国際開発とビジネスを学ぶ ~ Fletcher School MIBプログラム 留学記 ~

2016年秋からアメリカ合衆国ボストンにあるタフツ大学フレッチャースクール(Tufts Fletcher School)のMaster of International Business(MIB)プログラムに留学する日々を綴っています。

ついに2年間のフレッチャー生活が終わりました。
毎日が真剣勝負の怒涛の日々でした。

振り返ってみると、まさに人生を変える(life-changing)豊かで尊い時間でした。好奇心の思うままに色々な活動に挑戦して、泣きも笑いも多くを経験させていただきました。こみ上げてくる感情は「感謝」の一言。過ごした一瞬一瞬に「学び」が宿っていました。

授業では、開発経済学(Development Economics)とソーシャルビジネス(Business for Social Impact)を専攻。このブログのタイトルの通り、「国際開発とビジネスの接点」という関心分野を深めることができました。

開発経済学ではその道の第一線であるSchaffner教授とAker教授からご指導をいただき、政策分析・ミクロ経済分析・計量経済・インパクト評価を学ばせていただき、インドの職業訓練やルワンダの電力事情などを調査できました。お二方とも非常に情熱的で、「開発のプロ」を育てようという教師としての矜持を揺るがず持つ方々でした。深夜1時までパソコンルームに籠ってStataという統計ソフトを前にグループで格闘した日々は今となっては良い想い出です。世銀・UNDP職員を前にウガンダの教育プロジェクトのインパクト評価のプレゼンをする貴重な機会も。国際開発をキャリアとして志す身としてエコノミストの方々の視点をいただいたのは、一生の宝物であり糧だと感じています。

ソーシャルビジネスも素晴らしい教授陣に恵まれました。元マッキンゼーでMIBプログラムの学長であるBhaskar教授からは、途上国で次々と産まれるイノベーション、また10年20年先を見据える視点を教わりました。「国際開発へのビジネス手法のアプローチ」というKim Wilson教授の授業では、国際大手NGOのTechnoServeへのプロボノプロジェクトとしてグアテマラの起業家向けアプリ開発に携わることができました。ハーバードビジネススクールのLeonard教授の社会企業の授業もCross Registerで受講し、アフリカのサファリのエコツーリズムやカンボジアの障がい者らのデータ入力事業など知れたのは発見の連続でした。途上国開発においてビジネスの果たす意義も限界も今後の盛り上がりも、肌感覚として味わった、そんな時間でした。

授業以外にも様々な学びがありました。社会的投資サークルであるFletcher Social Investment Groupに所属して、アメリカの大手マイクロファイナンス団体のKivaと連携して、アフリカ、ラテンアメリカ、東南アジアの社会企業のDue Diligenceに関わることが出来ました。

専攻である「国際開発とビジネス」以外に「音楽」「文化」「芸術」への自分の情熱を再認識した日々でした。合唱サークル(Ambassachords)と芸術サークル(Perfoming Arts Club)のリーダーを務めて、文化交流イベントのCultural Nightや、春と冬のリサイタルを通じて、アフリカ・ラテンアメリカ・アジアなど世界各国の歌を歌ったのは、忘れられない心震える時間です。インド障がい者アーティストの日本のテレビ出演のサポートは音楽のチカラの大きさを痛感した瞬間でした。「音楽を通じた国際理解」という自分の興味をもとに、ニューイングランド音楽院のElke教授のもと、「音楽と社会変化」の授業を聴講。日本の文化理解を促進したいと、プロピアニスト碓井俊樹さんはじめ色々な人々に有り難くも支えて頂いて、フレッチャーで日本音楽をテーマにコンサートも開催できました。「音楽を通じた心と心の交流」という温かくて静かな時間の流れが、忙しい毎日に確かな彩りを添えてくれました。

銀行を飛び出してインドに行った時は好きではなかった「日本」というアイデンティティを愛することができた日々でもありました。ジャパンクラブのメンバーとして日本の折り紙ワークショップを開催した際の参加学生らの楽しそうな笑顔が思い出されます。OBOGや教授、友人らの多大な協力を無理を言って、フレッチャー初のジャパントレックを企画開催。新しいイニシアチブながら、自分の時間を削って支えてくださった方々には頭が上がりません。

