「完全1度を取る」* 能力は基礎的な音楽能力の一つです。「完全1度を取る」というと分かりにくいですが、つまりは、耳で何か音を聞いた時にそれと同一音高の音を声で発することです。「ユニゾンで発声する」といえばより分かりやすいかもしれません。

 今回の記事では、そのユニゾンで発声する行為のプロセスを分析してみます。以下の内容は厳密な科学的根拠に基づくというよりは、私自身の経験などを基に分析し、言語化したものです。

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 まず、何か音が与えられたとします。ここでは分かりやすいよう、単音でなおかつ音高変化のない音ということにします。管弦楽のチューニング時にオーボエが鳴らす音のような楽器音でも、チューナーの基準音発音機能による音でも良いです。

 その音を聞いた時に人は、その音を無性格の単なる物理的音響としてではなく、何らかの性格を伴った音(以下「性格音」)として聞くことができます。例えば、階名でいうドの性格、ラの性格、ソの性格などを伴った音としてです。** 試しに、楽器などで何か音を鳴らし、聞いてみてください。単音が良いです。また、減衰する音よりも持続する音が良いでしょう。音に何か性格が感じられませんか? あるいは、それに伴い音が何か階名で聞こえてきませんか? 私にはドなどに聞こえます。あるいは、意識次第では別の性格音(したがって別の階名の音)として聴くこともできます。
 これが起こるのはすなわち、その音がある性格音として聞こえるようにするために、聞き手がその音の音高に合わせて自己の中にある調性感覚、あるいは調性の心理的枠組みのあり方を整えるからだといえます。言い換えれば、調性の心理的枠組みを整えた結果として、無性格だった音が性格音に変化して聞こえるようになるといえます。
 比喩を用いて表現してみましょう。以下のような一本線があるとします。この線は固定されていて、動くことはありません。この線が、所与として聞こえてくる音を表します。


 --------  (固定された線)


次に、線の端に、線と直角方向に定規を当てるとします。この定規には、各目盛りに「ドレミ」の文字が書かれています。この定規が、聞き手が自己の中に構築する調性感覚を表します。


ファ

レ--------

ティ

この定規は以下のように動かすことにより、特定の目盛りを線に合わせることができます。この作業は、所与の音が特定の性格音として聞こえるようにするために聞き手が調性感覚を整える作業に例えられます。

(上下に動かすことができる)


ファ

レ--------

ティ


そして、例えば定規におけるドの目盛りを線に合わせるならば、この作業は、音がドの性格音として聞こえるようにするために調性感覚を整える作業の例えになります。


ファ


ド--------
ティ

 以上のように、調性感覚を整える作業とはいわば、与えられた音の音高に「合わせて」心中の調性的枠組みを整えることにより音に調性的コンテクストを与え、そのことによりさらに、音が特定の性格音として聞こえてくるようにする作業であるといえます。
 人によっては、以上の定規が最初から明確な形をもって存在していたように調性感覚の枠組みが最初から明確に出来上がっているわけではなく、いわば定規自体が何もないところからぼんやり(少しずつ)現れるかのように調性感覚の枠組み自体が現れるのに時間を要する人もいるかもしれません。

 なお、枠組みを構築したり整えたりする速さは、音がどれほど速く性格音として聞こえてくるかを左右すると考えられます。また、枠組みをどれほど強固に構築できるのかは、性格がどれほど強く聞こえてくるのかを左右するでしょう。これらには個人差があると考えられます。
 しかしいずれにしても、音の性格を捉えることは可能です。

 聞き手は次に、聞こえる音の音高に合わせて整えた調性感覚の枠組みに基づき、記憶の中にある性格音のうち、聞こえてきた音をそれとして捉えたところのものと同一の性格音を選び、声で発します。
 その際に、彼にしっかり歌唱技術が伴っているならば、その性格音を自分の声でも発し、現実音にすることができます。というのも、意図した性格音を発するためにはそれと同一の音高の音を発することが必要になる一方で、歌唱技術が伴っていればその音高の音を思い通りに発することができるためです。

 結果として、聞いた音と同じ高さの音が発せられ、完全1度を取れる、つまりユニゾンで発声できることになります。

 つまり、ユニゾンで発声できるのは、同一音高の音を最初から出そうとした結果というよりは、聞こえてきた音が何らかの性格音に聞こえるようにするために聞き手が調性感覚を構築・調整した上で、同一の性格音を自分でも発した結果であるということになります。
 いい換えれば、音高を直接再現しようと試みた結果というよりは、音の性格を再現しようと試みた結果としてたまたま音高が合う、という方が近いかもしれません。いわば、音高が一致するのは間接的な結果であるといえるかもしれません。

 以上が「完全1度を取る」、つまりユニゾンで発声するプロセスであると考えられます。このプロセスについては、講師 Twittterアカウントのこちらのツイートにもまとめています。


 次回以降の記事では以上の内容を踏まえた上で、もし完全1度を取れない、つまりユニゾンで発声できない人がいる場合にどのように対処すれば良いのかについて考えることも、重要だと考えています。

 
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注)
* 完全1度という音程はそもそも理論上でのみ存在しており、厳密な意味での音程ではないといえます。また、「完全1度を取る」という言い方も曖昧です。しかし、一般的にこのような言い方で会話がなされることもあるため、本記事でも便宜的に用いています。
** 音の性格については、例えば以下の記事をご参照ください。

音楽の緊張と弛緩について ― 教本『階名唱ウォームアップ集』に関わる話①
階名感覚に基づく音楽の聞こえ方 ― 《ボレロ》副主題を例に①
そもそも階名のラベリング対象とは? ― 音の性格の話①
そもそも階名のラベリング対象とは? ― 音の性格の話②


* 画像は、講師が普段ソルフェージュおよびソルフェージュ指導の練習をする際に用いているチューナー。目で音高を確認する機能はまったく用いておらず、基準音を発する機能のみを用いています。なお、基準となるピッチは以下の1点イ=428ヘルツのように、1点イ=440ヘルツの十二平均律には存在しない音高を用いることが多いです(1点イ=428ヘルツにすると、1点イ=440ヘルツの場合よりも約四分音[しぶんおん]分低くなる)。
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