夕食を作りながらシスカは話し始めた。最初から順を追って、正確に少しずつ、ロクは要所要所で的確に質問を挟み、バラバラになりそうな話を纏めて行った。オルガで何が起こったのか、拉致されてからどうなったのか、話はシスカの生い立ちの話や家族の話にまで及んだ。それは長い長い話になって、夕食の支度が終わり、入浴のためのインターバルを取り、ゆっくりと食事を終えても、まだ尽きなかった。夜が更け、そして夜明けがやって来た。
 そしてその日、ロクはシスカとのフライトチームを解消した。そしてシスカにパイロットの資格を取るように命令した。精神に大きな問題を抱えていたシスカは、パイロット資格条項の規定を満たせず、パイロットになることはできない。パイロットになるためには治療を受け、精神的に抱えている問題をクリアする必要があった。ロクはここ最近のシスカの言動から、この問題はすでにクリアできている可能性が高いと判断していた。大学病院の診察に取ってあった。診察を受け、パイロット資格条項を満たすことが当面のシスカの任務であり、その次の任務は資格試験に合格することだ。その任務を全うするまでこの家に帰ってくるな。ロクはそう宣言した。
 シスカは別のパイロットとチームを事を再開し、日常生活は友人のアツコとの共同生活に戻った。そしてスケジュール通り大学病院で診察を受け、パイロット資格条項をクリアし、受験資格を得た。シスカは整備士だったが飛行経験は豊富だったし、飛行に関する専門的な知識も問題の無いレベルだった。だから、実技試験をクリアし、パイロットの資格を得るまでにそんなに長い期間は必要なかった。だがシスカが合格の通知を受け取った時、その喜びを一番に伝えたい相手は身近にはいなかった。

 AW289は設定された高度いっぱいで巡航している。
 このAW289型ヘリコプターはやや旧式に分類され、アビオニクスも新型に比べると見劣りがする。だが初飛行以来発生したバグを1つ1つ潰して得られた、いわゆる涸れたメカニズムは、最新の機種では得られない、一種の信頼感をもたらしてる。ロクはパイロットとして機種を選り好みできる立場にはなかったが、こんな辺境でこの機種に当たったことに幸運を感じていた。キタカタでも乗務していた機種であり、癖さえつかめば操縦桿もしっくりと手に馴染んだ。