学びの場は学校だけに留まりませんでした。アジアリーダーシップトレックに参加して東南・東アジア6カ国を周遊し、政府機関・企業・NGOなど様々なリーダーから直接話を伺って、成長するアジアの息吹を感じさせていただきました。ルワンダの起業家支援NGOでサマーインターンをさせていただき、ルワンダの未来を信じてビジネスを創り上げていく起業家の情熱や、それをサポートするNGOの方々の信念に感動しました。春休みにはフレッチャーイスラエルトレックに参加して、イスラエル・パレスチナ問題の難しさに途方もない感覚を覚えると同時に、その解決を願って活動する様々な方々の想いに胸が打たれました。

何よりも「学び」を彩ってくれたのは、一緒の時間を共有してくだった教授・スタッフ・学生らとの出会いです。留学を終えた今まさに感じるのは、学ぶ内容より何よりも、人から受ける気づき、刺激、感動がいかに自分を成長させてくれるか。ビジネススクールではなく、国際関係大学院のフレッチャーに集まる人々には、「社会のため」「機会が恵まれない人々のため」等、心の深いところで共鳴するミッションがあると感じています。40カ国を超す留学生の方々へのインタビューを通じて、その行動力、その情熱、その信念に何度も圧倒されました。この人たちと一緒に努力すれば、不合理でどうしようもない社会が、ゆっくり、でも確実に変わっていける、そう本気で感じています。

最後に。いつも深いところで自分を見守ってくれる両親に、この場を借りて御礼を伝えたいです。周囲の反対を振り切って銀行退職、インドでの現地採用勤務、そしてフレッチャーへの留学という破天荒な自分の人生を遠くから見守ってくれているという安心感がいかに自分にエネルギーを与えてくれたか。「自分にしたいように生きて良いから」と背中を押してくれる姿勢に、何度涙を流したことか。家族の大切さを改めて感じた2年間でもありました。

このブログが、フレッチャースクールに関心を持つ、あるいはアメリカでの大学院留学へ興味がある日本人の背中を一人でも押すキッカケとなれば非常に嬉しいです。誰もが「弱さ」や「迷い」があるもの。でもそれが人生の深みや味わいを与えてくれると思います。留学準備など大変なことも多いかもしれないですが、是非是非がんばっていただきたいです。自分も努力を重ねること、人への感謝を忘れないことを胸に、一度きりの人生を全うしていきたいと思います。

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▲フレッチャーの友人らに誕生日を祝ってもらいました。こういう感動的な瞬間のために人生があるんだなと感じます。

昨日のClass Dayに続いてフレッチャー卒業式(Commencement)の当日になりました。

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当日はなんと朝の7時(眠いです!笑)に集合し、まずはシャンペンの乾杯から一日が始まります。
乾杯の音頭をとるのはフレッチャー生の4人。

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なかでも印象的なのは尊敬するパキスタン系アメリカ人のRazaさん
Fletcher Improv Groupというスタンドアップコメディのサークルの代表で、フレッチャーの文化交流イベントでは脚本監督演技を務めたムービーを披露して会場を沸かせるほか、ダンスも歌も司会も行うという、まさに生粋のエンターテイナーです。

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彼のパワフルでユーモラスでちょっぴり切なくさせるスピーチが終わったあと、フレッチャー生は、まずはタフツ大学全体の卒業式があるところへ集団で移動しました。ふだんフレッチャーの建物にいると忘れがちなんですが、タフツ大学という総合大学の中の大学院としてフレッチャーがあるんですよね。広大な会場には各学部や大学院ごとにまとまって着席。司会の方が、それぞれの大学院名を読み上げるんですが、「The Fletcher School of Law and Diplomay」と呼ばれると、今までで一番おおきな歓声が(笑)平均年齢は社会人を経ている学生ばかりなので他の大学院よりも高いはずですが、エネルギッシュで大真面目に馬鹿をやったり盛り上がったりする、そんな若さと希望を失わない大人のフレッチャーコミュニティが大好きでした。

タフツ大学全体の卒業式のあと、フレッチャー単独の卒業式へ。

Class Day同様に会場のテントに2018年度卒業生として行進。今回は和服(羽織姿)ではなく、黒いガウンと帽子を着用です。

司会は我らが学長(Dean)のJames Stavridis氏。もとアメリカの海軍出身でNATOの長官も務めた方。数々の修羅場を潜り抜け難しい意思決定をしてきたそのリーダーシップは、小さな身体から発せられるオーラで感じとることができます。

