イタリア対アメリカ その4 自由と責任イタリア対アメリカ その5 共鳴

2020年09月06日

神の戦いを待つ





「イタリア有利、でいいよのね?」
メインスタンドVIP席、加藤優子が横を向いて西園寺玲華にそう聞いた。玲華は少し考えてから小さく頷いた。
「アメリカのサイドアタックは脅威ではありますけど、それ以上にイタリアの守備が対応してます。アメリカが戦術を変えない限り、この図式は変わらないと思います」

玲華は優子にそう答えながら、アメリカが戦法を変えることは無いと踏んでいる。
ドイツ戦でもアメリカはサイドアタックを封じられながらも戦法を変えず押し切った。
ならばこの試合でもアメリカは変えない。
恐らく、それは「誇り」なのだと思う。





 




「なあ、あんたは試合見なくてもいいのか」
葵奈津実は汗が滲んだシャツを持ち上げ、顔の汗を拭きながらそう言った。その所作でお腹部分が露わになり、鍛え上げられた腹筋が晒された。
「別にリアルタイムで見れなくても、あとで見れますから。それに葵さんの自主練に付き合えるのは観戦よりも大事です」
奈津美の視線の先にはやはり玉のような汗を右手で拭っている藤田みのりがいた。
足下にはボールがひとつ置いてあり、みのりは右足インサイドでボールを蹴り、奈津美に送った。

「駄目だ。もっと正確に出せ。パスのコースで相手に意図を伝えるんだ」


奈津美は静岡のトレーニングセンターで来シーズンに向けて自主トレーニングを再開させていた。
エンジェル・イレブンが使用しているグラウンドとは別のグラウンドで練習をしていたのだが、目ざとく発見したみのりが合流した、というわけだ。
そしてちょうどこの時間は、選手たちの殆どがイタリア対アメリカの試合をテレビで観戦している。

奈津美とみのりは10メールほどの間隔を開け、素早くパス交換を繰り返す。
トラップしてから、ダイレクトで、そして奈津美の指示で細かくコースを変えながら、既に30分以上それを繰り返している。

みのりにとっては意外とも思えるが妙に納得がいく。
トッププロで、しかも名門ラツィオのレギュラーである葵奈津実が、パスとトラップという誰もがやる基本的な練習にこれほど時間を掛けている。
正に「基本が全て」と言わんばかり。
しかしそんな基本の練習でも、みのりに高いレベルを要求し、奈津美自身はそれを苦にもせず体現する。

これが世界に通用する選手なんだ。



結局奈津美とみのりはその後15分ほどパス交換の練習を行い、都合45分続けていた。
汗だくになったふたりは木陰に座り込み、ドリンクを飲みながら休憩をしていた。

「で、どうだ?アタシと練習して少しはタメになったか?」
「ええ、とても」
奈津美は大股を広げ、片手でドリンクを飲みながらみのりに顔を向ける。みのりは体育座りの格好で頷いた。
「そりゃどうも」
奈津美はからからと笑いながらスポーツタオルで汗を拭いた。


「さて、次は決勝だな。相手はアメリカか、イタリアか、」
「そうですね。どちらが相手でも全力を出し切るだけです」

みのりは芝生の上に置いたバックからスマホを取り出し、操作する。
スポーツニュースサイトを開けると、0-0で前半を折り返したことがわかった。


「お前たちにとっては、アメリカが相手になった方がいいだろうな。一度対戦しているという強みもあるし、負けなかったという事がお前達の自信にも繋がっているだろうからな」

奈津美はみのりに顔を向けず、独り言のように言葉を続けている。しかしその言葉は間違いなく、みのりに向けられている。
だからみのりは奈津美の横顔を見据えている。

「でも、イタリアが相手になったらそういうアドバンテージが無くなる」
「そうですね……」
「それに、……いや、いい」
奈津美は次の言葉を言おうとして、やめた。みのりは不思議そうな顔をしたが、追求をしなかった。


イタリアには、リリー・キャロネロがいる。
あのローマ対ラツィオの試合。そしてこれまでのサファイア・カップの試合の中で、絶対的なファンタジスタの存在がイタリアという国のアイデンティティとなっている。
そして、日本にも桐島羽奈というファンタジスタがいる。そして、日本という国にとっても羽奈はエースであり、アイデンティティといえる存在だ。

もし、決勝が日本対イタリアになれば……
きっとまた、あのふたりが試合を変えていく。

先天性の才能と、後天性の才能という物がある。
先天性とは、生まれながらの才能のことであり、後天性とは努力により培われる才能のことだ。
殆ど全てのこと、そしてサッカーにおいても後天性の才能が選手としての能力にあらわれる。

しかし、奈津美は思う。
ファンタジスタは違う。あれは間違いなく先天性の才能だ。
世界に数多あるサッカー選手を志す少年少女達を集めたサッカーの神様が、戯れにその杖で少年少女の頭を叩く。

叩かれた者だけが、ファンタジスタとしての才を持つ。

言うなれば、羽奈とリリーの戦いは、神の戦いだ。
見たい、その戦いを見たい。
これは、奈津美の個人的な希望だ。
みのりにそれを言うわけにはいかない。







「あ、でてきたね」
羽奈が指さす先にはこれから後半戦を戦うイタリア代表、そしてアメリカ代表の姿が見えた。
どちらの選手達も、自信に満ちあふれた良い表情だ。
前半戦を有利に進めてきたイタリアもそうだが、世界ランキング1位であるアメリカもまだまだこれからということだろう。

「メンバーの変更は、無いみたいね」
加藤優子が選手達を見渡してからそう呟いた。
イタリアは未だリリー・キャロネロを温存している。出すとすればこのタイミングだと思っていたのだが。

アメリカは後半も愚直に北米スタイルを続けていくだろう。
愚直でも、精度を高めて続けていけば、それは勇気ある選択となっていくだろう。
イタリアはそれを受け止めつつ、散発的だが攻撃に繋げていっている。しかしケイシー・キングを中心としたアメリカのDFを攻略しているとは言い難い。

世界ランキング1位と2位。
最高レベルの試合は、後半45分をこれからはじめる。




 

fantasy_girls at 21:46│Comments(0)エンジェル・イレブン編 

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