□6味のほか「後味」の計測も可能 飲みやすい薬や水質検査に応用

 「味」を伝えるのは難しい。甘さ、辛さ、苦さなどが複雑にからみ合い、感じ方は人によって違うからだ。九州大学大学院システム情報科学研究院の都甲潔教授は、食品の味わいがどんな要素の組み合わせで成り立っているのかを分析できる「味覚センサー」を開発した。味を感じ取るときの舌の反応を再現し、客観的な「ものさし」で味覚を測ることに成功した。(伊藤壽一郎)

 ■舌の電位変化を再現

 人間の舌は、主に酸味、塩味、甘味、苦味、うま味の5つの味を感じとる。味物質を受け取る味細胞があり、表面にある生体膜(脂質二分子膜+タンパク質)に食品が触れると、細胞内に電位変化が生じる。その信号を神経回路網経由で受け取った脳が総合的な味わいを判断している。

 1985年に味覚センサーの開発をスタートした都甲教授は、舌の反応にターゲットを絞った。

 「脳が感じる味わいは主観が入っているので、普遍性がないし再現が難しい。しかし、味細胞の反応は電位変化だから客観的な数値で表現できるはずだ」

 生体膜代わりに使ったのは、生体リン脂質や合成脂質をポリ塩化ビニールと組み合わせて作製した人工脂質膜だ。さまざまな反応感度の人工脂質膜を同時に使い、味物質に触れたときの電位変化を計測することに成功。酸味や塩味など、味ごとに電位変化のパターンがあることを突き止めた。89年のこの成功が味覚センサーの基礎技術となった。

 ■プリン+しょうゆ=ウニ

 2002年には九州大学発のベンチャー企業である「インテリジェントセンサーテクノロジー」(インセント、神奈川県厚木市)とともに、製品化へ向けた共同開発を開始。07年に味覚センサー「TS-5000Z」の発表にこぎつけた。

 酸味、塩味、甘味、苦味、渋味、うま味の6つを個別に計測でき、味物質が膜から離れるときに生じる電位変化から、余韻のような「後味」まで測れる。

 総合的な味覚は、味要素のバランスで決まり、まったく異なる食材でも味パターンが近いと味も似る。

 プリンにしょうゆを足すとウニの味になる。「牛乳+たくあん」でコーンスープといった意外な関係も、味パターンがよく似ているからだ。

 「食品や飲料メーカーの商品開発に、味覚センサーが利用される機会が急増している」と、インセントの池崎秀和社長は語る。

 ライバル社のヒット商品の分析や、地域ごとに好まれる味の調査に基づく新商品企画のほか、行列ラーメン店の味の再現と確認に使うなど、活用例は尽きないそうだ。

 ■目標は五感センサー

 味覚センサーの用途は食品だけではない。医薬品系の苦味に反応する人工脂質膜も開発ずみのため、飲みやすい薬の開発にも役立てられるという。さらに「上水道などの簡易水質検査に使って、手軽に素早く異常を検知することも可能だ」と池崎社長は話す。海外企業からの問い合わせも増えているという。

 都甲教授は次のステップを目指している。

 食べものの味は舌からの情報だけでなく、香りにも左右される。そこで、鼻腔(びこう)内の嗅細胞を人工的に再現し、香りを電気信号に置き換える「嗅覚センサー」が完成に近づいている。

 都甲教授は、「食べるという行為は人間が唯一、五感を総動員して行うもの。最終的にはすべてを測れる五感センサーを、4~5年以内に完成させたい」と話している。

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