林  将生

「ブログを通じて全国のみんなにこの映画のことを知って欲しいんだ・・・」

澁谷桂一はそう言った。あるいは、それに似たような語句を並べた様子だった。というのも、この時私は彼の喉首を握り潰そうと、左手に渾身の力を込めていたからである。

私はハッと我に返り、澁谷を解放した。暴力性とは無縁の性格を持つ私をここまで怒りに駆り立てることができる事も、映画「やさしい人」の監督を務める彼の類稀なる才能の一つと言えよう。

彼は撮影スタッフ全員に迷惑をかけ、ストレスの種を撒き散らし、自分はまるで被害者であるかのような態度でふんぞりかえるのだ。

撮影初日を終えた今日、私を除く全員が精神的疲労を現場から持ち帰った事は言うまでもない。
記念すべきブログの第一回めのエントリーに、映画制作において極めて役割の小さい私が更新係に名乗りを上げたのも、私がたまたまストレスを感じていないからだ。このブログがただの愚痴の垂れ流しになる事態を私はなんとしてでも防ぎたかったのである。

クランクインの日は往々にしてバタバタするらしい。
しかしまさか撮影現場にありつくまで2時間40分の貴重な時間と、9900円の現金を費やすと誰が想像できただろうか。ラブホテルの一室に六人も入れてくれた心優しいオーナーに今一度感謝の意を示したい。

撮影中は澁谷も普段のクソふざけた態度を封印し、映画監督の風格を漂わしていた。それに呼応するかのように音響の末永さん、照明の目代君もプロかと見紛うような動きを見せていた。一方演者である私と主役の小鳥役を務める安川まりさんはへらへらしていた。
演技をするのは初めての経験で、緊張はしたのだか安川まりさんが時折口走る意味不明な日本語のおかげでだいぶ気持ちが落ち着いた。無事撮影は終わり、私たちは煙たいホテルをあとにした。

台本を受け取るためだけにわざわざ現場まで出向いたあげく、マックで三時間以上待たされたタニヒロ、中西君、りんちゃんには渋谷に代わってお詫びを申し上げます。でも彼を許してやって欲しい。澁谷はその監督としての才能と引き換えに、人間としての常識とデリカシーをいつしか失ったのだ。そう信じる事にしよう。

予定していた三つのシーンのうち、一つしか撮影出来なかった初日。まさに前途多難だ・・・しかしこのチームならなんとかなる気がするのだ。監督がムカつくと感じた時はぐっと堪えて、このブログにその怒りをぶちまけよう!なんかさっきと言ってる事違うけどよしとする!

このブログはスタッフの皆さんが毎晩交代で更新するので、楽しんでください!こんな長くてめんどくさいエントリーはこれで最後になると思うので大目に見てやってください!
映画「やさしい人」をどうかよろしくおねがいします!!