今回提示するのは、中山晋平(1887~1952)作曲の《毬と殿さま》の楽譜です。*
ドレミ階名とボチェディ階名の両方で提示します。**

① ドレミ階名
鞠と殿様000

② ボチェディ階名
鞠と殿様(ボチェディ階名)000

* ホ短調の音名と階名についてはこちらの記事の楽譜(2)をご参照ください。


使用音を確認すると、ドレミソラの5音が使われていることが分かります。
しかし、この曲は5音のうちドを主音とする「ド上の五音音階」ではなく、ラを主音とする「ラ上の五音音階」によっています。

そして、西洋のダイアトニック音階を基準とするならば、ド上の五音音階は「第4音と第7音がない長音階(いわゆるヨナ抜き長音階)」と見なせる一方で、ラ上の五音音階は「第2音と第6音がない短音階」と見なせます。

あるいは、どちらもファとティを欠いていることから、ド上の五音音階は「ファティ抜き長音階」、他方でラ上の五音音階は「ファティ抜き短音階」と捉えることもできます。


なお、五音音階かつ短音階といえば、「ラティドミファ」のいわゆる「ヨナ抜き短音階」を思い浮かべる読者も多いかもしれません。
ヨナ抜き短音階は、短2度や増4度などの複雑な振動数比による音程を含んでいます。そのため、聴いていて深い陰影や、時として鋭い表情などが感じられます。

他方でラ上の五音音階は、同じ五音音階かつ短音階でも、長2度や短3度などのより単純な音程のみで構成されています。そのため、ヨナ抜き短音階に比べ、より優しく穏やかな表情が感じられる音階になっている、と言えるかもしれません。


さて、ラ上の五音音階は日本では民謡に頻出するなど、伝統的に広く浸透している音階であると言えます。***

しかし、明治時代以降の童謡や唱歌の作曲家の多くは、ドレミソラを使う音階と言えば、日本の音階と西洋の音階の折衷形としてド上の五音音階(ヨナ抜き長音階)を好んで用いるようになりました。
そうした中で、中山晋平はより伝統的なラ上の五音音階も大切にしていたように見受けられます。****


______
注)
* 主要参考サイト:
音楽研究所>作品・素材集>楽譜>ハーモニカ数字譜
URL: 
http://www.mu-tech.co.jp/music_files/harmonica_score/index.html
(ただし、部分的にリズムの表記を変えました)
** 以下の理論説明ではドレミ階名を用います。
*** 例えば以下の曲集の色々な曲を分析すると分かりやすいです。

日本の民謡
のばら社
1998-12-10


**** 《毬と殿様》以外のよく知られた曲では《砂山》と《あの町この町》も同様です(ただし、後者の曲ではティも使われています)。


関連音源: