今年最後のブログに、作家・神渡良平氏の「一隅を照らす人生」を紹介したいと思います。
38歳の時、脳梗塞で倒れ、救急車で病院に担ぎ込まれました。リハビリの甲斐あって何とか退院にこぎつけました。
その時に考えたのが、「一度の人生を取りこぼさないため、自分の経験だけでなく視野を広げ先人たちの知恵を活用し手堅い人生を得たい」ということでした。
そして決意したのが「安岡正篤（やすおか・まさひろ）先生の伝記を書く」ということでした。
安岡先生は、「歴代宰相の知恵袋」といわれ、「平成」という年号を中国の古典から選び出し天皇陛下に報告した方です。
安岡先生は終戦の工作に非常にかかわっていたため、８月の終戦特集になるといつもマスコミが終戦秘話を聞きたいと先生のところに訪れたものでした。
しかし先生は、一切マスコミの取材にお答えになりませんでした。
安岡先生は少人数の膝を交えた集まりに出かけ、「人間として欠いてはならない資質は何か？」という話をよくされました。その一つが「有名無力、無名有力」です。
どういうことかと言いますと、若い時には誰しも「有名になりたい」「会社を大きくしたい」など大きな夢を描いて勉強し、努力します。ところが会社の規模が大きくなると忙しくなり、いつしか自分を磨くことをしなくなる。これが有名だけど無力の存在です。
さらに安岡先生はおっしゃいました。
「一方世の中には、新聞や雑誌、テレビに出るわけではないが、常に頭が下がる生き方をする人がいる。世の中の健全さは、そういう人たちによって支えられている。私もそんな生き方をしたい」と。
これが「無名だけれども力がある」ということなんですね。
安岡先生のモットーは「一燈照隅、万燈照国」という言葉でした。
「一つのともしびを掲げて隅を照らす歩みをすれば、その歩みはいつしか『万のともしび』となり、国を明るく照らす光となる」ということです。
「しかしながら……」と安岡先生はおっしゃいました。
「しかしながら人間は、自分のことは棚に上げ、人のことばかり批判する。天下国家のことを論じて、さも力があるかのように錯覚する。大言壮語（たいげんそうご）せず、すべて改革は自分の第一歩からしか始まらないと決意しよう」と。
さらに先生は、「一隅を照らす決意をした者がしなければならないことがある」とおっしゃいました。
「人間にはいつも自分に囁（ささや）く声がある。『私のような無名の人間が頑張ってみたところで世の中は変わりはしない』とか『私のような無力な人間一人が頑張ってもどうにもならない』などの諦めの思いである」と。
「一隅を照らす決意をした者は、そんな自分の思いと闘わなければならない」と安岡先生はおっしゃったのです。
日本の精神文化の源流におられる最澄（さいちょう）というお坊さんが、「一燈照隅、万燈照国」の基となった「一隅を照らす者、これ国の宝なり」ということを若いお坊さんを育てる時にいつもおっしゃいました。
「国の豊かさは金銀財宝が幾らあるかで決まるのではない。旅籠（はたご）の女将（おかみ）や馬車引き人夫、あるいはお役所の番人など、それぞれが卑下することなく、自分の持ち場で最善最高の仕事をしようとする人が何人いるかで国の豊かさは決まる。一隅を照らす者、これ国の宝なり」と。
どうぞ、皆さまのご家庭、職場が、一隅を照らす光を放ち、より多くの人々から感謝の言葉をいただける歩みをしてください。
