企業は誰のためにあるか

 ロック、ヒューム、バーク、さらには『フェデラリスト・ペーパー』の書き手たちを生んだ政治哲学の父、イギリスのジェームズ・ハリントンは、その著『オセアニア』において、「力は財産からもたらされる」と言った。彼は、「絶対王権を拒否した1640年代のイギリス革命が、大家族から地方地主階級への財産権の意向によってもたらされた」と論じた。

 あの頃と同じように、最近の五十年間において、先進国では人口構造の変化が財産権の移行をもたらした。その結果、力の移行が生じた。金持ちではないが豊かな非肉体労働の中流階級の出現と、平均寿命の伸長が、年金基金と信託基金の発展をもたらしたその結果今日では、先進国社会における主たる財産、すなわち株式公開企業の新たな法的所有者が誕生した

 この変化は、かつて私が分析したように、アメリカで始めに起こった(『見えざる革命』)。今日では、将来の年金受給者を代表する機関が、アメリカの全上場株式の40%以上、大企業の株式の60%を所有するに至っている

 イギリスでも同じことが起こっている。ドイツ、フランス、日本その他あらゆる先進国において、将来の年金受給者が企業の所有者となりつつある。そしてこの財産権の移行に伴い、今日、力の移行が起こりつつある

 企業は誰のために経営するのか」というコーポレート・ガバナンスにかかわる問題の急浮上の背後にあるものが、この変化である株主利益への急傾斜の背後にあるのも、この変化である。今日では、アメリカ以外の国でも、同じ種類の議論が聞かれるようになった。


  (歴史上、いかなる国においても、「企業とくに大企業は、株主のためにのみ経営すべきである」という主張はもちろん、「主として株主のために経営すべきである」という主張さえ主流になったことはない。)


 アメリカでは、1920年代以降つい最近まで、かなり曖昧ではあったが、「企業は、顧客、従業員、株主のバランスある利益のために経営すべきである」との考えが主流だった。その結果、実際には、誰にも責任を負わずに経営が行われてきた。イギリスでもそうだった。

 他方、日本、ドイツ、スカンジナビア諸国では、「大企業は社会的な調和をもたらすために経営すべきである」とされてきた。すなわち、従業員とくに肉体労働者の利益のために経営してきた


成果についての新しい定義

 今日、これらの考えのすべてが無効となりつつある。もちろん、「企業は株主の直接的な利益のためにのみ経営すべきである」とのアメリカの新理論も無効であって、やがて修正されることになる。

 これからは、ますます多くの人たち、特に高年まで生きることが確実と思われる人たちにとって、老後の保障は、自らの投資に対する見返り、すなわち企業の所有者としての所得に依存することになる。したがって、株主にとっての利益につながる形での業績の重要性が減ずることはない。しかし彼らは、配当にせよ株価にせよ、短期的な利得は必要としない問題は、二十年後、三十年後の利得である

 これに加え、あらゆる組織にとって、知識労働者としての従業員のニーズを満足させることが必要となる少なくとも彼らを惹きつけ、とどめ、生産的な存在とするために、彼らのニーズを重視することが不可欠となる

 これに対し、ドイツや日本の企業が重視してきた肉体労働者の重要性は低下し、企業活動の目的の一つとしてきた社会的な調和も、かつてのような意味はもたなくなる

 コーポレート・ガバナンスをめぐる論議は始まったばかりである。企業とくに上場している大企業の目的について、新しい定義が必要とされている株主優先の短期的利益と、長期的繁栄とのバランスをはからなければならない。

 財務上の観点だけからみても、われわれは全く新しい種類の問題に直面している。大切なことは、今日株主になった人たちが年金をもらう年になるまでの三・四十年を立派に経営することである。これはかなり実現の厳しい目標であって、非現実的とさえいえる。企業の平均寿命、少なくとも繁栄する企業としての平均寿命は、かつて三十年を超えたことがない

 したがって、われわれは経営の概念そのものを変える必要がある。もちろん、その評価の方法も変えなければならない

 しかも、知識労働者にとって意味があり彼らのやる気を引き出すような金銭とはかかわりのない成果についても明らかにしなければならない。「非金銭的な見返り」が必要とされている。

 今やあらゆる組織が、自らにとっての成果の意味を徹底して検討する必要がある。成果とは、これまでは当然かつ分かりやすいものだった。だが、もはやそうではない。組織としての経営戦略を、その成果についての新しい定義を前提として組み立て直さなければならなくなっている

 『明日を支配するもの』より

 
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