく年代物の機械で、見た目や大きさは食パンを縦に入れて焼くトースターに似ている。機械の側面には赤と緑のランプがぽつんぽつんと並んでいて、まるで左右色違いの目を持ったロボットの顔のようにも見える。
「そんなんで、本当に夢なんか見れるの?」と彼女は言った。ソファーに寝そべって煙草を吹かしながら、彼女はテーブルの上に置かれたその奇妙な機械を退屈そうに眺めていた。
「人間が夢を見るための機械じゃないよ」と僕は彼女に言った。「機械が勝手に夢を見るのさ」
「それって、なんの意味があるの?」
「さあね…」
 彼女はあきれたように溜め息を漏らすと、新しいタバコに火を点けた。
 僕は機械の底からだらしなく伸びている、干からびた蛇のような電気コードを部屋の電源プラグに差し込んだ。何が起こるかしばらく眺めていたが、機械はまるで死体のようにじっと黙りこくっているばかりだった…。いつの間にか彼女は、ソファーに深く埋もれながら寝息をたてていた。世界の死にふさわしい、穏やかな昼下がりだった…。ある人は世界がまさに死につつあると言い、またある人はすでに世界は死んだと宣言していた。世界に死があるということが発見されたのはもうずいぶん昔のことだったような気がするが…、死の議論を続けている人間はまだいるのだろうか?
 僕は、お洒落なコンドームの箱のようにも見える煙草ケースから、彼女の煙草を一本抜き取って火を点けた…

 そういえばこの間、彼女は僕の名前をもう思い出せないと言っていた。僕は気にしなくていいと彼女に言った。それはきっと世界の死に原因があって、じつは僕も君の名前が思い出せないんだと…
「だけどお互い名前を知らないって、なんだか素敵ね」と彼女は言った。「まるで森の奥に棲むリスみたい」
「リス?」
「だって森の奥に棲むリスに、名前なんてないでしょ? だけど好きな相手のことはちゃんと知ってるの。匂いも、仕草も、秘密も…」
「リスに秘密なんてあるのかな?」
「誰にだって秘密はあるわ…」

 僕はそんなことを思い出しながら床に寝転んだ…。なんだか、やけに眠たくてしょうがなかった…。彼女は氷のようによく眠っている…。このまま千年でも、眠り続けることができそうな気がした…

 森に棲むリスは…、冬眠するんだっけ…?

 そのときだった。夢を見る機械はゆっくりと作動を始めた…
 世界に、死が訪れた瞬間だった。

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