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まず最優秀アドミニスタッフ賞の案内がありました。受賞したのはMIBプログラムを担当するKristenさん。MIB生として本当に嬉しい瞬間で、名前が読み上げられた瞬間にMIB生は全員スタンディングオーベーションで祝福の意を示しました。アクセンチュア出身のKristenさんは、入学前から本当にきめ細やかなケアをかかさない方。「Business for Social Impact(社会的インパクトのあるビジネス)」という専攻を新しくデザインしたり、Global Master of International Businessというオンラインでビジネスと国際関係を学べるプログラムを立ち上げたり。信念と情熱を持った素晴らしいスタッフの方です。

続いて、学生代表の卒業スピーチが送られました。

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一人目のスピーカーはLauranceさん。ジョージタウン大学卒業後、Teach for AmericaというNPOを通じてシカゴの公立学校で7年間教師を務めた方。ゆっくりと始まったスピーチは、徐々にスピードをあげていって、何度も韻を踏みながら、聴衆全体を巻き込むその迫力に圧倒されました。イスラム教徒で白人ではないバックグランドのアメリカ人であるLaurenceさんが、「We belong to the same family」と訴えかける姿勢に感動しました。

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二人目のスピーカーはClass Gift Campaignを一緒に進めたPulkitさん。インド生まれでマッキンゼーで勤めるも肌が合わず周囲の反対を押し切って退職。インドの子どもたちに向けて教育支援を行い、世界経済フォーラム(World Economic Forum)のGlobal Shapers Communityにも選出。日本にもインドにも共通する「お辞儀をする(Bowing)」文化に触れながら、教師・スタッフ・家族・生徒などへの敬意を示したスピーチは、Pulkitさんのひたむきで誠実な人柄がにじみ出ていて温かい気持ちになりました。

卒業生代表スピーチのあと、いよいよ卒業証書の授与へ。
プログラムごとに一人一人の名前が呼ばれ、学長(Dean)と握手をして、卒業証書の黒いファイルをもらって檀上で記念撮影。学長(Dean)が素晴らしいのは250人を超す卒業生ひとりひとりの目をみてしっかりと手を握り、途中カメラが壊れた際の空白時間もユーモオで場を盛り上げるという、プロとしての姿勢。卒業証書にはなんと学長(Dean)の「手書きのサイン」があり、250名以上もサインを行ったその途方もない情熱に頭が上がりません。

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自分の名前(Tajiというニックネーム)が呼ばれた瞬間、会場から大きな歓声が聞こえて感慨深い気持ちで一杯となりました。フレッチャーで得られるのは、授業の学びよりもブランドよりも、人生の一緒の時間を共有してくれた素晴らしき教授・スタッフ・学生という人との出会いです。どんな名誉もお金も地位も、その温かくて確かで揺るがない「人との繋がり」に比べれば何でもない、そんなふうに思える瞬間でした。

卒業証書の授与が終わったあと、隣のテントにて軽食と飲みものを交えた簡単な立食パーティーがありました。少し歩けば、お世話になった教授、切磋琢磨した友人らに巡り合えて、人数が少なく小さなコミュニティーであるからこそ、こんなにも密な関係が築けるんだなと感じました。と同時に、そんなかげがえのないコミュニティーにも出会いと別れがあって、今度再会するときには更に成長したTajiを見せられるように、フレッチャー卒業生として恥じぬ社会の貢献をしていきたいと、再認識させられました。

学長(Dean)のJames Stavridis氏は、卒業式の贈る言葉にてナポレオンの言葉を引用して「Leader is a dealer of hope」というメッセージを送ってくださいました。フレッチャーの2年間の学びを通じて、自分の関心のある「国際開発とビジネスの接点」という分野以外に、安全保障、環境、ジェンダー、紛争、移民難民、平和構築などなど、様々な問題があるという広がりを感じました。解決に向けて途方もない時間と労力を要する問題であっても「hope(希望)」を消えない炎のように持ち続けて、今日より明日がほんの少しでも良くなっていくために努力を重ねる、そんな「生きる姿勢」を教わりました。

自分も、将来5年後、10年後にこのブログを見返した時でも、「hope(希望)」を失わない「生きる姿勢」を変わらず貫いていきたいと思っています!!


