2015年01月19日

問題系

◯5年前に出て、まだ僕がうつ病の薬を手離せない状態だったこともあって、飛ばし読みしてしまった、鶴見俊輔さんの『新しい風土記へ』(朝日新書)と『思い出袋』(岩波新書)を家から持ってきてもらって、ゆっくりゆっくり再読。前者は対談集、後者は月一回で7年に渡って書き継がれた短章集。一見軽そうで、ゆっくり読むと、立ち止まらざるを得ない箇所につまずく。
 『新しい風土記へ』では、アジアの国境地帯で活動する中村哲さんやホスピスケアのある診療所を運営する徳永進さんの、裏付けのあるさりげない言葉。さらに、中国の日本研究者、孫歌(スン・グー)さんとの、竹内好さんの戦争中の、反動的ととらえられかねない文章に、抵抗の姿勢を見抜く姿勢、池澤夏樹さんの北海道や沖縄に移り住むことで、東京中心の世界観に毒されずに、そこに生きる人々の怒りを感じられるようになるといった指摘が、さっと読み飛ばせない重さを持つ。読み終わったと思わずに、何度もページを開いてみたい。

◯ーーメディアが急速に力を失っている理由は 、(略) 「誰でも言いそうなこと 」だけを選択的に語っているうちに 、そのようなものなら存在しなくなっても誰も困らないという平明な事実に人々が気づいてしまった 。そういうことではないかと思うのです 。
 内田樹さんの『街場のメディア論』(光文社新書)了。メディアを贈与と返礼という視点で捉え、ビジネスとしか考えられなくなっている現状を批判。僕も本や音楽にもらったものを、いまだに返そうとしている気がします。

◯ーー個別的な理由ではなく 、もっと根本的な理由でアメリカはイスラ ームと 「不俱戴天 」の関係にはまり込んでいる 。それはアメリカ主導のグロ ーバリゼ ーションはイスラ ーム圏が存在する限り成就しないからです。(内田樹さん『一神教と国家 イスラーム、キリスト教、ユダヤ教』集英社新書、中田考さんとの対談より)
ーー国民国家 ・領域国家それぞれの主権と独立性を強化し 、隣国との利害の対立を強め 、国民同士が憎しみ合うように仕向ける 。つまり国民国家 ・領域国家を強化するという政策が選択される 。それがイスラーム圏におけるアメリカの基本的な戦略だと思います 。(同)
  内田樹さんとイスラム学者であり信者・活動家である中田考さん(最近ではイスラーム国に日本人学生の参加を仲介したことで話題に。[メモ]女子大量誘拐はボコ・ハラム)の対談『一神教と国家 イスラーム、キリスト教、ユダヤ教』集英社新書)了。まずは理解する努力から。「国民国家 ・領域国家」という枠組みに押し込まれることによって、歪められてしまった、イスラームの他者に優しくなければ生き延びられない遊牧民文化のポテンシャルの高さを思う。ユダヤ教については、また別の本を、内田さん、出されているんですね。読まねば^o^

◯ーーにもかかわらず 、バブルが崩壊すると 、国家は資本の後始末をさせられる 。資産価格の上昇で巨額の富を得た企業や人間が 、バブルが弾けると公的資金で救われます 。その公的資金は税という形で国民にしわ寄せが行きますから 、今や資本が主人で 、国家が使用人のような関係です。(水野和夫『資本主義の終焉と世界の危機』集英社新書)
ーー財政均衡を実現するうえで 、増税はやむをえません 。消費税も最終的には二〇 %近くの税率にせざるをえないでしょう 。しかし 、問題は法人税や金融資産課税を増税して 、持てる者により負担をしてもらうべきなのに 、逆累進性の強い消費税の増税ばかり議論されているところです。(同)
ーー現在取りうる選択肢は 、グロ ーバル資本主義にブレ ーキをかけることしかありません 。ゼロ金利 、ゼロ成長 、ゼロインフレ 。この三点が定常状態への必要条件であると言いました 。しかし 、成長教信者はこの三点を一刻も早く脱却すべきものと捉えます。(同)
ーー金融緩和や積極財政が実施されますが 、日本の過去が実証しているように 、お金をジャブジャブと流し込んでも 、三点の趨勢は変わらないのです 。ゼロ金利は 、財政を均衡させ 、資本主義を飼い慣らすサインであるのに (略)。(同)
 水野和夫さんの『資本主義の終焉と世界の危機』了。中世史までを取り込んで、アベノミクスを批判し、成長神話を捨てての定常状態へのソフトランディングを提唱。西洋思想を引きずったピケティさんより明快かも(読んでないけど^o^)。


