2006年01月24日

★ 不妊 ニュース ★ 『科学の夢』韓国の悪魔に

 難治性の病気治療にも道を開くとされるヒトの胚(はい)性幹細胞(ES細胞)研究で、韓国の黄禹錫(ファン・ウソク)ソウル大教授チームによる「十一株のES細胞をつくった」との論文が二十三日、ねつ造と判定された。「ノーベル賞は確実」と期待された“英雄”の失墜に、韓国国民はいま、言葉にならない失望感に包まれている。

 ソウル大調査委員会が「ねつ造」判定を発表した数時間後。大学構内で記者団に囲まれた黄禹錫教授は「国民に謝罪し、大学教授を辞職する」と述べた。周りで、研究を支えた若いスタッフが泣きじゃくった。

 韓国政府が第一号で選任した「最高科学者」の権威が、地に落ちた瞬間だった。

 政府は今年十月、ES細胞を作成し研究者に有償で提供する「世界幹細胞ハブ(研究センター)」を設立した。ソウル郊外の京畿道では、黄教授の名を冠した「バイオ臓器センター」の建設に着手。政府は生命工学、バイオ産業を経済の新しい核に設定、自治体も合わせ、黄教授チームの研究支援費は約六百億ウォン(約六十億円)に上っていた。

 論文がねつ造とわかり、政府は一転して「黄教授への研究費支給を中断する」と発表。「科学技術立国」を掲げる韓国には大打撃だ。

 黄教授は獣医学者。初めはクローン牛を誕生させて注目された。米国のほか北海道大でも研究生活を送り、日本語もできる。ソウル大医学部の関係者は「人間を対象とする医学者だったら、もっと慎重に進めただろう。黄教授は成果を焦りすぎた」と指摘する。

 だが、問題となった二〇〇五年の米科学誌「サイエンス」論文には、黄教授を含め二十五人の共同執筆者がいた。大学教授、不妊治療をする病院の医師らが含まれており、韓国の生命工学研究のレベルそのものが疑われかねない。

 最も落胆したのは、難治性疾患の患者とその家族だ。

 韓国紙・中央日報によると、交通事故で脊椎(せきつい)が損傷した少年(11)は、父の勧めもあり、実験用の体細胞を寄贈した。黄教授も直接病室を訪れ、「君を歩けるようにしてあげる」と約束したという。研究に疑惑があると分かったとき、少年は「僕はもう歩くことはできないの」と父に聞いた。それでも父は「ES細胞の作成技術は確立したと信じる。いつかよい結果が出る」と希望を捨てていない。

 黄教授チームが実験に使う卵子の入手に、生命倫理上の問題があると批判されたときも、カトリック教会など韓国の宗教界は、研究を支持する熱気に押されて問題を提起しなかった。「世界初の快挙」と信じた研究が「悪夢」になり、多くの韓国国民は深い心の傷を負った。 (ソウル・山本勇二)

 論文で十一の「ES細胞」中、九つの作成についてねつ造が確認されたことで、次の科学的焦点は、残る二つの「ES細胞」の真偽に移った。

 培養された細胞がES細胞株であると確認するためには、特徴的な物質を発現していることや、何世代も分裂を繰り返していること、マウスに注入したとき、がん細胞のような組織(テラトーマ)を作るといった条件を満たさなくてはならない。

 残る二つの細胞について、ソウル大の調査委員会は「テラトーマを形成したことを確認した」と、ES細胞の可能性があることを示している。

 だが、黄教授がつくったとされるのは、細胞の核を操作せず受精卵からつくった普通のES細胞ではなく、核は他人の皮膚細胞から移植されたものだという。培養されている細胞と、核を提供した人の細胞とでDNAが一致するか、検査結果待ちの状態だ。

 たとえ二つがES細胞であっても、核移植を利用したものでないなら、科学的意義は薄い。また黄教授に提供された卵子は千二百個に上るとされており、論文に書かれた「百八十五個の卵子から十一株のES細胞ができた」というのと比べると、効率は全く異なる。

 黄教授の研究は再生医療実現に大きな一歩として世界中の科学者を驚かせた。今度は「あまりに大胆なねつ造」(研究者)で、世界中の一般市民を驚かせることになったようだ。 (科学部・吉田 薫)

<東京新聞>

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