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*417麺*
醤油ラーメン 味玉







旅の僧は再びこの巨木に
辿り着く。
曲がりくねる内側の旅の
胎内巡り。

思い馳ればそこは夏
そして今はと言えば
白い息へと変わりつつ
ある枯葉の時。。




季節は九つ巡りて、今は
木枯らしさえも吹きつける
冬の始め。



あれは幻夢の一夜、
あれは一期一会と言う
名の妖しき魔物。。

ついぞ消えぬ色香の
記憶。。




あの日修行の身をも忘れ、
庵の幽幻なる静寂の音、
暗闇の光、蒼き冑兜の
眼差しに射抜かれながら
耽溺し、愛し、喰らった一杯。


未だ果たせぬ煩悩を消し去る修行の身。
しかし僧忘れれる筈も
無し、更にはその毒より
も甘美なりうる味も
この現世に無し。。



微かに灯り照らしだされた
清貧な庵、あの日と変わら
ない庵の主の猛禽類をも
思わせる鋭い眼光。

否、業を極めた者らしき
おおらかな動きと笑い顔
で修行僧を見据える。。



すべてを見透かしながらも
、受け入れる主の手招きに
寄り一層の恥ずかしさが
こみあげた。


『蚪蔭殿 よくぞお戻りになられた、まずは奥へ奥へ…』


「...ではラーメンを…」

『御意に…』



永遠とも一瞬とも取れる
時間の中で、
庵の主はあやかしの中の
華厳の滝を操り刹那、
それを白い肌の女に変え
甘露滴る器に寝かせた。。


快楽はすぐそこに…




主の差しだす白陶の器を
照らしだす朧な蛍の光、

『…どうぞ』


既に鼓動は高まり静かなる
庵に響いているのではない
かと不安になる僧。。。



しかしながらそんな不安も
すぐに消え、器の世界へ
と溺れていた。






深淵の様に深く深く沈む
暗い飴色の汁、上澄みには
鴨の香気を携えた熱い油の
衣を纏いし御影。。



白い首筋をややこちらに
向ける柔らかな麺の曲線、振り向きながら送る流し目。

これは黒装束の女だ。
我を狂わしたあの女にも
似た。。

「うっ」


構わずその深い漆黒に
舌を這わせ転がす。。
火傷を負いそうな程の熱を
帯た旨味。



その旨味が幾重にも重なり
、漣がまるで荒げる海に
変わってゆくのであった。。


まとわりつく、爬虫類の肌の様な淫美な舌触り、それは




鴨が重い翼を拡げ魚を狩り
、大群になった魚は拡散し
生き延びて地を走る動物に
成る物や、海の奥に潜む鎧を
着けた生き物に成る物。
蠱毒を作る術にも近し。。

それは、あらゆる生命の
混沌とした戦いを、僧の
こうべの中で夢見せる。。

まるで難解な読み物の様な
味わい。




美味を越えた時、人は
それを醍醐味と呼ぶ。
まさにその渦に又溺れて
いるのだ。



果てに白い首筋に吸い付き
赤子の様に啜る。。



軽く歯をたてると肌は柔ら
かく切り裂かれ弾ける。

陶酔、、女を喰らう倒錯し
た喜び。



コリコリコリ…母の骨に
むしゃぶりつく地獄の餓鬼
よろしく、支那竹を噛みしだく。
無心に肉に食い付く。。



繰り返す罪の意識と
快楽に打ちひしがれる。





…そこで果てた筈の僧は
一杯では飽き足らず、
主に新たな女を懇願
するのであった。





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現れたのは一糸纏わぬ女

否、透けた羽を着けた様な
肌の女であった。


生涯で出会った潮ラーメンで
一番だった潮風編を想わせ
る女。。



透明な錦糸を舌で脱がせて
ゆき、その雫を集め啜る。



海の、潮の香りを漂わせ
澄んだ声で悦び詠う人。



我が身を波に委ね、教を忘
れ深く入りこむ僧。



重なりあう擦りあう音、
漏らす溜め息。



背筋を逆撫でする優しき
背徳の味。。





やはりどの潮より愛した女の娘。





海の奥へと引きずり込まれ
ながらもその娘の中で泳ぐ。




いつまでも止まらぬ熱い
吐息、体は枷を付けられた
様に愚鈍な動きしか出来ぬ。。
羽を擦りあう様な音に似た
麺を啜る響き。。。


また漏らす溜め息。。





今度こそ、この麗しき
あやかしの世界に溶けて
行こうと誓った瞬間に


『血迷いなさるな蚪蔭殿』

との主の言葉で蘇る。。







…そこは幻のラーメン屋、
愉悦処 鏡花。



暫くは動けず、頂いた水を
ただひたすら飲み干す男。


既に庵には客人が溢れ、
僧侶になっていた夢も醒め
たらしい。。





そして朦朧としながら
鏡花を出ると、紺碧の空に
鋭利な刃物の様な三日月
が張り付き、笑いかけていた。。


未だ夢から醒めれぬならば
嬉しき事かな、溺れたままに。。。






らーめん愉悦処 鏡花

東京都立川市柴崎町2-12-20
042-525-3371
11:30~15:00/18:00~22:00
月休