『Presents』小説 角田光代 絵 松尾たいこ 双葉社
しばらく本から離れていた。
約2ヶ月ぶりの読書になる。
私には読書仲間と呼べる人が一人だけ居る。
本のことを話す人はたくさん居ても
会話のほとんどが本の話で埋め尽くされる相手はそうそう居ない。
年に数回『文学飲み会』と称して
二人で延々と本の話をすることは私にとって至福のときであった。
最近読んだ面白い本や、共通で好きな作家の書評や
お互いのオススメの本や、どういうところがいいとか
果てはその本をきっかけにした人生観まで語り合う。
唯一の読書仲間であり、会社の先輩でもある方が退社される。
それを初めて聞いたときは、驚きと淋しさでいっぱいになったが
不思議と悲しさは沸いてこなかった。
それはきっと距離が離れていても、お互い本を読みつづけている限り
先輩と繋がっていられるからだと思う。
そんな先輩に何かを贈りたいなと思って選んだのがこの本。
「プレゼント」と聞くとどうしても
綺麗な包装紙に包まれてリボンのついた
誕生日やクリスマスにお似合いの絵を想像してしまう。
そういうどっからどうみてもプレゼントと呼ばれるものもあれば
カタチのないプレゼントだって当たり前なことだが溢れているのだ。
私は今までたくさんのプレゼントをもらってきた。
それは誕生日に親や恋人、友人から貰ったモノもあれば、
辛いときに励ましてくれたり慰めてくれたりした
優しい言葉もどれほど貰ってきただろう。
駅へと続く道の新緑に萌える木々に、
家の屋根越しに見えたお月様に。
自分の惨めさに泣くことしかできなかった冬の朝に。
いつか読んだあの本にもらった感情も。
それを今、どれだけ大切にしているのか、
それを今、いくつ憶えているだろうか・・・。
12の短編から成るがこの本の中には
プレゼントらしきプレゼントはあまり出てこない。
それなのにこれほどまでプレゼント感に満ちている。
あぁ、そうだ・・・。
私は無くしてしまったもの、忘れてしまったもの
ぼんやりとしか想像できないけれど
今まで本当に数え切れないほど
素晴らしいプレゼントをたくさん貰っていた・・・。
この本はそのことに気付かせて、思い出させてくれるのだ。
そしてこれからきっと自分が貰うであろう
たくさんのプレゼント、それらを大切に受け取りたいと思わせてくれる。
「人はだれでも、贈るより、贈られるほうが常に多いんじゃないかな」
(著者あとがきより)
きっと私も間違いなく贈られる方が多いんだろうな。
贈る側の気持ちも大切だが
贈られる側の気持ちの持ち方も大切なのだ。
プレゼント然たるモノも、
決してプレゼントとして手にしたわけではないものも、
それらを受け取れる感性を持つことで最高のプレゼントになりえる。
そういうものを感じることのできる感性を
色褪せることなくいつまでも持ちつづけていたい。
そうすることで私が貰ったプレゼントを
その相手に、もしくは他の人にお返しとして
少しは贈ることができるのかもしれない。
今までたくさんのプレゼントを無駄にしてしまった。
これからもたくさん忘れてしまうだろう。
それでも、それ以上にこれからもたくさんのプレゼントを貰うことができる。
そしてそれらをできるだけ多く心にとどめておきたい。
こういう気持ちになれたことが、きっとこの本から私へのプレゼントだ。
xxx Rue
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