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日本講演新聞に元ザ・リッツカールトンホテル日本支社長・高野登氏の講演録が掲載されていましたので紹介します。
「10年後の自分にエネルギーをかける」

私は21歳の時に渡米して、23歳の時、ニューヨークでプラザホテルという、アメリカを代表するホテルと出会いました。
その時はプラザホテルのスタッフのレベルの高さに圧倒されて、「今の自分にはここで働くだけの力がない」と思いました。

それで私は一晩かけて自分の今の状況を「棚卸し」してみました。知識、スキル、英語力、人間関係など、一つひとつ「棚卸し」してみたら、やはりすべてにおいて圧倒的に足りない。「これを埋めるには10年は掛かるな」と思いました。

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そこで、「10年後にプラザホテルに入社できるためには、今からの10年間をどう過ごしたらいいか」と考えました。たとえば、皆さんが「フルマラソンを走る」という目標を持ったとします。そのために「半年後にハーフマラソンを走れるようになろう。そして2年後にフルマラソンを走れる体力を付けよう」と計画を立てますよね。それと一緒です。

10年後にプラザホテルに入るために私は、自分の脳と心のトレーニングメニューを自分で作ったのです。まずニューヨークの図書館にあるプラザホテルに関する本はほぼすべて読みました。中にはプラザホテルに関するページが数ページ程度のものもありました。そういう本はそのページだけ読むんです。

8年目にチャンスがやって来ました。当時私はニューヨークで囲碁を習っていました。そこは趣味を楽しむ場ですから名刺交換はしません。たくさんの日本人と仲良くなるんですが、雑談をする程度の関係でした。

ある1人の男性と知り合いになりました。その方には私がホテルで働いていることを話していました。囲碁を習い始めて4年目でした。その方が「君は確かホテルマンだったね」と言うから、「はい、今ヒルトンホテルで働いています」と答えました。

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「そうか、プラザホテルって知っているよな?」と聞かれて、「はい。実はプラザホテルに入りたくてずっと勉強してきました」と言ったら、「それはいい。私の顔を立てると思って面接に行ってくれないか」と言われたんです。

信じられないお申し出に恐縮しまして、そこで初めて名刺交換したら、なんとその方は日本航空のかなり偉い方だったのです。 
明後日、指定された時間にその方の事務所に行くと、その場でプラザホテルの総支配人室に電話をしてくださいまして、「じゃあ、いついつ面接にいらっしゃい」ということで面接日が決まりました。

5日後、プラザホテルに行きました。そこでホテルの総支配人、広報部長、そして後に私のボスになるハンズ・バシーというマーケティング部長の3人が面接をしてくれました。そこでいろいろ聞かれました。

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「あなたはどういう経緯でニューヨークに来たんですか?」「今までどんな経験を積んできたんですか?」「プラザホテルについて知っていることは何かある?」等々。
広報部長が「プラザホテルというのはね、こういう歴史があってこういう人が泊まったのよ。昔は…」と言いました。

私は「はい、知っています。その年には大統領選挙があって、その時はこういう人たちがここの一角にお泊まりになったんですよね」と答えると皆さん驚いていました。
さらに「確かここの地下3階の倉庫には前オーナーが使っていた什器(じゅうき)備品がしまわれているんですよね」なんて言ったら、広報部長はそれを知らなかったんです。

「あなた、なんでそんなことまで知っているの?」と聞かれたので、「この8年間、プラザホテルのことを徹底的に学んできましたから」と言いたかったのですが、そうは言わず、「私なりに調べました」と、それだけお伝えしました。

そりゃあそうですよ、8年間プラザホテルのことを調べていましたから、何を聞かれてもだいたいのことは答えられるようになっていたんです。

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入社したら私以上にプラザホテルのことを知っている人間は誰もいませんでした。営業経験が長い人も、一流の大学を出た人も、私に相談に来るんです。「俺の書いたこのレポート、合ってるかな?」とか。
広報部長まで「こういうプレスリリースを書いたんだけど.この中で抜けていることはないかしら?」と聞いてくるんです。
なので「こういうニュースも入れたらいいと思います」とちょっと偉そうに言っていました(笑)。

そんなことで私は相当周りから便利がられていました。
つまり何が言いたいかと言うと、「エネルギーを掛ける」ということの意味はこういうところにあるんじゃないかということなんです。

今の若い人たちはすぐに結果を出そうと急ぎ過ぎているんじゃないかと感じることがあります。
なぜ急ぐんでしょうか。それは短期目標しかないからだと思うんですね。もうちょっと長いスパンで、射程距離の目標を決めておくといいと思います。

そうすると、「最近こういうのが流行っているから」とか、「あの人こういうことをやっているらしいよ」なんていうニュースが入ってきても、そういう目先のことに一切惑わされなくなります。

短期目標しかないから惑わされちゃうんです。10年くらい先の長期目標を決めておくと、2年3年の間に何が起きても惑わされることはありません。
これを私は20代30代の時、ニューヨークで学びました。