新しい家に引っ越してすぐに親しくしてくれていた前のお宅のおじいちゃん。この街のことや近くの山のことなど親切に話してくれたり、植えやすい季節を見計らっては珍しい苗木を分けてくれたりしていました。一昨日27日の朝もおすそ分けしたリンゴのお礼にとアヤメの株をたくさん持って来てくれました。
「今日は足がふらふらするので植え付けの手伝いはできませんが、穴を掘って腐葉土を入れて植えてください。よく育ちますよ」
そう言って帰っていく後ろ姿は確かに足元がおぼつかない様子でした。

そして午後、仕事を終えて帰宅してしばらく経って前のお宅のおばあちゃんがいつものスクーター音を伴って帰宅。それから小一時間くらい後にパトカーが家の前に横付け。そうこうしていたら鑑識の人らしき服装の数人が車2台で。
「何かあったんだろうか」と大王さまと2階のベランダからこっそり覗き見ていました。なかなかパトカーも去らず、そのうちにご近所に聞き込みをはじめました。我が家にも。
おじいちゃん、外出したまま家に帰っていないとか。
「実は今朝なのですがアヤメを・・・」
そう話したらインターホンのモニターを見せてほしいと。サクラさんとローマは時ならぬ珍客にワンワンギャーギャー大騒ぎ。しっかりとモニター画面やら頂いたアヤメの株やらの写真を撮り、私の氏名、生年月日、電話番号まで聞かれました。手帳にメモしてるのはまさに刑事ドラマみたいで何らやましいことをしていないのにドキドキしてしまいました。ちなみに警察の人、テキパキと問答しながらも我が家の骨董コレクションを痛くお気に召したご様子で、
「私も仏像が好きで弥勒菩薩が欲しいんですよ」
など、堅物イメージのポリスマンからそんな予想外というか想定を越したことを言われて何やら胸がドキドキしたのは何だったのでしょうか。ご同好の士現る!!みたいな。
大王さまが「気になるので我々が散歩しているコースを歩きながら探してみようか」と。「それは妙案」と意見が一致して、さて出かけようとした瞬間に聞き込みをしていた弥勒ポリスと鉢合わせ。おじいちゃん見つかって今は病院に運ばれたと教えてくれました。


さてそれから数時間後の夜8時過ぎ。サクラさんを庭に出していた大王さまが、
「兄さん、どうやら葬儀屋さんが来ているみたい」
見れば慌ただしく人の出入りが。なんという結末に。その数時間前だった朝がまさか今生の別れになってしまうとは。まさに蓮如上人の白骨の御文章。
「我や先、人や先、今日とも知らず、明日とも知らず、おくれ先だつ人は、本の雫、末の露よりもしげしと言えり。されば、朝には紅顔ありて、夕には白骨となれる身なり」
人間の一生、それも最期ってドラマチックであり、そしてショッキングさを含むのですね。
「命に別状はなかったのですね」と弥勒ポリスに聞いた時にどうも歯切れが悪かったのは、どうやらその時にはもう良くないことになっていたのかもしれません。

アヤメ
植えて雨が降ってアヤメの命の長らえ。おじいちゃんの形見になりました。

いただいたアヤメの株ですが昨日庭に3ヶ所と大きな植木鉢に寄せ植えをしました。これからこの花が咲くたびにおじいちゃんのことを思い出すことでしょう。
「何だかなぁ・・・」と独り言を言いながら形見になってしまったアヤメを植えていく私。これを貰わなかったらおじいちゃんとの最期の別れもなかったのかと。おじいちゃん、あの朝はおばあちゃん不在を見計らってお別れに来たのかなぁと思うと僅かなお付き合いだったけれど寂しくなってきています。聞けば散歩中に転倒してそのままだったとか。おぼつかない足元を見た時にもっと大切にと進言しておけばよかったと悔やまれます。人の運命なんて一寸先がわからない。産まれて来し方の、これを定命というのでしょうか。無常ですね。
ご自宅から葬祭場に向かう霊柩車をアヤメを持って来てくださって立ち話をした我が家の玄関前で見送った今日。冷たい雨で4年に一度の2月29日がしとどに濡れているような一日になりました。遣らずの雨か。