心理学広場

心理学を通して世の中を見る

2011年09月

東大で心理学を研究しています。今の専門は対人心理学。 普段、論文を書くときには、基本的に統計的に確かめられていることしか書かないのですが、ここでは心理学から一歩踏み出したことについて書いてみたい、と考えています。 心理学的な内容について書く際、典拠などは書かないつもりなので、もし知りたければ連絡ください。 また、被験者集めのための告知も行います。

日本認知科学会

日本認知科学会なるものが東大で開かれました。
自分がやっている研究とは随分と分野が異なったのですが、個人的に面白かったのは大阪大学の平川秀幸先生(http://twitter.com/#!/hirakawah)の話でした。トランスサイエンスコミュニケーションについての考察です。
トランスサイエンスとは、聞きなれない言葉だと思いますが、これは「科学で扱うことはできるが、科学では答えを出せない問題」のことだそうです。(http://hideyukihirakawa.com/docs/cogscisympo-hirakawa.pdf#search='トランスサイエンスコミュニケーション'

福島第一原発事故以来、国民の多くの不満が湧きおこりました。「事故現場からどのくらい遠くへ離れなくてはならないか」、「何ミリシーベルトの放射線なら浴びても大丈夫なのか」、「数千年に一回といわれるような事故に対して、どの程度の対処を行うのか」…

こうして次々とわき起こる疑問に対して、政治家や科学者は「正しく恐れることが大切だ」、「国民の理解を得られなかったようだ」、「国民のリテラシーを向上させなくてはならない」、といった発言を繰り返してきました。
これらの言説はまるで、「正しい知識を手に入れれば、問題は解決する」と考えているかのようです。もしかしたら本当にそのように考えているのかもしれません。

しかし、これらはいくら知識を身につけても、答えを出すことができない問題です。

例えば、「何ミリシーベルトの放射線なら浴びても大丈夫なのか」という疑問に対して、科学は一定の見解を示すことができます。チェルノブイリ事故やスリーマイルの事件から得られた知識を応用し、「基準値100ミリシーベルト以下ならば、その地域のガンによる死亡率は0.8%です」、といった情報を知らせることはできます。しかしそこでその数値を、たった0.8%、とみるか、0.8%も、と見るかは、個人の判断に委ねられます。1000人の住民がいるうち、8人がガンで死ぬことは、多いでしょうか、少ないでしょうか?しかも、この基準値が放射線が原因のガンであるかについて、科学は答えを出せません。過去二つの原発事故だけでは、原因を放射線に特定するほどのサンプル数がないのです。この事実を知って、「放射線の影響がある」と判断するのか、「放射線の影響はない」と判断するのかも、また個人の価値判断にゆだねられます。

つまり、こうした疑問は、科学から一定の知識を得ることはできるが、まだ科学では解明されていない、または、決して科学で解明することのできないトランスサイエンスな問題なのです。

そうした問題を、あたかも答えがあるかのように、そして自分達は答えを知っているが、国民は知らないと決めつけているかのように、政治家や科学者が振舞ったことが、国民の不満をあおる根本的な原因だったのではないか。国民は、科学者も含めて、科学がどういった性質のものであるかを知るべきであり(それは昨日まであった定説が今日は覆るかもしれないようなものです)、科学者はもっと謙虚であるべきであり、政治家はそうした事実を国民に伝えるコミュニケーターとならなくてはならない、というお話でした。

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ブログを利用して心理学実験1結果

まずは前のブログで行ったトロッコ問題(ブログを利用して心理学実験1 : 心理学広場)の話から。被験者数が少ないですが(笑)、いちおう結果は欲しい方向に出ていますね。
このトロッコ問題では、「1人を犠牲にして5人を救う」という構造は同じです。にも関わらず、レバーを動かすことは倫理的に許されると思われがちなのに対して、直接突き落とすことは倫理的に許されないと思われがちになるのです。
この理由はいろいろ研究が進んでいますが、結局のところ、直接の接触があるかないかという違いが大きいようです。

これは例えば政治に置き換えてみれば分かりやすい問題です。
政治家が消費税増税を打ち出します。これはいわば、レバーを動かす行為です。
この行為によって、今後増えると考えられる高齢者が恩恵を受けると考えられます。その代わりに、毎日の生活をやりくりするだけでも苦労しているような低所得者にとっては重い負担となります。
もし政治家が、低所得者のお金を直接奪い取って、直接高齢者に手渡せば、倫理的な大問題として取り扱われるでしょう。政治について批判はあるものの議論を進めることができているのは、政治がレバーを動かす行為だから、と言えるかもしれません。

