zetoy

きーちゃん「だーれももいない海、二人の愛を確かめたくて〜」

すう「ちょっと!きーちゃんいきなり不気味な歌怖いよ!」

きーちゃん「勝手にベランダから俺の部屋に侵入してるおまえの方が不気味で怖いけどな」

すう「むー」

きーちゃん「もし俺が部屋にいなかったらどうするんだよ?本気の不法侵入だぞ」

すう「きーちゃんバカだなぁ。きーちゃんいなかったら一階まで探しに行くに決まってんじゃん」

きーちゃん「マジで?」

すう「それでおばさんが作ってくれたご飯食べて帰る」

きーちゃん「完全にご飯に釣りだされてるよな。お前はゼロトップか!」

すう「なに?ゼロトップって?」

きーちゃん「昔のローマの戦術だよ」

すう「戦術?サッカーの?4-4-2とかformationのことだよね」

きーちゃん「しっかしフォーメーションの発音いいな」

すう「1年の半分海外いるからね」

きーちゃん「ゼロトップてのはさ、サッカー選手の並び方なんだよ。相手のゴール方向に4-2-3-1の人数で選手置くんだ」

すう「でもさ、おかしくない?それだと得点しなきゃいけないのに相手ゴールの前に1人しかいないことになるよ。ゴール前にストライカーはたくさん置こうよ。いっぱいシュート蹴れるじゃん」

きーちゃん「その考えは悪くはないけど、サッカーってロースコアの守備ゲームなんだ。お互いが点を獲らせないように動いてる。だからたくさんストライカーを相手のボックス内に配置するよりは、1人の信頼できるストライカーに対して、たくさんの選手が様々な方法でボール集めた方が守備も捗るし効率的なんだよ」

すう「なるほど」

きーちゃん「お前解ってないだろ?」

すう「えへへ、まあね」

きーちゃん「今度は逆の立場で考えてみて。対戦相手に強力なワントップのストライカーがいて、そいつがゴール前で虎視眈眈とシュートの機会をうかがっていたらどうするよ?」

すう「困る」

きーちゃん「じゃなくって!」

すう「ディフェンダー1人にずっと見張らせる」

きーちゃん「いいね。だけど1人じゃカバーできないくらい凄い選手だったら?」

すう「数人で見張るとするよ」

きーちゃん「だろ?俺だってそうする。ストライカーはゴールが仕事。だから横には動いてもゴールから離れたりはしないんだ。だったら見張る選手、つまりセンターバックでマークを受け渡しながらボランチと連動して挟んで潰した方がいい」

すう「でもさ、さっきサッカーって守備のゲームて言ってたよね。ストライカーは守備しないの?」

きーちゃん「するよ、今はね。でも12年前はそんなにやらなくても良かった時代なんだ」

すう「ゴールを決める専門みたいな?」

きーちゃん「そう。その代わり、彼らは90分ネットを揺らすことだけに集中できた。ロナウド、バッジョ、クライフェルト、クレスポ、ヴィエリ、バティストゥータ、インザーギ、みんなが観たいのは彼らが後ろから誰かのユニフォームを引っ張るところじゃなく、鮮やかにゴールを奪う姿なんだよ。10年前のサッカーには芸術点があったんだ」

すう「守備を免除されてたんだね」

きーちゃん「それだけポジション毎に専門的な仕事を分担していたってことかな。でもさ、そのくらいチームで信頼されているストライカーがさ、もしも1人もいなかったらどうするよ?」

すう「困る」

きーちゃん「おい!」

すう「えへへ」

きーちゃん「ゼロトップはウディネーゼからローマにやって来たスパレッティ監督が発案したシステムなんだ。フォワードがゼロ。つまりセンターフォワード不在のシステムのことだよ」

すう「じゃあ10対11で戦うの?」

きーちゃん「そこはさすがに11人同士だけどさ、当時のローマにはセンターフォワードの看板を背負えるまともなストライカーが1人もいなかった。そして怪我人も多発していた」

