20180317130325
日本講演新聞に「生まれた日の夜空が教えてくれたこと」が掲載されていました。
認知症の母を持つ、男性の話です。私の母も90歳になり認知症が少し進んできていますので、この話には他人事ではなく泣けました。85歳以上では40%、90歳以上では60%以上が認知症と言われています。


刈谷市立小高原(おだかはら)小学校(愛知県)で理科の教師をしている小田孝仁さん(50)は、昨年の春まで教職を離れて市が運営するプラネタリウムの解説員として3年間派遣されていた。

その科学館は金曜日に限り、18時半からの投映時間があった。大人対象の放映内容だがいつも客はまばらだ。

praneta
ある雨の日のことだった。会社帰りと思われるサラリーマンが一人でやってきた。体は小田さんよりひと回り大きく、身なりも整った紳士だった。だが、小田さんの目には少し疲れているように映った。

上映時間になったが他にお客さんは現れなかった。小田さんは男性のところに行き、そっと聞いた。

「生まれた日の夜空を眺めてみませんか?」 

男性は少し驚いた。生年月日を聞くと、少しだけ小田さんより年上だった。その日付を機械に打ち込むと、男性の頭上に満天の星空が現れた。その日だけの夜空である。

planetarium-tokyo-key
星座や天体の解説が男性一人のために始まった。そしてその年の出来事が小田さんの優しい声で語られた。

すると真っ暗な館内から男性がすすり泣く声が聞こえてきた。

上映が終了し、館内が明るくなると、男性は映写室の小田さんのところにやってきた。

「ありがとうございました……」

男性は目を真っ赤にして静かに話し始めた。

「施設にいる母の認知症がひどくなってきました。最近は僕が誰だかもわからないようです。正直、もう行くのも億劫(おっくう)に感じていました。でも、さっき生まれた日の夜空を見上げていたら、この日に母が僕を生んでくれたんだな、だから僕は今ここにいるんだな。そんな感謝の想いが湧いてきました」

32
小田さんはその時、目の前の男性が少年に見えたそうだ。

「急に母に会いたくなりました。明日、母のところに行こうと思います」

そう言って帰ってゆく男性は、元の紳士の姿に戻っていたそうだ。来た時に感じた疲れた様子はもう消えていた。

誰にでも生まれた日の夜空がある。そして、この宇宙に命を生み出した母がいる。感性を磨いて、自分の役柄を素直に演じ、自分が世の中に良い影響を与える役者でいられたらいいなと思う。

生んでくれた母のためにも。