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いよいよこの瞬間が来ました。
フレッチャースクールの卒業シーズンです。
2年間、本当にあっという間でした。。。(涙)

フレッチャーの卒業イベントは2日間に分かれています
Class Dayと卒業式(Commencement)です。

もともと卒業式だけだったようですが、フレッチャーだけのイベントを作って、もっとゲストスピーカーが話す場であったり、教員や生徒に表彰を行う場を設けたいというコンセプトでClass Dayという別のイベントが生まれたようです。

Class DayのドレスコードはBusiness Attire(ビジネスの服装)。といってもその定義はすごく広くて、いわゆるスーツだけではなくて、米軍出身の学生は軍服を着て、また各国の民族衣装に身を包む学生もいました。

自分はせっかくなら日本文化を広める機会にしたいなと日本の着物(羽織姿)を着ました。
(もしこの記事を読んでくださっているフレッチャー生の方がいらっしゃったら是非Class Dayにて和服姿をおススメしたいです!)

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Class Day自体は(フレッチャー生の誰かに雨女、雨男がいるのか)天気予報は大雨の予想だったのですが、大変ありがたいことに午前中は何とか天気が保って晴れの瞬間も。2年間という怒涛の月日を過ごした卒業生を祝福するかのようでした。

Class Dayのイベントが始まりました。卒業生は学生寮Blakeley Hallの前で整列して、テント会場へ行進して入っていきます。既にテント会場には、学生らの家族、友人らで埋め尽くされており、拍手のなかを行進して歩いていく瞬間に、しみじみ色々な方々の支えがあっての卒業なんだなと痛感させられました。

学長(Dean)の開会挨拶に続いて、合唱サークルAmbassachordsとして開会の歌であるTurn Turn Turnを歌いました。今回は学生だけではなくて、スタッフであるKatieさん(学生支援課)とLindsayさん(広報)が参加してくださいました。(フレッチャーって学生とスタッフとの距離が非常に近いんです。)

歌いながら無性にこみ上げるものがありました。歌詞は「全てのものは移ろいゆくもの。笑った時も泣いた時も全てに意味があるもの。」という内容なのですが、フレッチャーでの数々の日々が思い出されました。。。楽しい時間も非常に多かったですが、辛くてもがき苦しんだ時間も勿論あって、そんな時間を経て、いままさに最後なんだな、終わってしまうんだなと感じ、自然と涙が浮かびました。

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合唱サークルの歌のあと、フレッチャーの卒業生のMasha Gordonさんからの「贈る言葉」がありました。もともとワシントンポストのモスクワ担当記者を務めていたMashaさんがフレッチャー時代にビジネスへの興味に目覚めて卒業後は一転、新興国向けの投融資業務のフィールドでゴールドマンサックスはじめ務めるという半生をお伺いできました。「人生は山登りのようなもの。自分だけの山を見つけてくださいね。」というメッセ―ジに深く感銘を受けました。

Mashaさんの「贈る言葉」に続き、学生の表彰の時間へと移りました。大変ありがたいことに、先日受賞させていただいた市民栄誉賞(Honos Civic Society)を受賞した一人としてイベント中に起立させていただける幸運に恵まれました。でも感じたのがフレッチャー生ってみんなAmazingなんです。それぞれがそれぞれの活動を専念していて。どんなアイディアもイニシアチブも他の人の支えがあって実現できるもの。自分は合唱サークルまたジャパンクラブ全体として獲得させていただいたんだなという気概で起立させていただきました。

フレッチャーには、Class Gift Campaignという在校生がフレッチャーへ寄付を行う活動があるのですが、共同代表(Co-Chair)をやらせていただきました。自分はフレッチャーからありがたくも奨学金を頂けていますが、お会いさせていただいていないOBOGからのご寄付があってのこと。その感謝を込めて、この活動を推進し、Class Dayでは、2018年度卒業生の74%(LLMプログラム100%、MIBプログラム97%、MAプログラム93%、MALDプログラム65%)の寄付があったことを報告しました。

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最後にもう一度、合唱サークルとして閉会の歌を歌わせていただきました。
メンバーと選んだ曲は、I Livedという曲。(本当に良い曲なのでYoutubeをお聞きくださいー)

歌詞の意味はタイトル通りで「この世が与えてくれる全ての瞬間を全力で生きたと宣言したい!」というもの。

このブログでも宣言したいです!!!フレッチャーの2年間、全力で生きました!!!

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▲もとルームメイトでネパール人のSavantさんと。自分との別れを泣いてくれる友人が持てるってつくづく人に恵まれたなと。

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▲ルワンダ人の友人のJDと。ルワンダ大虐殺という壮絶な半生を語ってくれる友人に胸が打たれました。

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▲日本人の友人らと。民間出身の自分として、官庁派遣の日本人のフレッチャー生から本当に学ばせていただきました。

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