すう「ヤバい」

きーちゃん「どうしたと思う?」

すう「わかった!じゃ他のポジションから同じくらい得点能力高い選手連れて来たらいいんじゃない?なーんちゃって」

きーちゃん「実はそうなんだ。ローマにはストライカーよりも得点できそうな選手がいた。それがフランチェスコ・トッティだよ」

すう「さすがに名前も顔も知ってるよ。きーちゃんの待ち受けの人だよね?」

きーちゃん「そう俺の待ち受けの・・・って、すう!」

すう「ヤバ!」

きーちゃん「次からはパス掛けるからもういいよ。話戻すけど、トッティはトレクァルティスタ、つまりミッドフィルダーでも最も花形の司令塔、トップ下なんだ。その彼をセンターフォワードに置き、ボランチという守備的な仕事をするペロッタをトッティの持ち場だった司令塔の位置に上げた」

すう「それで上手くいったの?」

きーちゃん「スパレッティ監督の狙いは的中した。フォワードのトッティにはマンマークがついた。マンマークってことはトッティがどこに行こうとピッタリ側で見張らなきゃならない。でもそのトッティが自陣の方まで移動したらどうする?」

すう「ついてく」

きーちゃん「その通り。監督の指示は絶対だ。マーカーに任命されたセンターバックは番犬のようにトッティを追いかけまわすしかない。さっきも言ったけど当時のストライカーはゴール前にいてナンボの商売だ。なのに、トッティは持ち場を離れてゴールから遠ざかった」

すう「職場放棄だね。でもボランチだっけ?その人にマークを譲ればいいんじゃないの?」

きーちゃん「話は逸れるけど、ゼロトップでローマがイタリアで最も美しいサッカーだと言われた時、幾つかのクラブが真似をしたんだ。ウディネーゼとかね。でもどこも上手くいかなくてすぐ元に戻した」

すう「なして?」

きーちゃん「それはトッティのタレントを活かした戦術だったからなんだ。依存したとも言えるね。他の人では再現できなかったんだよ。2006年のカピターノは1人マークをつけたくらいじゃどうにもならなかった。ボール持ちながらゴールからどんどん離れていくんだから敵は混乱してしまう。全員ズルズルとついていくしかない。例え中盤にマーク渡しても、その中盤の選手が引きつけられるんだから、やっぱりどこかでフォーメーションが崩れて広大なスペースが空くよね」

すう「なるほど。あ、今度のは本当にわかったよ」

きーちゃん「トップ下のペロッタ、サイドハーフのマンシーニとタッデイがそのスペースを使って攻撃する。トッティはゴールに背を向けていても、そこから司令塔としての本来の持ち味である展開力でパスを出すからね。これがゼロトップシステムだよ。当時雑誌やネットでは流動的な中盤とも形容されたけど、ぼくは違うと思う。空いたスペースに他のミッドフィルダーが流れ込むみたいな感じは確かに水や空気の循環のようだけど・・・」

すう「ようだけど?」

きーちゃん「本当は攻撃時にサイドハーフがウイングポジションに上がる4-2-3-1から4-3-3への可変フォーメーションなんだよ!」

すう「可変?」

きーちゃん「3バックが守備で5バックに可変するのはわかるよね」

すう「わかるわけないじゃん!」

きーちゃん「その逆パターン」

すう「だからわかんないって言ったよね、きーちゃんのいじわる!でもさ、そうなる前にみんなでボール奪ったらいいんじゃないの?」

きーちゃん「言っただろ。2006年のトッティは1人マークつけたくらいじゃどうにもならいって。数人で囲ってもボールをキープされて、正確なフィードを前線に送られてしまう。つまりゼロトップってのは、トッティの能力だけじゃなく、トッティに対する警戒心の高さを利用した戦術なんだ。それでもトッティが捕まったら、周囲にはピサーロとデ・ロッシという2人の補佐が展開してくれる」

