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どんな仕事も楽しくなる3つの物語(福島正伸著)に、「これが仕事するということ」がいい話でしたので紹介します。

宮崎県北部にある日之影町に廣島一夫さんという竹細工職人がいる。93歳の現役職人だ。
15歳で師匠に弟子入りし、以来80年近く竹と向き合ってきた。

荷物を入れて背負う「かるい」や「いりかご」など、ひと昔前の生活必需品をこしらえてきた。
その芸術性の高さが海外で評価され、アメリカのスミソニアン博物館やイギリスの大英博物館にも所蔵されている。

地元テレビの取材に廣島さんは「竹細工は難しいです。まだまだいいものができません」と話していた。技を極めた人にしか分からない奥の深さがあるのだろう。

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奥が深いといえば、「どんな仕事も奥が深い」という話をしたい。

実は、今はもう自動精算機になっているが、以前、宮崎市内にある大手スーパーの駐車場には出口に管理人がいた。駐車場を出る時、買い物をした証明としてレシートを見せることになっていた。客としては財布からレシートを取り出す面倒臭さがあるが、これがないと有料になるのでみんな仕方なくこのルールに従っていた。

管理人は買い物客から駐車券とレシートを確認し、お礼を言って客を送り出す。
「この仕事はあまり喜びがないだろうなぁ」と利用する度に思っていた。
そんなある日のこと、ネット配信されてきた話を何気なく読んでいたら、これが心に刺さった。

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自分の事務所の近くに駐車場を借りていたAさんの手記だった。
その駐車場には初老の管理人がいた。どこかの会社を定年退職した後、その駐車場で職を手にしたらしい。

毎朝、Aさんが駐車場に車を停め、事務所に向かおうとすると、その管理人のおじさんはいつも明るい笑顔で「おはようございます」とあいさつし、「今日もいい天気ですね」と言葉を添えていた。夕方の早い時間だとまだ勤務されていて、「お疲れさまでした」という温かい言葉にAさんは癒されていた。

ある日のこと、移動の途中で雨が降り出し、駐車場に車を入れた後、車から出られずに困っていた。
そこへ管理人のおじさんがやってきて、「傘、忘れたんでしょ。これ持っていきなさい」と貸してくれた。

満車の時、「満車」と書いた大きな看板を入り口に置いておくのが普通の駐車場だが、そのおじさんは入り口に立って、入ろうとするドライバー一人ひとりに「申し訳ありません。満車です」と頭を下げていた。クレームを言う人がいると、その車が見えなくなるまで頭を下げ、見送っていた。

その姿を遠目に見ながらAさんは「そこまでしなくてもいいのに……」と思っていた。

ある日、車を停めてあいさつしたら、おじさんは「今週いっぱいで辞めることになりました。いろいろお世話になりました」と言う。奥さんが病気になったそうだ。

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残念に思いながら、最後の日、Aさんは感謝の気持ちを込めて手土産を持っていった。そして駐車場に着いた時、Aさんは信じられない光景を見たのだった。小さなプレハブの管理人室の周りがたくさんの人で溢れていたのだ。

そして、管理人室の中も外もたくさんの手土産や花束がいっぱいだった。一人ひとりがおじさんにお礼を言ったり、握手をしたり、写真を撮ったりしていた。
Aさんは「仕事ってこれなんだなぁ」と結んでいた。