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コンビニオーナーギリギリ日記を読んでいます。
365日24時間営業!気の休まらい仕事、ファミリーマートの現役オーナーのコンビニ経営の厳しさと泣き笑いの話。おもしろいですよ!!売れています。^^

カスタマーハラスメントの章を紹介します。

「ねえ、あのババア、なんなの?」
私のレジに向かって女性客が歩いてくる。40代半ば、小太りで上下灰色のスエット姿、顎を上げ、肩を揺すり、爪先を蹴上げるような歩き方だ。「感じの悪いお客が来たなあ」と思っていると、隣の通路から割り込むかたちで男性客が走り込んできて私のレジに荷物を置いた。

チンピラ歩きの女性客がムッとするのをフォローするように、パートの松村さんが「お客さま、こちらのレジへどうぞ!」と隣のレジへ誘導し、レジ対応をしてくれた。ベテランパートの松村さんは機転がきき、頼りになる。男性客のレジ対応を終え、別の仕事に取りかかろうとした私のところにさきほどの女性客がやってきた。

「ねえ、あのババア、なんなの?」
しゃくった顎で松村さんを指し、憎々しげにそう言う。
「なんでレジ袋に入れんの嫌がるわけ?」

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女性客が言うには「レジ袋に入れてと言ったが、嫌々対応されて不愉快だった」ようだ。松村さんに限ってそんな対応をするはずがないと思ったが、その場を収めるため、松村さんを呼び、「たいへん失礼しました」と2人で謝罪した。ところが、気が収まらないようで「私は客でしょ? そんな失礼な態度ある? 許せないんだけど!」と店内で怒鳴りまくる。

「一番偉い者を出して!」と言うので「私が責任者です」と答えると、「本当に一番偉い者を出して!」と話にならない。仕方なく家に戻っていた夫を呼び出し、謝ってもらった。わけもわからぬままの夫と私と松村さんが3人で頭を下げて謝ると、女性は店を出ていった。だが、これはそのさき、長く長く私たちを悩ませるカスハラの始まりにすぎなかった。

炎天下で2時間にわたって怒られ続けた
「お客さまより苦情が入った」と本部から電話が来たのは、それから1時間も経たぬうちだった。それまでに何があったのか、松村さんより事情を聞き、防犯カメラの映像チェックも終えていたため、本部にはスムーズに事情説明はできたものの、女性客は「とにかく家まで謝りに来い!」の一点張りとのことで、日をあらためて本部の営業担当者と夫と松村さんの3人で出向くことになった。

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「箱菓子を持っていったら」と私が夫に伝えると、本部から「何も持たない」という判断が出されたという。以前はクレーム対応に菓子折を抱えて行くのが当たり前だったのだが、今はむやみに物を持っていくことは控えるようになっているらしい。今回の女性客への対応に、わが店側の落ち度があると本部もとらえていなかったのだろう。

1週間後、指定された場所に行き、謝ってきたのだが、男性2人はうなだれ、松村さんは怒りまくっていた。最高気温30℃超えの炎天下、アスファルトの照り返しのあるアパートの駐車場で、女性だけが木陰に立ち、3人は延々2時間にわたり一方的な怒りを聞かされたという。しかも、やはり「許さない!」と宣のたまう。そればかりか「松村に責任をとらせて辞めさせろ」と言うのだという。

クレームは終わったと思っていたが…
夫が「松村はほかのお客さまには人気のスタッフで辞めさせることはできません」と突っぱねた。すると女性客は「松村をちゃんと教育し直し、シフトを減らせ」と要求してきたのだ。さらに本部へのクレーム電話はその日以降も連日のように続いた。

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その1週間後、今度は私の書いた詫び状と、1000円程度の菓子折を持たせ、夫と営業担当の2人に再度頭を下げに行ってもらった。松村さんは「私が辞めれば収まる話でしょ。社長が私をかばってくれたあの言葉だけで私は気が済んだから、もういつ辞めてもいい」と言っていたが、少しシフトを減らしているうちに気分も変わり、続ける意思を示してくれた。

お客から本部へのクレーム電話は止まり、これでなんとか解決した、とみんな思っていた。
「ねえ、あれから、松村、どうなった?」
季節が晩秋に近づいたころ、例の女性が目の前にいた。1カ月半ぶりの来店だった。一連のクレームとそれにともなう心労が一気によみがえる。動悸どうきが速まり、鉛の球でも飲んだようにお腹が重くなった。クレームは終わっていなかったのだ。

「研修に行かせ、シフトを減らしています」とだけ伝え、逃げるように事務所へ駆け込んだ。このことは松村さんには知らせなかった。それから1週間後、今度は松村さんがレジで応対中、その女性客が目の前に立った。私は不在だった。

従業員もクレーマーに怯えるようになっていった
「あれから反省した? ちゃんとやってんの?」と話しかけられ、「ありがとうございました。ちゃんとやっています」とだけ答え、あとは相手にせず仕事に戻ったという。

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ところが、クレーマーはそのときの態度が気に食わないと、再び本部に電話した。本部から連絡を受けた夫は再度、彼女に謝罪電話をかけた。松村さんも「やっぱり私、辞めようか」と気に病んでいる。ただでさえぎりぎりで回っているシフトから、主力メンバーの松村さんが外れるわけにはいかない。そもそも松村さんに非はないのだから。

あのクレーマーがいつ現れるかと思うと、店に出るのが憂うつになっていた。パートさんやバイト学生たちにもクレーマーの存在が知れ渡り、みんながビクビクとするようになった。

たった一人のクレーマーが店をめちゃくちゃにすることもある。いつ終わるとも知れぬクレームに私は心身が蝕むしばまれていくのを実感していた。夫が何度目かの謝罪電話をして以降、クレーマーからの連絡が途絶えた。なぜか、本部への連絡もなく、来店もなくなった。

クレーマーを撃退した夫の神対応
「どうしたんだろうね?」と夫に問うと、夫は眼をギロンと輝かして答えた。「最後の電話のとき、ああだこうだ言うもんだから、もう嫌になって、『ああそうですか、そりゃすいませんね。じゃ、失礼します』て言って、一方的に叩き切ってやったんだ」と言った。ずっと下手に出ていたのが、急に投げやりになったのが怖くでもなったのだろうか。理由はわからないものの、それ以来、カスタマーハラスメントはぴたりとやんだ。

夫の対応もイチかバチかの賭けだったかもしれない。このときは夫の対応であっけなくカスハラは終了した。だが、まかり間違えば、逆上をまねいたかもしれない。カスタマーハラスメントの対応に正解はない。だから、われわれはつねに考え、迷い、悩み苦しむのである。