すう「チェスとか将棋みたい」

きーちゃん「戦術的ピリオダイゼーションが浸透していない時代にこれだけの約束事を選手にやらせるんだ。イタリア人監督じゃないと思いつかないよ」

すう「戦術的なんとかみたいな専門用語はちょっと引くよ」

きーちゃん「ごめん。言ってみたかっただけ。このゼロトップでストライカーとして開花したトッティは、2006/2007シーズンにはセリエA得点王に輝き、ヨーロッパで最も多くの得点を挙げた選手に送られるゴールデンシューも獲得している。この賞はトッティの後は今日までほとんどメッシかクリスティアーノ・ロナウドで独占しているね」

すう「わかったよ」

きーちゃん「ホントかよ」

すう「きーちゃんがローマの話だとおしゃべりになるってことがね」

きーちゃん「おい!」

すう「でもさ、なんで私がきーちゃん家のリビングでご飯食べるのがゼロトップなの?」

きーちゃん「すうはご飯に釣り出されたディフェンダーって意味だよ。その間に俺は部屋でゆっくりできるからな」

すう「うそ?!きーちゃんずるーい!」

【ゼロトップの背景】
地獄のような2004-05シーズンが終わると、ローマはウディネーゼを率いてチャンピオンズリーグ出場を果たしたルチアーノ・スパレッティを招聘した。スパレッティは3-4-3、3-5-2のフォーメーションを好んでいたが、2005-06シーズンはエース、モンテッラの度重なる故障で自身のフィロソフィーを放棄するしかなかった。プリマヴェーラのチェルチは18歳、16歳のオカカは経験不足。カッサーノはセカンドストライカー、ノンダはあくまでバックアッパーと考えられていた。

そこでスパレッティ監督はトッティをセンターフォワードに据え、ブラジル人のドリブラーをワイドに置いた。苦し紛れのアイデアだったが、これがローマ大躍進の鍵となったのである。

例を挙げて説明しよう。スパレッティ就任2年目の2007/2008シーズン。
チャンピオンズリーグに出場したローマは、マンチェスターユナイテッド、スポルティングCP、ディナモキエフと同じグループFを2位通過する。そして決勝トーナメントでいきなり白い巨人と当たった。2008年の4月に行われたベルナベウのマドリー戦は、初戦アウェーゴールを奪われたもののローマが2-1で勝つ。そして敵地でも奇蹟を起こした。その時のスタメンは以下の通り。

スタメン
32 Doni
3 Cicinho
4 Juan
5 Philippe Mexes
8 Alberto Aquilani
11 Taddei
16 Daniele De Rossi
20 Simone Perrotta
22 Max Tonetto
30 Mancini
10 Francesco Totti

ベンチ
2 Christian Panucci
7 David Pizarro
9 Mirko Vučinić
27 Julio Sergio
21 Matteo Ferrari
33 Matteo Brighi
14 Ludovic Giuly

一方、銀河系軍団のメンツはこんな感じ。

スタメン
1 Iker Casillas
2 Michel Salgado
3 Pepe
5 Fabio Cannavaro
16 Gabriel Heinze
6 Mahamadou Diarra
8 Fernando Gago
14 Guti
7 Raul
10 Robinho
19 Julio Baptista

ベンチ
15 Royston Drenthe
22 Miguel Torres
9 Soldado
25 Jerzy Dudek
12 Marcelo
28 Balboa
20 Gonzalo Higuain

それではベルナベウの夜を参照しながら説明していこう(といっても、既に大方すうときーちゃんが説明してくれたけど)

図1
ゼロトップのスタートポジションは4-2-3-1。
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カウンターを発動しやすいこのフォーメーションでセンターフォワードのトッティはボールを貰いにどんどん下りてくる。

図2
トッティが下がってボールを持つとトップ下のペロッタ、サイドハーフのマンシーニ、タッディが2列目から追い越して前線に飛び出し4-3-3へと可変する。ここで注目はEDFの4-3-3における中盤の並びがインサイドハーフを2枚並べた逆三角形に対して、スパレッティはリトリートを視野に入れた正三角形を維持しているということだろう。注:2007年のゼロトップは、ピサーロが上がってペロッタと組む逆三角形の中盤と、トッティの位置にヴチニッチが入るより緻密なシステムに進化してると説く海外の研究サイトもある。

zerotop2

トップ下のペロッタはトッティを補完する相棒で、トッティがやらない前線のプレスを本職の守備的MFとして行い、攻撃に転じたときは攻撃的MFとしてゴールを奪った。実はこのペロッタのインテリジェンスの高いプレーもゼロトップの重要な要素だった。

