アメリカの友人

小説と詩を書くブログ。

2012年04月

福島を
片仮名のフクシマと呼ぶことは
まだ出来ないはずである

でも
確かに事故を起こした福島第一原発から20km圏内は
片仮名のフクシマと呼ぶしかないかもしれないが
20km圏内の外はまだ
「福島」と「フクシマ」の間で日々を戦っているのであり

絶望と希望の間で
心も体も
家族も友人も恋人も 
日々 聞こえない悲鳴を上げながら

人生も故郷も
日々 その見えない気持ちを

放射能という とんでもなく鋭く 重厚な刃物によって
毎日を ズタズタに
ボロ布のように引き裂かれているのである

そこには迷いがあり
弱さがあり
または強さがあり 諦めがあり
強がりがあり 愛があるのであって
そんな誰よりも人間らしい人々が 今も息をしている場所を
片仮名の「フクシマ」と
簡単に呼んでいいはずがないでしょ

まだ現実という暴力に対して
死ぬほど抵抗する前に
白旗を上げてしまうなんて根性なさすぎだと思うし

まだ「福島」は
断じて「フクシマ」であっては
ならないはずでしょ

ホルマリン漬けの胎児は

時間を奪われた代わりに
夢を見ることを赦された
DNAの配列を頼りに
透明なガラス容器の外に拡がる
世界の色や温度を想像した
そして一度も吸ったことのない空気の味や
あたたかい海の中で聴いた
絹ずれの静寂と
それから日本語や
その隙間を埋めようとする沈黙を想像した
ホルマリン漬けの胎児は

目が見えない代わりに
夢を見ることを赦された
透明なガラス容器の内側には夢も現実もなく
ただ不自然に配列されたDNAがあるだけで
ホルマリン漬けの胎児は

人間の姿を与えられなかった代わりに
夢を見ることを赦されたので
ねじ曲げられたDNAの配列を頼りに
透明なガラス容器の外に拡がる
光の欠片をひろい集め
かつて胎児をお腹の中で守ってくれた母にホルマリン漬けの胎児は

そのキラキラした欠片の名前を記憶の海に沈む母の声にその名前を教えて欲しいと
そう思った

111028
《私たちの秘密》
夏の木の下で待っていた
あなたの白いワンピースは不満そうに膨らみながら
あなたの体を地面から奪い取ろうとしていた
でも浮き上がろうとするそのタイミングに
私が精一杯走ってあなたの腕を握ったから
あなたはようやく空に奪われなくて済んだのですよと
あれから百年後の秋の木の下で
やはり私を待っていたあなたに説明すると
あなたは赤いカーディガンの奥から腕を伸ばし
もう動かなくなった私の心臓を掴んだ
木の上に棲むリスは
秋の実をじっと握りしめながら
私たちの秘密を静かに語り始めた
まずはこの世界が
生まれた理由から


110917
《今あなたが息をしてることと同じくらい普通のこととして》
福島で生まれ
福島で育ち
福島で結婚をして
福島で子どもを産みたい
っていう当たり前なことさえ
今の福島じゃ無理かもしれないってことも
私じゅうぶん分かっています
だけど私にとって一番大切なことはね
今この瞬間を
たしかに生きているっていうこと
そして
「福島」っていう場所で
ちゃんと息をしながら生きてる人がいるっていうことを
今あなたが息をしてることと同じくらい普通のこととして
あなたに認めて欲しいってことなんです
それに福島には
「死のまち」なんてありません
福島にあるのは
どこにでもあるような日常の中で
どこにでもいるような人々が
一秒一秒を生きているっていう現実だけです
もし何かが死んでいるのだとすれば
それはきっと場所じゃなくて
それはきっと
私やあなたが
福島のために良かれと考えながら切り捨てた
心の一番柔らかい部分です
柔らかいから一番よわくて
一番すてきな部分です
だから心は夢を見て 矛盾して
引き裂かれて 悲鳴を上げて
だけど
私いろいろと考えて
やっぱり

福島で幸せになりたい って

はっきり声に出して言います
そして
いつか好きな人の腕の中で
死をうけいれながら
福島は決して死んでいなかったっていうことを
心を忘れなかったことを
私 世界中の人たちに
教えなきゃいけないから



110928
《猫は最後の血をあなたのバスタオルに吐きながら》
天地がひっくり返ったまま
なんとなく続く
日常のスクリーンの中に
わたしがいて
あなたがいて
死にかけた猫がいて
乾いた秋の空気の中で揺れる
洗濯物の白いシャツにとまった草色のバッタが
一瞬だけわたしを見たあと
「ぴょん」と言いながら夕日に向かって素っ気なくジャンプした
猫は最後の血をあなたのバスタオルに吐きながら
「幸せだったよ」とわたしに最初の強がりを言った
日本語で


110913
《ウサギだって燃えてる》
笑う
泣く
時々 殺す
プレーンヨーグルトに蝿が沈む
地デジチューナーから煙が出る
ウサギが指をなめる
震度3
僕のヘソの緒をかじった虫から
ストロンチウム90を検出
その因果関係は
三角関係のこじれが原因だと報道官は伝える
ウサギはめったに鳴かない
僕は蝿の沈んだプレーンヨーグルトを棄てる
震度5弱
ツイッターの炎上を横目に眺める
もっと別の生き方もあるのかもしれないと思う
リカちゃんが人形をやめる日
僕は人間をやめるかもしれないと
送るあてもないメールを 透明な空気に向かって打つ
震度8
ウサギが鳴く
僕のヘソの緒がゆっくりと溶融する
本当にこれで良かったのか?
地デジチューナーはすでに炎に包まれ
リカちゃんは衣装を脱ぎすて表情をゆるめる
これで私も人間になれたわ
着せ替え人形なんてウンザリだったの
ねえ 最初の柔らかいキスをして
しかしマグニチュード9だぜ
と言って僕は熱で歪みかけたリカちゃんをなだめる だってチェルノブイリ級のレベル7なんだぜ
そんなの関係ないわ
しかしウサギだって燃えてるぜ
なんて完全に終わった顔しながら叫んでるあなただって
真っ赤な夕日みたいに
キラキラと燃えてるよ


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