2010年02月23日

Jリーグという名の特殊社会

Jリーグの2010年シーズンが3月6日に18年目となる開幕を迎える。

それに先立ってACL出場権を勝ち取った4クラブ(日本からは川崎、鹿島、G大阪、広島が出場)が2月23日と24日に予選緒戦を戦い、26日のJリーグカンファレンスを経て翌27日にはフジゼロックス・スーパーカップに鹿島、G大阪が出場し、リーグ開幕へのはずみをつける。

その間、3月3日には代表戦(アジアカップ予選・バーレーン戦)もあるが、こちらはすでに予選を勝ち抜いており、試合自体は消化試合となっている。
この3日3日はワールドカップをにらんだ最後のインターナショナルAマッチデーであり、国内試合で対戦相手がバーレーンというのはいかにももったいない。
協会のお粗末としか言いようがないスケジューリングである。

さて、18年目を迎えようとするJリーグについて、どうしても開幕前に言っておきたいことがある。
いわゆる“ベストメンバー”問題と、その原因のことだ。

2009年6月3日のナビスコカップ、大分トリニータ戦において、サンフレッチェ広島は直前のリーグ戦から先発メンバー10人を入れ替えて試合に臨んだ。
若手選手に出場機会を与えるためである。
広島はこの試合を2-2で引き分けたが、後になってJリーグから「ベストメンバー規定の基準を満たしていない」と判断され、9月15日の理事会で1000万円の制裁金を科されてしまった。
それまでも大分や川崎といったチームがリーグや協会から注意・叱責を受けるといったことはあったが、ベストメンバー規定違反による罰則が適用されたのはこの広島が初めてのことであった。

なお、広島のこの“事件”については、クラブ側が事前に規定の解釈をリーグ側に確認しており、その時点では「抵触しない」という回答を得ていたため、リーグ側にもミスがあったとして、制裁金は規約上の上限である2000万円から減免され、Jリーグの役員も戒告・減給などの処分が下っている。

後にJリーグが行った理事会後の定例記者会見では、広島から問い合わせを受けたリーグ職員が「ベストメンバー規定はナビスコカップには適用されないと勘違いして広島に対応した」と認めている。
言わば広島はJリーグ職員の単純ミスによって1000万円もの制裁金を支払わされるハメになったのだ。
リーグを運営・管理するところがこれでは確認する意味がないし、他に確認のしようがない。
リーグ事務局は規約を策定・運用し、罰則を設けている当事者なのだ。
それは2007年9月23日に行われたJリーグ川崎対柏の試合で、川崎が当時Jリーグの専務理事だった犬飼基昭にベストメンバー規定の観点から問題があると注意・叱責された状況と似通ったものであり、その時もリーグは川崎からの事前確認に対し「問題ない」と答え、しかも規約上は実際に問題のない行為であった。



この通称“ベストメンバー規定”は“最強のチームによる試合参加”としてJリーグ規約の第42条、及び補足基準で定義されているものだ。
内容については割愛するが、規約によってベストメンバーがいかなるものかを規定している。

さて、冒頭に代表チームのことに触れた。
今年1月6日に行われたアジアカップ最終予選対イエメン戦では、招集メンバー19人のうち、13人が代表初招集となる若手主体のメンバーをアウェーの地に送り込んでいる。
そういうことは別にこの試合に限ったことではなく、これまでにもそういうことは幾度もあった。

日本サッカー協会はJリーグの上部組織にあたり、鬼武チェアマンは協会の副会長でもある。
代表試合で許されることがなぜリーグ試合では許されないのか?
川崎の件では当時の犬飼Jリーグ専務理事、現在の協会会長が「サポーターを馬鹿にしている!」と言って川崎の武田社長をマスコミ記者のいるところで叱責したと伝わっているが、代表チームが同じことをやってその責任者は叱責されないのだろうか?
と言ったところで、代表の責任者は犬飼会長自身であるからそれもおかしなことではあるのだが。

この“ベストメンバー規定”で私が問題だと思っていることは主に以下の2点である。

1. 誰にとってのベストなのか?

2. なぜ誰も言わない?

