新刊本
新刊本の「はじめに」の全文をご紹介します。
親しい友人から、ブックデザインがいいと評価をいただきました。大事なことです。^^

はじめに
「新型コロナで倒産すると覚悟しました」
これは、コロナ禍において私が取材した経営者ほぼ全員の声である。
クライアント先である某居酒屋チェーンの社長からは、「新型コロナの影響で業界の環境が大きく変わりました。変化への突破口を見つける必要があります」という連絡があった。また、私が主催する「実力店長養成講座」セミナー後に店長から出される質問の多くは、「飲食業界の将来はどうなるのでしょうか?」というような、先行きへの不安に満ちたものだ。店長のみならずエリアマネジャーからもそういった不安の声を聞く。

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大手外食チェーンについても、「決算で7割が赤字」「大量閉店」「希望退職者募集」などの記事が新聞やネットで連日報じられている。コロナ終息後でも客足は7割ぐらいしか戻らないのではないかと懸念し、業界転換を急ぐ大手居酒屋チェーンも少なくない。飲食店の損益分岐点比率は、業種にもよるが90%程度で、10%売上が低下すると赤字に転落する業界である。
 
だが、このような厳しい経営環境下にありながら、強い意思で先を見据えたリーダーのもと、様々な工夫を凝らして営業努力を重ね、売上維持もしくは向上させている店舗や企業がある。私のクライアント先や、友人・知人が経営する飲食企業、また取材先においても、新しい販売チャネルで売上を伸長させたり黒字転換させたりしている店長がいるのだ。
今回取材した複数の企業において、コロナ禍でも成功している優秀な経営者や店長には次のような共通点がある。

弁当の店頭販売
_甬遒寮功体験にとらわれない柔軟性がある
急速に店舗を拡大し、チェーン化に成功するなど、過去の実績にとらわれて新たなニーズに対応できず、衰退していった企業は少なくない。新しい時代に柔軟に対応し、次の一手を打ち続ける企業は強い。

危機を素早く感知して新しい販売チャネルを見つけ出せる
 危機が迫った時、それをいち早く感知すること、そしてすみやかに新しい販売チャネルを見つけ出し、踏み切る判断をすることが大切だ。経営者に求められるのは素早い対応力である。

仕事に対する考え方「広く深く」を常に意識している
 広くとは新しい発想、深くとは専門性の追求だ。フランチャイズを活用して二毛作で成功、強い商品力を武器にデリバリーで売上拡大など、広くアンテナを立てて、深く掘り下げていく姿勢が経営者には必要だ。

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 店長育成セミナーにおいて私が成功事例を紹介すると、翌日から即それを実行する店長がいる。そのような店長は常に業績を向上させている。今回紹介する12社の経営者・店長にも素早い実行力と、集中的に取り組む姿勢がある。

シ茲靴討△らめずにやり遂げる強い意志がある
 コロナ禍においてもあきらめることなく、与えられた武器(商品)を最大限に生かすべく営業努力を重ね、 売上前年比100%越えを達成した店長たちがいる。意志あるところに道は開ける。

Ε蝓璽澄璽轡奪廖併愼魁砲隅々まで行き渡っている
 経営者1人、店長1人では何もできない。部下やスタッフを優れたリーダーシップで巻き込んでいくのだ。情熱は伝染するのである。

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Ь錣縫廛薀校弭佑覗宛きな人間力がある
取材した経営者はコロナ禍で倒産するとは語ったが、あきらめず前向きだった。プラス志向で考え続けることが、新しいアイデアを生むのである。

進化論者のチャールズ・ダーウィンは、「最も強い者が生き残るのではなく、最も賢い者が生き延びるのでもない。唯一生き残ることが出来るのは、変化に対応できる者である」と語っている。またセブンイレブンを日本最大のコンビニチェーンに創り上げた鈴木敏文会長(名誉顧問)は、「変化への対応と基本の徹底」をスローガンにして、それを徹底的に貫き通してきた。「変化はリスクを伴うが、今の時代、変化しない方がリスクが高い」と語っている。

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本書の第一章では、「具体的な売上・利益向上」編として、飲食の新常識の事例、デリバリー・テイクアウト、二毛作、ゴーストレストラン、EC販売で成功した経営者や店長などを紹介する。これらをベンチマークとし、次の一手に向けて活用していただきたい。

第二章は、「店舗・会社の体質改善」編。経営者・店長のリーダーシップが隅々まで行き渡り、徹底できる方法を解説する。SWOT分析での店の強み・弱みの発見、コミュニケーションの活性化、モチベ―ションアップの仕組みなどを参考にしていただきたい。

第三章では、「飲食店王道の原点に返れ」編として、看板メニュー、常連客の作り方、QSCの基本の徹底、店の空気(チームワーク)など、繁盛店の基本を解説する。

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現在の外食マーケットは25兆円、中食(テイクアウト)は10兆円、内食(素材を買って家で調理すること)は35兆円である。そして新しい市場として、UberEatsや出前館などを使っての「デリバリー」という、4つ目のマーケットが大きくなりつつある。
 
だが忘れてはならないのは、飲食店は家族や友人や恋人との楽しいひと時を過ごす幸せな場所であるということ。美味しい料理やホスピタリティあふれるサービスを通してお客様に安らぎや元気、楽しさ、明日へのエネルギーを感じていただくための空間が、飲食店なのである。この感動マーケットは変わらず大きいと信じている。
 
私は25年間にわたって連載を続けている月刊「飲食店経営」の「実力店長はここが違う!!」シリーズで、第一線で活躍する店長たちが売上を20〜30%上げる成功事例や、赤字店を黒字化した実例をたくさん紹介してきた。その数は250人に上る。そのノウハウを第二章、第三章で解説している。

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これまでも、幾多の外食業界の危機的状況に面してきた。「バブル崩壊」「リーマンショック」「BSE」「東日本大震災」「新型コロナ」と、5年〜10年のサイクルで大きな経済的危機に見舞われている。本書は、今後も起こり得る様々な危機に立ち向かうためのリスクマネジメントとしても活用できるよう、構成している。
 
クライアント先の外食1部上場企業の常務であり、友人でもあるT氏と会食した時、私が「株価も1万2千円。14期連続増収増益。素晴らしいですね」と話すと、彼は「いや、いつ何が起こるかわからない。常に危機感を持っています」と語った。その半年後、新型コロナが発生したのだ。予想不能なことが起こるのである。
 
P.F.ドラッカーは「経営者の条件」の中で、「トップ本来の仕事は、今日とは違う明日をつくり出すこと」だと語っている。
毎日現場で戦っている皆さまにとって、本書が日々の仕事の参考になるとともに、新たな指針の一つとしてお役に立てれば幸いである。
本書の出版にあたり、株式会社同友館代表取締役社長脇坂康弘様と、多大なご協力をいただいた手嶋慶子さんに心より感謝申し上げます。
 ありがとうございました。

2021年 4月吉日  田中 司朗