2010年09月05日

最近読んだ本の感想から

amazonに書いたレビューを加筆修正。文体は不統一です。

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平井玄『愛と憎しみの新宿 半径一キロの日本近代史』(ちくま新書)

著者の平井さんより3つ下の私がおぼえている新宿は、工事中でいつもびしょびしょの狭い東口の地下道、開演に遅れて席を探していたりすると異様に真剣なお兄さんお姉さんに蹴飛ばされる日活名画座(今思い出すとそんなに大した映画ではなかったのだが)、紀伊国屋書店はもちろん行ったけれど64年で9階建てって、そんなに立派だったかなあ(もっと小さかった印象)。
この本は2丁目の洗濯屋の息子として生きた平井さんの記憶、新宿という街の江戸時代以降の風俗史、60年代文化、闘争、漱石さんら文学者の目を通しての新宿などを、ノスタルジーに閉じ込めることなく活写している。そして最後にはこの街を拠点に活動する店ベルクの持つ意味合いが描かれる。
敷石をもう一度はがすように書き抜かれるこの本を通して気がついたことは、現在の知性や面白い事象がじつはきわめて抑圧的なもので、つねに何かを隠そう忘れさせようと作用しているということ。ノスタルジーにひたったり、もっともらしい知識を消費して、もう一度面白いことに出会えないかと待っていてはダメなんだ。ここにいることを認めさせるような停滞しない知性を持って生きなければということ。
勉強になりました。ありがとう。


ロベルト・ボラーニョ『通話』(白水社)

チリに生まれ、放浪生活を続け、評価されながら若くして亡くなった作家の短編集。一読して思うのは、どの作品もカタルシス、解決、答えを出すことを拒絶しているということ。
生涯にわたって作品を各地方の文学賞に応募して貧しく死んでいった亡命作家との交流を描く「センシニ」、故郷を離れて客死する男「芋虫」、ポルノ女優の回顧的独白「ジョアンナ・シルヴェストリ」、ヒッピー世代の米国女性の一生を書いた「アン・ムーアの人生」など、そこに一貫して現されるのは移動、不安定、不定住の感覚。だから読者も一箇所に落ち着いて鑑賞することを許されない。それが新鮮だった。
チリのアジェンデ政権崩壊、人々の亡命、流浪といった体験が作者の物の見方に焼きついたのか、独特な味わいがある。


高橋源一郎『「悪」と戦う』(河出書房新社)

ただの 悪 ではなく「悪」であることがミソなのかもしれない。
語り手である小説家の夢想の中で、少年に変身した幼児ランちゃんは、人類に危機にさらされた動物たちのために殺人することを求められたり、いじめに加担したりいじめられたり、最後には愛されてぼろぼろになったぬいぐるみを引き裂くことを求められたり。これは作者が自分の子どもにプレゼントした、既成のヒーローものではない戦いの物語なのかもしれない。
最初と最後の小説家の語りは、ケストナーさんの少年小説の前説を思い出させて割といい感じだったり、かつてのあくどいまでの既成のキャラクターの引用も抑えられている。そして、読みやすい。しかし、読み終わって何を読んだのかという思いが残るのはなぜだろう。あまりにも、現実の戦い、世界と切り離されているからだろうか。
ある意味でこれは、遅れてきたマンガであり、ファンタジーなのではないかと思う。そしてそれを喜ぶのは、ギョーカイ人とそのファン層、予備軍かな、とちょっと意地悪な気持ちにもなった。著者自ら陣頭に立ったツイッターでの宣伝を朝日新聞が記事として取り上げるという、ギョーカイぐるみのツイッター・マーケティングの成功例にもなった。
一種「親バカ」小説という見方もできるけれど、「仮面ライダー」のTVシリーズのイケメンの若者たちが演じる、どさくさまぎれの正義のリアリティや戦いには遠く及ばないと思った。


森山大道+仲本剛『森山大道 路上スナップのススメ』(光文社新書)

森山さんの写真集を見ると、自分で写真が撮ってみたくなる。この本はインタビューをはさんだ小写真集だけれど、やっぱり撮りたくなってデジカメを持って街に出た。何十枚か撮ってみて、振り返って思うのは森山さんの路上スナップのすごさ、接写とロングショット、人と風景、そのバラエティ。
建物や路上のモノを撮るときはそれほどでもないのだけれど、人を撮るのはやはり緊張する。まかり間違えば痴漢的な、覗き的な行為になりかねない(近所で女子ばかりを撮っていた男性が詰問されたという話も聞いた)。いきおい、中途半端な、ちょっと目をそらしたような写真になってしまったりする。そこを乗り越えていくのに必要なのは、森山さんも語っているように、見ること、何を見たいのか、撮りたいのか、という、撮影行為を重ねながらの自分への問いかけなのだろう。それがないと路上スナップは、つねに単なる覗きになる危険がある。この本はそんなおさらいをさせてくれた。新書版で手頃な値段で最近の森山ワールドが楽しめるのも魅力。
PS あ、森山さんもトリミングするんだ。当たり前??  

Posted by f4511 at 10:16Comments(1)TrackBack(0)