
「ホスピタリティ」でベストセラーになった力石先生の講演は若い時に何度も受講しました。
日本講演新聞の今週号に掲載されていましたので紹介します。
「心の共有業」〜お客様を「大切なあの人」にする
トーマス&チカライシ(株)代表取締役 力石寛夫
2兆円近くの公的資金が投入され、大変な挫折感を味わった「りそな銀行」の会長さんが、たまたま私の本をお読みになり、私に連絡をくださいました。
そのご縁で私は今、りそなの行員さんのレベル向上のお手伝いをさせていただいています。

先日は、2人の行員さんが東京のパークハイアットホテルでメイクベッドや皿洗い、お客様のお料理を下げる仕事などの研修に参加されました。
その体験記が同行の文集で紹介されていました。
その文集のあとがきに書かれていた「エブリシング・イズ・フォー・ユー〜りそながあなたのためにできること」を読んで私はとても感動しました。
……りそなは今考えています。お客様にとって本当のおもてなしとは何か、マニュアルや目標などではお客様の気持ちを感じ取ることはできないのではないか、と。
恋人や親友や遠く離れた両親でも、大切なあの人を我が家にお迎えするなら、きっと朝からお掃除をして、玄関に季節の花などを生けるでしょう。
待ち焦がれたあの人の電話なら、すぐに飛びつくことでしょう。

愛するあの人の相談なら、夜を徹して語り合うでしょう。
りそなのスタッフが毎日、「大切なあの人」のことを考えてお客様に接することができるなら、町々にあるりそなは、きっとお客様にとってもっと心地のよい場所になることでしょう。……
先日、りそなのある支店長がこうおっしゃっていました。
「うちのスタッフはすごいんですよ。来られたお客様の自転車の向きを、帰られる時までに変えています。雨が降ってきたら、誰彼ともなくビニールシートを自転車に掛けています」
もっと驚いたことに、「空気入れを買ってもいいでしょうか?」と言ってきた行員さんもいたそうです。お客様の自転車のタイヤの空気がすごく減っていたことがあって、「帰られるまでに空気を入れられたら」と思ったそうです。
スターバックスコーヒーは、「我々は、喫茶店でもなければカフェでもコーヒーショップでもない。サードプレイス(第三の場所)だ」と言っています。
「第三の場所」とは、「家庭にもない、職場にもない、心の安らぎや心の癒しを体験してもらう場所」ということです。
売っているコーヒーはあくまでも手段で、目的は、そこで働く従業員と、利用されるお客様との安らぎや癒しの共有だというのです。
私はこれを「心の共有業」と呼んでいます。だからスターバックスは、一店舗当たりの客数で圧倒的に強いのです。

実は私もスターバックスのファンです。ある新幹線の駅の構内にスターバックスが1軒あります。私の知る限り、その店舗の正社員は2名で、あとの9名くらいはパート・アルバイトです。その11名全員が私の顔と名前を覚えていて、こんなふうに声をかけてくれます。
「力石さん、おはようございます。今日も出張でいらっしゃいますか? ご注文はいつものコーヒーのラテを、カップの7、8分目くらいでよろしいでしょうか?」
そして帰り際には、「お体、くれぐれもお気を付けください」と声をかけてくれます。
たった1分程度のやり取りですが、ある時には元気をもらい、ある時には優しさをもらい、ある時には安心をもらっています。
これからの時代にはこうした「心の共有業」が求められてくるのだろうと思います。