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この記事へのコメント
「国民国家 ・領域国家それぞれの主権と独立性を強化し 、隣国との利害の対立を強め 、国民同士が憎しみ合うように仕向ける 。つまり国民国家 ・領域国家を強化するという政策が選択される 。それがイスラーム圏におけるアメリカの基本的な戦略だと思います 。(同)」面白い視点だと思いますが、一方で、アメリカ発の多国企業が、民族国家(nation state=「国民国家」という訳語は、元々、国家が前提になってはじめて国民は形成されるので、言葉に論理的な矛盾がああります)の枠を横断して活動しているのも事実で、多国企業にとっては、民族国家の枠組みが強化されるのは、却って、マイナスのような気もしますね。ただ、これは、イスラム圏での戦略ということなので、ある意味、あたっているかもしれないとも思いますが。イスラム圏でのアメリカ企業の活動状況を知りたいですね。意外にキーポイントとかもしれないですから。
Posted by 尾内達也 at 2015年01月19日 06:38
ポイントは、イスラームがまず国民国家という枠になじまないこと、多国籍企業はバブル崩壊のときの、税収から損害を補償させる対象として、国民国家を保持していること、イスラーム圏でのアメリカ企業の活動は、サウジとかドバイとかの産油国を除くとよく分かりません。語られていたと思いますが。
Posted by 渡辺洋 at 2015年01月19日 08:08
ちょうどいいタイミングで、最上級生の日本語のクラス(5人だけ Yale Univ./U.S.)で、一人が、一般教書でオバマはイスラム国との対決は宣言したけど、ナイジェリアのボコハラムには何も言及しなかったことについて、みなの意見を求めました。渡辺さんのサイトの内田/中田対談の感想を読んで、私も中身を少し調べました。でクラスで中田氏が被疑者にもかかわらず、イスラム国とのパイプ役になるか、という記事を紹介したところ、授業後その学生、スピーチを聴いてみたがよく分からなかった、と。(引用)学生:ビデオを見ましたが、話し方が速く、ずらずらに続いているため、ほんの少ししか分かりませんでした。その会見をしたくない表情や態度をしていたらしいですが、先生はどう思いましたか。記者への返答には何かヒントがありましたか。
(学生への私からの返事)、昨夜見ましたが、まず、会見をしたくなさそう、という風には見えませんでした。まあ、彼の利益にもなるんじゃないですか?名誉挽回のチャンスとして。それから、話しの内容ですが、とても論理的で頭の良さがうかがえます。自分の立場(被疑者)も正しく認識しているようだし。でも、彼の「パイプ」というのがどの程度の「力」があるのか、、、不明です。
また、彼の思想に関しては、「カリフ制」の復活を目指しているようです。で、もちろん、西洋側からすれば、「とんでもない話し」でしょうけど、16億人いるイスラム教徒を考えると、学んでみる価値はありそうです。で、実はおもしろいことに、今週も読んでもらう内田樹が、この中田考と「対談」の形で本を出しています。一般に、哲学系の学者はアンチ=グローバリゼーションになる傾向が強いのではないですか?
(以上、が返信)ありがとうございました。
Posted by M. Seto at 2015年01月24日 05:40
アンチ・グローバリゼーションは21世紀のカギと思います。パリの事件のとき、日本人は西欧主義を見直す時が来たとはっきり思いました。
Posted by 渡辺洋 at 2015年02月01日 05:52