忘れられない記憶がある。
パパンがパパンになるずっと昔。


高校生で夏だった。
網戸の向こうからはセミの声。
エアコンのない部屋で
うだるような暑さの中、
僕は窓辺にもたれてグッタリとしていた。

なにげに窓の外を見た。
通りに人影はなく、ただただ
セミの声がジワジワ響いている。

そんな穏やかな通りを、
一台の自転車が走ってきた。
キャアキャアという笑い声と共に。

自転車の前に小さな男の子を乗せ、
お父さんが運転している。

お父さんは大きな浮き袋をたすき掛けにしている。
前かごに入れているのは水着とタオルだろう。

黒いオーバーオールを着たお父さんは
本当に楽しそうで、男の子もずっと
キャアキャア笑っていた。

ああ、今から市民プールに行くんだ。

僕も将来、こういうことをしたいな。
そう思った。
ずっと思っていた。

子供と二人で車に乗って遠くに行くよりも、
自転車で近くのプールへ行く方に
僕はどうしようもなく憧れた。


それから15年。

パパンは自転車の前にたっくんを乗せて
お天気のいい日は走り回っています。

自転車を漕ぎながら、
いっぱいお話をして、
いっぱい歌って、
いっぱい笑って、
いっぱい寄り道をして。

自転車を漕ぎながら、
あの夏の日の親子を思い出します。

そして、15年前の僕に教えてやりたいです。

「夢、叶ったよ」

って。