1について。
クラブチームは年間を通してリーグ戦を戦い、その他いくつかの大会に参加しなければならない。
一番多い試合機会を得る選手の場合を考えると、リーグ、天皇杯、ナビスコ、ACL、代表ということになるだろうか。
クラブチームの監督は、そうした選手を抱えながら、スケジュール・カレンダーを基に年間を通した戦略を立てる。
それは代表監督も同じだろう。
出場機会が多い選手については当然疲労も考慮しなければならないし、若手に出場機会を与えなければチームの層が薄くなり、年間を通して勝利が望めないということも出てくるだろう。
つまりクラブチームの監督は年間(シーズン)を通してのリスク管理も含めた「チームにとってのベスト」を考える。
一方、規約で謳っているベストというのは、端的に言って1試合における「試合のベスト」のことだ。
前提が違うのだからこれでは噛み合うわけがない。


2について。
どちらかというとこちらの問題の方が根は深く、いろんな問題の原因になっていると思われる。

おかしいならおかしいとなぜ言わないのか?
なぜおかしいと思う相手と戦おうとしないのか?

各クラブにはサッカー界出身以外のステークホルダーがたくさんついている。
クラブスポンサー然り、地元マスコミ然り、行政然り。
そしてもちろんサポーター然り。
クラブとリーグはある意味「共犯者」である。
リーグの理念はそのままクラブの理念でもある。
であるから、リーグの不利益や論理はクラブの不利益であり、クラブの論理となる面もあろう。
しかし、各クラブは法人としてリーグから独立した組織であり、クラブはその組織を支えているステークホルダー(法律上は株主ということになるが)の利益を守らなければならない。
そのクラブのステークホルダーは当然のことながらサッカー界出身者とは限らない。
つまり、リーグの不利益や論理がそのまま通るとは限らないのである。

リーグはクラブの“居場所”を担保にして、社会通念とは相容れない論理を振りかざすことはないか?
クラブは担保に取られたものを守ろうとして、リーグのおかしな論理に加担することはないか?
結局は自分たちの首を締めることになるものに加担してはいないだろうか?

Jリーグではクラブ所在地の行政に協力を求め、Jリーグ加盟条件として協力することに同意した証として署名・捺印を義務付けている。
また、クラブスポンサーからの支援についても、クラブを通じて契約書に署名・捺印を提出させている。

私は思うのだが、それら各クラブの行政やスポンサーがそれぞれ<Jクラブ行政連絡協議会>や<Jクラブスポンサー連絡会議>などの団体を組織して、クラブとは違う観点から直接Jリーグに物を言える環境を作るべきではないのだろうか。
クラブがリーグに物を言えないからといって、クラブが積極的にリーグに加担しているとは言えない場面もちょくちょく垣間見える。
つまり、いやいやながらもリーグに従わざるを得ないということだ。

Jリーグはクラブが不利益を被ることによって潰れてしまえば、自身も無傷ではいられない。
Jリーグ加盟を希望するクラブはいくらでもあると思っているのかもしれないが、サッカー界にそれは通用しても企業にそれが通用するとは限らない。
特に今のような不況下にあってはなおさらのことだろう。

まずは当たり前に“物言える環境”を作ることこそがサッカー界には必要なのではないだろうか?

そして、これは覚えておかなければならないことだが、リーグはそれが何であれ、問題が表面化することを恐れてはいるが、同時に表面化してもすぐに忘れてくれると思っている。
メディアを筆頭に、サポーターもちょっとネットで騒いだらすぐに忘れてしまっているように見える。
実際にはそんなわけがなくて、当事者クラブとそのサポーターはその問題が何であれ絶対に忘れるはずがない。
だが忘れることはなくても、過ぎてしまえばなかなか思い出しもしないのだ。
あるいは思い出してもそれを蒸し返すことを良しとしないように見える。
それではいつまで経っても問題は解決しない。
これは何もJリーグに限った話ではなく、日本の社会全体がそのようになっているように思える。
問題があれば、それを解決してから先に進むのでなければ、いつだってまた同じ問題は起こり得るのだ。
「大人の対応」とか言って妙に物わかりのいい人物を演じても、それは単に問題の先送りと再生産をする側に容認者、もしくは加担者として立つというだけのことだ。


Jリーグがこのまま社会から逸脱した論理を押し通し続けるようであれば、いずれリーグは崩壊の道を辿ることになってしまうだろう。
それはサッカーではなく、世界の歴史が教えてくれている。







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