アメリカの友人

小説と詩を書くブログ。

2009年12月

《二人で珈琲を》

この世で一番孤独な人に
私は会いに行った
挨拶をすると
彼は意外にも
親しげな微笑を私に返した
そして彼は私のために
時間を掛けて珈琲を淹れてくれた
私たちは何も語らず
ただ二人で温かい珈琲を啜った
孤独とは何かを
彼に尋ねるつもりだったけど
気がつくと
私は泣いていた
涙は
頬をつたいながら
珈琲カップの中へ落ち
ほろ苦い褐色の液体と
混ざり合った

私たちは何も語らなかった
ただ二人で
珈琲を啜った



《白い骨》

乾いた大地から
控え目に顔をのぞかせる
白い骨
風や太陽と
長い時間を語り合ううちに
ツヤのあった表面の
硬い細胞組織が
もろく
崩れかけていた

でも白い骨は夢を見つづけた
夜空に浮かぶ月を相手に
ただ夢を語りつづけた
望みは
永遠を手に入れること

ねえ無理かな?
すべてを差し出しても



《黒い湖》

静かに
私の
夜の黒い湖に映る

風に揺れる
ただ揺れている

私の
遠い夢
遠い過去
今は
遠すぎて
近すぎて
見えないもの
心の中にある
形のないものを
あつめて
流した

黒い湖



《吹き溜まり》

人知れず
吹き溜まりに集まった
枯れ葉や
砂や
よく分からない
塵(ちり)としか呼べないような何か
昔はみんな
形あるものだった
きっと誰かにとって
価値のあるものだった
しかしあるとき
捨てられ
バラバラに砕け
行き場を失い
風に飛ばされながら
ようやく辿り着いた

人はそんな場所を
吹き溜まりと呼ぶ

でもそんな場所から
誰も気にしない場所から
何かが
もう一度始まっていくような気がした



《影》

地面に落ちた
黒い影を眺めていた
それは人間のようで
懐かしくて
悲しい形をしていた

影はときおり
不安げに揺れた
それで私
影に話しかけたのだった

君の好きな場所へお帰り
もう充分だから
もう悲しいことなんて
何もないから

影は
夕暮れの鈍い光の中で
長く長く伸びて
もう形も
何もなくなって
さよならも言わず
帰っていった

見上げた暗い空に

一番星みつけた



《遠い昔のことのように》

白い綿くずのような虫が
花と花のあいだをとんでいた
やわらかな日差しのなかで
花も
白い綿くずのような虫も
揺れて
すべてが遠い昔のことのように
思えた



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《雨の日に傘をさして》音楽-5

わたし人間になれたら
雨の日に傘をさして
あの人に会いに行くの
歌を練習して
あの人に歌ってあげるの
そしたらあの人
教えてくれるはず
愛の意味や
夕焼けの意味を
秘密はなぜ
秘密にしなきゃいけないのかを
あの人
わたしの知りたいことは
なんでも知ってるの
だからわたし
人間になれたら
雨の日に傘をさして
あの人に会いに行くの



《虹》音楽-6

神様が泣いていたわ
まだ子供だから
無理もないわね
わたし子守うたなんて知らないから
一番きれいなうた
歌ってあげたの
するとその子
もう泣き疲れてしまって
わたしの腕の中で
すやすやと眠ってた
空に
大きな虹を残して



《今日が始まる》音楽-8

朝起きるでしょ
すると昨日とは少しだけ
何かが違うの
宇宙の中心軸が
1ミクロンだけずれたのよ
意味なんてないけど
今日が始まるの
新しいダンスを始めるみたいに



《力学》音楽-11

渡り鳥は眠りながら空を飛べる
日付変更線を越えながら
何千マイルも離れた故郷の夢を見ている
気流の乱れを感じ
渡り鳥はふいに目を覚ました
陸地は近い
遥か前方に
大量の煙を吐きだしながら
垂直に飛翔する巨大な鳥が見える
われわれの力学とはまるで違うな
と渡り鳥は思う
あんなやつでも夢を見るのかな?
あんなやつでも
愛はあるのかな?



《蝉》

近頃ふいに
蝉の声が聞こえなくなった
私は蝉を探して
夏の街を歩き回った
街路樹や
公園の木立を一つ一つ見て回り
いくつもの蝉の抜け殻を見つけた
しかし蝉の姿はない
宇宙へ翔んで行ったとか
海へ帰ったとかいう
噂があることも知っている
私は噂を信じない
ただ彼らを探し続けるだけ
夏が終わるまで



《カモメ》

彼女のダンスが見られると聞いて
私はこの街にやってきた
夏の間
私は暗くてじめじめしたアパートや
品の無い酔っ払いが集うバーで
ビールを飲みながら過ごした
そしてときどき
私は海を見に行った
空飛ぶカモメが
私を見て笑っていた

夏の終わり
彼女はこの街から去ったのだという
私は海から帰る途中
酒屋で安ワインを買った
嫌な味のするワインだった
私はボトルを半分ほど開けると
そのまま眠った

夢の中で
カモメは言った
水平線のむこうに
希望はあるのかい?
あまりいい話は
聞かないがね



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信じる?

何を

なんでもいいわ

じゃあ雪を信じる

きれいだから?

そうきれいだから

きれいならなんでも信じる?

ほんとにきれいなら

ほんとにきれいって何?

心が知ってるもの心しか知らないもの

心って何?

ここにあってどこにもないもの

心はまぼろし?

違う

信じてる?

たぶんね

信じるって何?

街路樹の落ち葉は

何も語らなかった

風に吹かれるまま

人に踏まれるまま

ただそこに落ちていた

どうか私のことは気にしないで下さいと

落ち葉は僕に言った

私は宇宙の秘密を知っています

でもあなたにどう説明したらいいのか

途方に暮れるばかりです

そんなに私を見つめないで下さい

私はただの落ち葉

どうか行って下さい

語るべき言葉など

私には一つもないのです

どうか……



僕は冬の街路樹を歩いていた

長い長い街路樹を歩いているうちに

日が暮れて

僕は

失ったものに

ようやく気が付いた

でも

それさえすぐに忘れて

また歩き出した

落ち葉を踏みながら




空が切れた場所に

メッセージを残していった

あなたの意地悪

わたしは

遠く水平線を眺めながら

途方に暮れながら

死にたいと思った

気持ちを殺さなきゃ

とうてい

生きて行けないもの

分かるでしょ?

それくらい

翼は

もうどこにもない

もう

どこにも行けない

感情だけ

海に流して

眠るの

今夜も

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