これはスコアレスのまま迎えた55分。マドリーのパスミスをLSBトネットが奪ってトッティに縦パスを出したシーン。
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.肇奪謄、トラップの瞬間。カウンターチャンスなのでシンプルに叩いて自身も上がりたいところだが、ここではボールキープを選択。そのまま自陣方向に下がっていく。

▲撻蹈奪燭牢にスプリントを始めている。

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0豸3人の選手でサイドラインに追い詰められているように見えるが、ボールを踏んでディフェンダーを背負う通称「鬼キープ」でディワラを全く寄せ付けずタメを作る。

ぅ肇奪謄が1人で3人引きつけたことで中盤に大きなスペース(オレンジの円)が生まれた。数的優位性を活かしてアクイラーニとデ・ロッシがパスを受けにくる。アクイラーニにはガゴがついたが、そのお陰でデロッシが空いた。

zerotop4

最後はデ・ロッシがペペをかわして右のシシーニョに展開して攻撃開始。シシーニョのアーリークロスをヘディングしたのが一番最初に駆け上がったペロッタ。惜しくも枠を捕らえなかったが、これだけでローマが、ビルドアップからフィニッシュまで複数の選択肢を当時の持っていたのが判ると思う。

こういった動きからシュートで終わったり、得点になるなんてのは実戦の中でフレキシブルに動けばいくらでもある。しかし、それを論理的に考え、戦術という文法にしたのがルチアーノ・スパレッティ監督の発明したゼロトップなのだと思う。

結論

懐古的な内容ばかりだと、如月=オールドファンみたいな喜ばしくない評価になっちまいそうだし、冷めたスープを温め直してるようでなかなか気乗りせずに、これまで古い話は必要最低限に留めていたのですが、アンケートで昔を知りたいという意見が見受けられたので今回特集してみました。この頃を知らないファンに楽しんでもらえたら嬉しい。もちろん昔からのファンに懐かしんでくれたら光栄です。

今回、改めてゼロトップを研究すると、割りと2018年の現在ではひとつひとつは当たり前のタスクなんですよね。別に特集するほどでもないという意見もあるでしょうね。ではなぜ、この戦術が凄かったのか、当時ほとんどのチームが真似できなかったのはどうしてか?それは、各ポジションに専門家がいた古き善き時代から、アスリート化の急速に進んだヨーロッパサッカー転換期に、トッティがいたからこそ実現できた未来の戦い方だからなのです。

対戦相手の監督はトッティが出場したらどうするかと一週間訊かれ続けた時代。一芸に秀でた才能の持ち主たちがピッチを駆け回った時代。発煙筒の煙がスタジアムに充満して、殺気と不吉な気配が蔓延していたビッグマッチ。ドリブラーは10回中2回美しくディフェンダーを置き去りにすればバールで称賛された時代。

そこに突如ゼロトップ戦術が現れたらどれだけ衝撃的だったのか。そんな事を想像してぼくたちは愉しむことができる。現在も一部のクリエイティヴな監督は常に新しいシステムを創造しようと思考しています。サッリやアッレグリがそうであるように、ディフランチェスコ監督もいつかローマに第2のゼロトップをもたらすとぼくは信じているのです。

最後に疑問がひとつ。
なぜフォワードが中盤まで下りてくるスタイルでトッティは得点王になれたのか?今回のテキストを書く為に、ぼくの所有する当時の試合DVDを何十枚も観直したんだけど、それで判ったのは、ローマは常にゼロトップという訳ではなく、またどちらかと言えばトッティ自身基本に忠実にセンターフォワードとしてのポジショニングを心掛けていたように見えたということ。だから点を獲れたのはそもそもトッティにフォワードとしての素質があったからなのでしょう。2006/2007シーズンはヘディングでも得点してたもんね。

そしてもっと驚く話するとゼロトップは日本だけの造語だったりします。