先週日曜日に雨で順延となった草野球公式トーナメント戦が昨日無事に行われた。
我がレンジャースの監督は、息子をこの日限りの助っ人として加入させた。
息子は某大学2年のバリバリの現役野球選手。
なぜ監督はここまで鬼気迫る形相で勝ちに拘っているのかと言えば、トーナメントの参加費用に要因がある。
参加料で13000円払っている。
1回戦で負けようが、決勝まで勝ち上がろうが13000円。
費用を無駄にしないためにも、せめて初戦を飾りたいというのが監督の考えだ。
それはどのチームにも言えることだが、ユニフォームも作製できない貧乏野球部だけにその思いはどのチームよりも強い。
貧乏の証拠として、うちのチームだけ早朝草野球における特例措置として、練習着で試合に臨むことを認めてもらっている。
しかも皆バラバラだ。
助っ人がキャッチャーを務めることになり、ボクはショートに就いた。
公式戦でショートを務めるなんて、小学校のソフトボール以来20年ぶり。
結果的にこのコンバートが試合の行方を大きく左右することになる。
レンジャーズは1回表にあっさり先制し、さらにチャンスが膨らんだが、後続が絶たれ1点止まり。
相手投手はフォームがゆったりしているわりにボールが打者の手元でピュッと伸びており、しかもコントロール抜群。
苦戦は免れないと悟った。
その裏。
タイムリーで同点に追いついかれたレンジャース。
尚も2アウト2,3塁のピンチ。
バッターの放った何でもないショートゴロが、ボクのところに転がってきた。
しかし、これをボクが弾いてしまい、逆転を許した。
なんとしても挽回したいボクに2回表に打順が巡ってきたが、一度もスイングすることなく敢え無く3球三振。
この後、試合は膠着状態に。
キャッチャーに入った助っ人の本職はキャッチャーではないようだが、このレベルではどの守備位置でも我々の実力を大きく上回る。
盗塁は二度刺した。
エラーを犯しているボクが、助っ人のボールをどれだけしっかりとキャッチしてランナーにタッチしたことか…。
その時、ランナーのスライディングを太股に食らい、筋肉痛を発症している。
あっという間に迎えた最終回。
依然として1-2でレンジャースは1点リードを許している。
そうだ、ボクが犯したエラーのせいで。
祈るような思いでバッターを見つめていた。
祈りが通じ、2番の助っ人がレフトオーバーの2塁打で出塁。
3番がショートゴロに倒れるも、4番の主砲Hさんがレフト線に2塁打を放つ。
ベンチは大盛り上がり。
スコアは2-2のふりだしに戻った。
2アウト2塁で6番のMさん。
Mさんが出塁すれば、ボクに打席が回ってくる。
同点に追いついてもらったからといって、ボクのエラーが帳消しになるわけではない。
「頼む!回してくれ!」
その初球。
Mさんの脇を掠めた。
デッドボール。
「よし!」
お膳立てをしてくれたMさんに感謝した。
(試合後、聞いたところによると、Mさんはデッドボールではなかったらしく、ボクに汚名返上のチャンスを与えるために達川バリの演技をしたのである)
これを意気に感じない男はもはや男の隅にも置けず、さっさとチンコバットを圧し折るべきだ。
まず初球。
見逃してストライク。
2球目。
ファウル。
3球目。
アウトコースのボール。
さあ勝負球の4球目。
アウトコースの球だ。
追い込まれている以上、振らないわけにはいかない。
ボクはカットを試みた。
「ブーン!!」
バットは空を切った。
ありゃりゃ
チンコバット切断か!?
いやん、まだ使えるわよ。
若干腐食してるけど。
レンジャースの勝ちは潰えた。
もう、その裏の守備で0点に抑え、抽選に持ち込まなければならない。
だが、レンジャースは抽選に滅法弱い。
ボクが初めて参加したトーナメント戦も抽選で負けている。
因みに抽選勝ちした相手は優勝した。
3者凡退に抑え、やっとこさで抽選に持ち込んだ。
両チームのメンバー9人がそれぞれ籤を引く。
籤開封。
高校の合格発表よりも、初セックスよりも、大学の合格発表よりも、こんなにドキドキしたことはない。
結果は5-4でボクらの勝利だ!
レンジャースも籤に弱いが、相手チームは輪を掛けて籤に弱いらしい。
ボクが犯したミスのせいで、危うく初戦敗退を喫し、体から煙が上がるほどの監督の意気込みを自らの手で潰すところだった。
羽賀研二における暴力団と同じく、草野球とエラーは切っても切れない関係である。
但し、ボクは野球経験者である以上、自分のエラーだけは許されない。
ましてやそれが決勝点に繋がるミスならば尚更だ。
中学の準硬式野球部時代。
センターの守備に就いていたボク。
1アウト2塁で、バッターがセンターライナーを放った。
2塁ランナーが飛び出していることを確認したボクは、捕球してすぐさま2塁へ送球し、ダブルプレーを完成させるシナリオを描いた。
実はその前の回でも全く同じ状況が起こり、2塁ランナーを刺してピンチの芽を摘んでいた。
「ラッキー!」
そんな油断が生まれたのか、捕球の瞬間、ボールはグローブを掠め、後方に転々。
ランナーに気をとられ、肝心のボールへの注意が疎かになっていたのだ。
このプレーによる失点が命取りとなり、我が箕面一中野球部は箕面六中に敗退した。
死ぬまで忘れることのできない苦い思い出だ。
チームが勝てて、本当によかった。
試合後、観客席で差し入れのビールと寿司を食らいながら祝杯を上げたが、心底喜べない自分がいた。
この借りは再来週の2回戦で必ず返す。
チンコバットの切断はそれからでも遅くはない…ことにしておいてくれ。