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新幹線で移動中、日本講演新聞の「やまとしぐさ伝承学師範 辻中公」さんの愛に満ちた一言に感動させられましたので紹介します。

愛に満ちた一言を〜「おかげさま」の気持ちを育てたい
やまとしぐさ伝承学師範 辻中公
 
昔、日本では右手は「自分」を表す手、左手は「自分ではない誰か」、つまり「神様」を意味する手とされていました。
ですから、何かする際には右手を使い、そこに左手を添えることを作法としてきました。
そのことで、「自分の行動でありながら、自分以外の力添えに支えられる」という意味になるのです。

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この「左手を添えることの大切さ」というのは、茶道や華道など、日本で「道」という字がつくものの中に多くあります。着物を着られる方はお分かりだと思いますが、左側を上に重ね、帯揚げや帯締めも左に柄を持ってきます。

つまり日本には、「左側に上質なもの、尊敬するものを置く文化」があるということなんです。
この文化は「おかげさま」の気持ちを育てます。「自分だけの成果じゃない」「おかげさまの気持ちが大切」という教えを伝える日本文化を、私たちは伝え、残していきたいと思っています。


私の友人Aさんの話です。

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Aさんには妹がいて、その妹さんには息子B君がいました。大学進学を決めたB君は、大学の近くに下宿しました。
信号が青に変わったのを見てB君は横断歩道を渡り始めました。そこに大きなトラックが突っ込んできました。

Aさんに、妹さんから事故の連絡が届きました。

「うちの子が事故に遭った。意識がないみたいなの」「顔の右半分が潰れていて、意識が戻らないかもしれない。どうしよう」Aさんは妹さんの話を聞きながらいろんなことを考えました。
「甥は人生これからなのに……下宿なんてさせていなければ……」

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さらに加害者への怒りもこみ上げました。「そもそもなんでトラックは赤信号なのに突っ込んできたんだ」B君は幸運にも一命を取り留め、数日後Aさんと妹さんが見舞いに来ていた病室に、加害者が警察の人とやって来ました。

その加害者の態度が横柄に思えたAさんは怒りを押さえられなくなり、思わず「殴りかかろうか」くらいの気持ちになりました。
その時Aさんの妹さんが言いました。

「息子の命を助けてくださってありがとうございました」
「事故を起こしてあなたもつらかったでしょう。でもすぐに救急車を呼んでくれたおかげで、息子は一命を取り留めることができました」

その瞬間、それまでふんぞり返っていた加害者が床に崩れ落ち、声を上げて泣き始めました。そして何度も何度も、「申し訳ありませんでした」と謝ったそうです。

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するとB君も言いました。
「この事故は自分にとって必要な経験だったと思う。いただいた命をこれから大切に使っていきます」
Aさんの妹さんの「ありがとうございました」の一言が、その場の雰囲気を一変させたんですね。
妹さんの「ありがとうございました」の言葉は、本当にB君の命が助かったことの喜びから出たのだと思いました。
そしてそれを聞いたB君も、「僕は必要とされている」と感じて、そう言ったのだと思います。

このエピソードは、「たった一言が人生を変える」ということを教えてくれていると思いました。
もし私たちが同じ状況に出会ったら、どんな言葉を掛けることができるでしょう? とっさに愛に満ちた言葉を紡ぐことができるでしょうか?