世の中には数多く、こうした「レバーを動かす」ような行為が行われています。そして、レバーを動かす行為に対して、我々の倫理観は低くなりがちなのです。消費税増税が悪い、と言っているわけではありませんが、せめて物事の本質を見極めるために、「直接手を下すとしたらどのような行為を行っているのだろう?」という疑問を持つことは悪い事ではありません。

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ブログを利用して心理学実験1

どうやらアンケートっていう便利な機能があるようなので、利用させてもらおうと思います。
いわゆるトロッコ問題という、心理学では昔から有名な問題です。被験者になったつもりでやってみていただけると嬉しいです。

質問1をやってから質問2を見てください。

質問1
「線路の向こうからトロッコが走ってきています。このままでは線路の先で作業をしている5人が轢き殺されてしまいます。今、あなたの手元にレバーがあり、レバーを動かせばトロッコを別の路線に誘導できます。そのことによって5人は助かります。しかし、トロッコを誘導した線路の先に別のCさんが一人で作業しており、代わりにCさんが轢き殺されてしまいます。なお、ここではレバーを動かす以外に5人を救う方法はないものとします。さて、レバーを動かすことは倫理的に許されないことですか?」


質問2
「今、あなたはCさんと一緒に崖の上に立っています。崖の下では、線路の上で5人が作業をしています。そこへ線路の向こうからトロッコが走ってきました。ここでもし、あなたがCさんを崖から突き落とせば、ちょうどトロッコの前に落ち、Cさんがブロックになってトロッコが止まり、5人は助かります。ここではCさんを突き落とす以外に5人を救う方法はないものとします。さて、Cさんを突き落とすことは倫理的に許されないことですか?」



この問題では、1人を犠牲にする事で5人を助けるという構造は同じです。それにも関らず、結果が異なってくるというところが肝なのですが、ちゃんと結果は出るでしょうか。


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心理学研究の不思議な日常1

今日はウンチクから離れて日常でも書いてみようかと。

文系研究者というのは、基本的に自分の研究をする人は自分だけ、ということが多いので、孤独です。
中でも哲学とか美学とかになると、学会まで他の人に会わないなんて方はザラにいるのではないかと。
以前美学の研究室に遊びに行ったことがあるけど、漫画が沢山あって笑った。

ダメ人間も沢山いれば、いい研究を沢山残してどんどん先へ行く人もいる。
個人の気力と能力で何もかも変わってしまう世界なのです。

理系研究者ならば、チームで実験を行うことが多いので、もうちょっと格差が小さい。
それに基本的に彼らは世の中の役に立つことをしているので、政府からも沢山お金をもらっています。

心理学は…といえば、文系と理系の間にいるような学問なので、ややこしい。いい研究をすれば、お金が入ってくることもあるようです。例えば最新のポリグラフの研究にCIAが100万ドルの支援金を出した、という話がありました(打ち切られたようですが)。
他にも、マーケティング心理学だとか、経済心理学だとか、何人かのチームで研究を行い、ある程度のお金をもらっている所もあるようです。
しかし、なんせ対象が心なので、特許をとるような研究はしにくいと思います。
結局のところ「お金にならない」というのが現実ですね。

それでも生きていけるのは、他の文系と比べれば人とのつながりが多い、ということがあると思いますが、今日はこの辺で。詳しい話は先に書いてゆきます。



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自己をさらけ出す女たち

自分の生い立ちや悩み事などを他人にどんどん打ち明ける人ほど、人付き合いが上手、という研究があります。
1971年のジュラード(美味しそうな名前…)から知られている研究です。

しかし最近になって(1990年代からですが)、自分のことを打ち明ける際には、「相手を選べ」ということが大切だと分かってきています。
そんなこと当たり前だ、と言われるかもしれませんが、結構細かいところまで研究が進んでいるようなので、紹介します。

1 知り合ったばかりの相手に自己開示しても意味がない
2 異性に対しては意味がない
3 女性同士だとかなり有効。男性同士はまあまあ
4 特定の相手に絞って自己開示する方が有効。誰にでも打ち明けていると思われると効果なし 

(コリンズ&ミラー, 1994)

「女性は自分の話を聞いてほしいだけさ」というセリフがベストセラー小説「ハイ・フィデリティ」にもありましたが、女性の悩み事を永遠と聞かされてうんざりっていうのは、男性には経験したことのある人も多いのでは。異性への自己開示はほどほどにしておいた方がよいのかも、てとこですね。

あとは、自分に関わる深刻な秘密を打ち明けるときには、特に相手を選ばなくてはならないといわれています。

秘密を保持することは基本的には健康に悪いのですが、秘密を打ち明けた時に、もしそのことによって差別を受けたり、拒絶されたりすると、かなり深刻なダメージを受けるといわれています(ケリー, 1998)。

深刻な秘密を打ち明ける時には、ちゃんと受け止めてくれる相手を選ぶことが大事です。


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