July 04, 2007

患者番号[0069]、年齢:10歳、性別:女

23378b97.jpeg試験サイト番号[6587]
患者番号[0069]
年齢:10歳
性別:女
体重:41ポンド(18.6キログラム)



その記録には、少女は名前の代わりにそう記載されていた。


患者番号[0069]は試験番号[154-149]において、56ミリグラムの「薬」を投与された。

投薬から1日後、全身の力が抜け、片方の目は一点を凝視した。

投薬から3日後、彼女は死んだ。


記録には次のように記載されていた。

対処:変更せず、そのまま続行
結果:死亡



1996年、ナイジェリアの北部のカノ地区で大規模な脳炎・髄膜炎の流行が発生した。最終的な死者の数は、1万3千人以上にもなった。


次々に倒れる子どもたちを、貧しくて病院にも連れて行けず、何も出来ずにただ見守るだけだった親たちに、ある日、ラジオ放送が国際医療援助団体「国境なき医師団」が無料で治療をすると伝えた。


だが、人々が集まった病院には国境なき医師団とは別に、もう1つのグループが待っていた。


彼らはアメリカの世界最大の製薬会社『ファイザー』のスタッフだった。



当時ファイザーは、ある新薬の開発をおこなっていた。

トロバンと名付けられたその新薬は、細菌性の病気に対して今までのものよりも効果がある抗生物質とされ、今後、ファイザーの主力商品としてファイザーに莫大な利益をもたらすと期待されていた。

ただ、この薬に対して1つの懸念があった。

トロバンの属するキノロン系の抗生物質については、子犬や子ウサギの実験で異常が起こることが報告されていたからだ。


ファイザーはこの薬の安全性を、人間の子どもで証明する必要があった。

だが、特に細菌性の脳炎、髄膜炎についてのデータは、アメリカ国内での臨床実験の数はまだ少なく、というより患者自体が少なかった。


ファイザーはもっと多くの被験者を必要としていた。

できるだけ早く商品化するために。


「我々は迅速に行動する必要があった。」
「アメリカ国内で、これだけの数の被験者の子どもを見つけるのは不可能だった。」

後に、ファイザーの広報・ベッツィ・レイモンドは語った。


ファイザーの試験チームはナイジェリアへ向かった。

彼らはそこで、200名の子どもたちに新薬を投与した。


ファイザーは、ナイジェリア当局に許可を得たと主張しているが、ナイジェリア政府は否定している。

ファイザーは、患者の子どもの親に新薬の実験であることを「口頭で伝えた」というが、親たちはファイザーのことも実験のことも知らなかったと言っている。

その年、ファイザーはアメリカで新薬の認可を得るために治験データを食品医薬品局−FDAに提出した。

その資料には、実験を行ったナイジェリアの病院の倫理委員会の承諾を得たと記載され、その承認書類もあったが、当時、その病院には倫理委員会はなかったことが後に判明した。

その他、50箇所近くにデータや記述の矛盾をFDAは発見、指摘した。


それについてファイザーは
「実験の有効性や結果について影響を与えるものではない」と主張した。


1997年12月19日、FDAはトラバンについて、【大人にのみ使用できる薬】として認可した。

また、少し後にEU(欧州連合)でも認可が下りたが、【子どもには使うべきではない】とされた。


それでもトロバンは、ファイザーの大規模な宣伝販売戦略で、たちまち主要な医薬品となった。

しかし、その後16ヶ月間に、副作用が疑われる140件の肝機能障害、14件の肝不全、そして6人死者が発生した。


FDAは、トロバンの使用を他の選択肢がない場合に限るよう警告、EUでは認可を無期限の停止とした。


2000年、ワシントンポストが一年に渡る調査報道記事を発表、この問題が明るみに出る。


2001年、ナイジェリア政府はこの問題について調査を行ったが、最終的な調査報告書は、弁護士・ジャーナリストの要求にもかかわらず公表されなかった。


2001年、ナイジェリアの患者の家族、遺族30人が「残酷で、非人道的で尊厳を奪う処置」に子どもたちをさらしたとして、アメリカ・ニューヨークの裁判所に対し
ファイザーを訴える。

2005年、ニューヨークの裁判所は訴えを退ける。


2007年4月、ナイジェリアの新大統領としてウマル・ヤルアドゥアが当選する。

2007年6月4日、ナイジェリア新政権は当局に許可を得ずに実験を行ったことと、この薬によって障害や奇形、そして50人以上が死亡したとして、ファイザーを相手に8000億円を求める訴訟を起こした。

それに対しファイザーは、死んだ子どもの数は11人だけで、それも薬によるものではないとしている。


ファイザーはトロバンのために、世界27カ国、1万3千人に対し試験を行った。


ファイザー、トロバン、ナイジェリアに限らず、今、新薬は世界中の特に発展途上国の貧しい人々を使って試験されている。


貧しくて病院にも行った事のない人々は、他の薬の影響がないため試験データの収集には最適だという。


行政の監視システムが弱く、国際社会の目も届かない場所に住み、文字を読み書きできず、医療知識の乏しい人々は先進国の製薬会社にとって大切な実験用のモルモットとなっている。


患者番号[0069]の少女は、実験薬が効かなかった時点で治療を切り替えるべきだったと専門家たちは指摘している。

しかし、患者番号[0069]はそのまま放置され、試験は続けられ、そして死んだ。

ほんの数メートル離れた場所で、国際医療団体「国境なき医師団」が正規の治療を行っていたが、患者たちにも親たちにもそのことは知らされていなかった。

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