アメリカの友人

小説と詩を書くブログ。

2013年11月

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 屋上の錆ついた扉を開けると空が青かった。屋上には日光浴をしてるビキニ姿の女がいて、ぼくに気付くと体を起こしてサングラスを外した。
「あなた自殺するの?」
「まあね」
「あいにくだけど、自殺を止めるのがわたしの仕事なの」
「仕事? ぼくには関係ないね」
 ぼくは女にかまわず屋上から飛び降りた……。でもその瞬間から、まるでスローモーションみたいに落下していくばかりで、いつまで経っても地面にたどり着かない。そのうち眠たくなって瞼を閉じると、ぼくは長い時間、クラゲのようにどこかを漂っていた。あるいは時間が止まったのかもしれないが、ふいに風を感じて瞼を開けると、そこには白い砂浜と青い海が広がっていた。
「残念だったわね」
 さっき屋上にいたビキニの女が、砂浜に寝そべってぼくを見ている。
「こっちに来て、一緒にビールでも飲まない?」

 ぼくは女と結婚して浜辺に小さなホテルを建てた。週末や長期休暇になると客で賑わった。ある老夫婦がホテルに訪れたのは、客の少ないの夏の終わりだった。
 その日の夕食が済むと、ぼくは老紳士から酒に付き合ってくれないかと誘われた。いいですよとぼくは答え、老紳士を浜辺の見えるテラスに案内した。老紳士とぼくはウイスキーを飲みながらありふれた世間話をしていたが、一時間もすると話すこともなくなった。暗い海を二人で眺めていると、老紳士は何かを思い出したように話を切り出した。
「実はね、知ってるんだよ。私も君と同じなんだ。つまり失敗したのさ。自殺を」
 ぼくは耳を疑ったが老紳士はかまわず話を続けた。
「私の妻はあの時の女さ。あのビキニ姿の。まさかこんなことがあるとは夢にも思わなかったよ。君もそう思っただろう? 彼女はいい女さ……。実はね、世間には君や私の同類が沢山いる。でもお互い相手に気付いても声を掛けることない。みんな過去を思い出したくないんだね。本当は私も、君にこんな話をするつもりはなかったんだが歳をとったせいかな。つい話したくなったんだよ」
 老紳士はしばらく黙り込んで遠く眺めていた。ぼくには彼が泣いているように見えた。
「私と妻の間には娘が一人いてね。妻に似たかわいい子だったんだよ。でも大学生のとき、夜道で男にレイプされて、そのあとノイローゼになって自殺したんだ……。私はいつも考えるんだがね、娘も、君や私と同じように、白い砂浜でいい相手と出会えたのだろうか? そのことが気がかりでならないよ」

 神様に名前をもらった夜、私は朝がくるまで星の数を数えた。

「新政府は、現日本政府に失望したすべての日本国民を受け入れ、われらとわれらの子孫のために、放射能被曝の脅威から人々を救済し、再び戦争の惨禍へと国民を導かんとする国家ファシズムの暴走を断固阻止することを決意し、ここに、生存を求める権利がすべての人々に存することを宣言し、この憲法を確定する。」

 テレビは昼間から風の谷のナウシカを放送している。チャンネルを変えるとACジャパンのCMが繰り返されたあと、やはりこちらでもジブリの風立ちぬが始まった。

「そもそも人間社会は、そこに暮らす一人一人の信頼により成り立つものであって、その秩序は一人一人の善意に由来し、その正義はより弱い立場の者のためにこれを行使し、その利益は一人一人の幸福のためにこれを享受する。これは人間社会を存続させるための原理であり、この憲法は、かかる原理に基づくものである。われらは、これに反する一切の国家体制及び政治勢力を拒否する。」

 私は冷静にテレビを消し2週間ぶりに部屋の窓を開けた。ネットの情報では絶対に窓を開てはいけないことになっていたが、空がよく晴れていたので私は1分だけ窓を開けることにした。

「新政府に集うわれらは、未来を生きる人々の存在を常に考え、今生きている人々と同じように、彼らにも未来において生きる権利があることを想像しなければならないのであって、そのように続いてきた人類の営みを肯定し、われらと未来の人々の生存を保持しようと決意した。」

 私はディズニーランドに行ったことはないが、核ミサイルが落ちた場所はその辺りだという。近所のスーパーは、白マスクをした客が増えたこと以外はたいして変わらない。多少品数は減ったような気もするが、必要な物を揃えるには十分な量だ。くまモンの牛乳や、くまモンの殺虫剤まで置いてある。

「ワンぷっしゅでイチコロだモン」

 アイス売り場の冷凍機の中には小さな子どもが横たわっている。子どもは色々なアイスに埋もれながらただ眠っているのか、それとも死んでいるのか。誰も気には止めないが、子どもにはここが一番安全な場所なのかもしれない。

「僕は星を数えることを諦めた。少しだけ眠ったあと、僕は死ぬことがこわいと思った」

 私は精肉売り場でアメリカ人の肉と日本人の子宮を買ってスーパーを出た。中国人の眼球も沢山あったが、私は眼球の調理法など知らない。

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