レーシック手術を受けた後、ドライアイが強くなって来院される患者さまがいらっしゃいます。
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「どうされましたか?」
「目が痛いんです。しょぼつきや充血も強く困っています」
「角膜に瘢痕がありますが、近視矯正のレーシック手術を受けられていますか?」
「はい。2年前に。以前からしょぼつきがあってコンタクトレンズをつけるのが苦痛でレーシック手術を受けましたが、レーシック手術を受けてからそのしょぼつきがさらにひどくなってきました」
「レーシック手術を受けた眼科で相談されましたか?」
「レーシック手術を受けたところの眼科でも相談しましたがドライアイと言われました。 目薬を使うように言われたのですが少しも改善しないのです」
「これが今とった写真です
白く色が付いている部分は角膜の傷です。レーシック手術によりドライアイがさらに悪化した可能性があります。 まずはこちらでも点眼を使ってこの傷が治るかをみてみましょう」
「ずいぶんとひどいんですね。もう一度点眼を使い乾燥を取ってみます」
(⇒1週間後)
「どうですか?」
「まだよくありません。 相変わらずしょぼつきが残っています」
「そうですね。まだキズが残っていますね。 ひどいドライアイになっているようです。 涙点プラグを入れてみましょう」
「それは何ですか?」
「涙の出ていく出口。涙の排水口に相当するところにプラグでふたをして涙をためる方法です。 この下の写真のように、プラグでふたをして涙をためるのです。 痛い治療ではありません」
「はい。やってみます」
(⇒数週間後)
「どうですか?」
「はい、すっかり良くなりました。 涙点プラグを入れてからすっかりしょぼつきは治りました」
「逆になみだ目にはなっていませんか」
「少し涙がたまりますが気になるほどではありません」
「これが今撮った写真です。リング状に色が付いているのはレーシック手術を受けた時の瘢痕でキズではありません。以前の写真と比べてもキズはすっかり治っているでしょ」
「はい。楽になりました」
「涙点プラグを入れた後でも目薬は引き続いて入れておいてくださいね」
(レーシック後に起こる眼精疲労と老眼の進行についてはこちら)
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レーシック手術の普及とともにこのような患者さまを時々みるようになってきました。
レーシック手術は角膜を切開したあとにレーザーを当てて近視を治すのですが、切開するときに角膜の知覚神経も切れてしまいます。
知覚神経は角膜の乾燥を感じ取って涙腺に涙の分泌を促す機能があります。
レーシック手術直後の目は知覚神経が切断されているために、目が乾いても涙の分泌の命令が神経を介してできず、乾燥状態が持続しています。
また角膜の上皮細胞にはムチンというネバネバ物質を分泌する機能があります。そのネバネバ物質が涙を角膜にくっつけてくれる作用を持ちます。
角膜が切開されたときに上皮細胞にダメージが生じ、ネバネバ物質も不足してきて目薬をいくらさしても角膜に涙がのらない状態にになってしまいます。
通常は切断された知覚神経やネバネバ物質の不足も通常は数カ月から1年で回復することが多いのですが、中には十分に回復しないこともあります。
この方のように、もともとドライアイがひどくてコンタクトができないためにレーシック手術を受けた方が、レーシック手術を受けることでドライアイの症状がさらにひどくなることがあります。
この方は2年たっても改善していないことから今後ドライアイが元の状態に戻る可能性は少ないと思います。
レーシック手術はかなり精度がよくて多くの患者さまがよく見えると満足されています。
しかし中にはこの方のように、レーシック手術を受けてからドライアイがひどくなって困っておられる方もいらっしゃいます。
どんな手術でもそうですが適応を誤るとひどいことになってしまいます。
特に乾燥が強くてコンタクトができないためにレーシック手術を考えておられる方。このような方はごく一部ですが、そのようになる可能性もありますので、十分慎重に考えられたほうがよいでしょう。
またレーシック術後にこのような合併症が生じた時には、術後1年間は保険適用はされず、お薬を含めて全額自費診療になります(詳しくはこちら)。
●レーシック手術についての安全性について日本眼科学会と日本眼科医会の見解について書いたブログはこちら
●屈折矯正手術についてのガイドラインについて書いたブログはこちら
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●中高年のレーシック手術について考える