2019年04月18日

高島ノヅキ(釣行記)女神が微笑んだ

高島、ノヅキ。島表に位置する磯は底物のポイントとして有名な場所で、カゴ釣りが盛んになってから改めてクローズアップされたのかも知れない。ヒラマサ、真鯛とも良績が挙がり、ナベやマツザキと並んで人気を博す。足場が広く、大人数でも釣りやすいことも評判が良い。

しかし一方で時化には弱い。島表ゆえに北よりの風やうねりが生まれると、釣り座が低いこともあって、簡単に磯が洗われる。海上保安庁の指導もあり、ノヅキへの上礁は2名以上と規制されているという。実際、規制がかかる前の一人ノヅキで天候が急変。風雨に叩きつけられる磯では、恐怖に包まれながら回収を待つ以外になかった記憶も残る。

さて、正味5ヶ月ぶりとなったこの日の高島、というか釣りの一日は、師匠の第一人者M師と竿を合わせることになった。師匠には、10数年前に高島のイロハを教わる一方でカゴ釣りのあらゆるテクニックを盗みに行った御仁。なにしろ鬼がつくほど釣る、あの執念というか腕は、高島の四天王の一人と云っても決して過言ではない。とにかくよく釣る。そんな師匠だが、近年はこちらが休みを失っている事もあって釣り日がなかなか合わず、何年かぶりの二人磯上がり。率直に楽しい。

「ノヅキかね?地ゴウトウかね?」「やっぱりオモテに行きとうなるよねえ」などとタカミやコスズメを差し置いてでも、上礁チャンスが少ないオモテ側の磯を詮索する。船は磯上がりが16名で、なぜか水曜日だけ大人気。コダンから付けてフジタチームは5番手のノヅキ。

「さあ、どこでも釣ってくださいよ、師匠とじゃったら、どこでもええですよ」。近くのポイントで仕掛けが錯綜しても、師匠となら話しは簡単。潔く譲れるというものだ。かくて舟着の座を戴き、師匠は突き出した先端の座へ。二人が竿を並べる。

『ノヅキは舟着正面の深みを釣れ』。ノヅキの潮は左右のどちらに流れても釣れる。船長に訊くと、相対に左流れが良いというが、これまでの経験は右流れでも悪くない。ノヅキの正面には沖へ向けた海底の割れ目があって、その左右は浅い瀬が続くとされる。西向きはマツザキ、東向きはマジマへ向けて浅くなるので、その駆け上がりか、または瀬の上を釣るのが定石。希にマジマ側の「ヘイノク」前の浅い瀬でヒラマサが掛かる。

そんなワケで午前6時前、正面へ初手の底カゴを投入、潮を窺う。ウキはゆっくりと左へ流れて、途中から速度を上げる。つまり深さが変化して流速が高くなる、川の流れと同じ理屈で海底の瀬を推測。マジマ側の瀬へ入れたウキは早く流れたかと思うと、やはり正面の深みで速度を落とす。遠投が基本だが、およその位置で地形を見立てる時間帯。

しかし1時間が過ぎてもアタリは出ない。出ないどころかサシ餌はあらゆるタナで残る始末。近くの磯際では何かがサシ餌を突くが、遠投した沖合では、仕掛けが根掛かりするほどに入れても結果は同じ。魚が居ない。

「赤潮が出とったんじゃけえ、水温が上がっとるでしょうがねえ」とか、「この正面の駆け上がりで鯛がウキを持って行くんですよね」などと師匠へ話しかけ、手持ちぶさたの間を潰していたときだった。

「入った!」。こっちのウキだ。ポイントはやはり正面左寄り、左流れの潮だからいわゆる潮表の駆け上がりという、まさに定石通りのヒットだった。尤も手応えは小さい。クイクイと竿を叩くところから真鯛を予想。40センチに充たないチャリコだった。

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しかし貴重な初物。餌盗りさえ見えなかった海域で獲物が掛かったというのは、しぼみ掛けた期待を膨らませる出来事には違いない。『これならヒラも周りようるに違いない。餌が残るのはそのせいじゃ』予想のベクトルも180度転換するのだった。

そこから喰いが立つかと思ったが、どうも今日のノヅキはそうでもない様子で、だが餌は落とされ始めた。傾向は悪くない。そう思いながら師匠が仕掛けを回収すると、こちらのウキが無い事に気付いて「ごめん、仕掛け引っ張ったわ」。「いえいえ...」そう云いながら回収を始めると、こちらの仕掛けにはハゲ。外道とはいえ、よく肥えたウマヅラハギだった。

半時間が過ぎたころ、ノヅキの潮が劇的に変化した。それまでゆっくり左流れだったのに、磯際の潮は強い右流れ。驚いていたら、一旦左へ流れていたウキが巻き戻し映像のように右へ流れ始めた。高島ではドラマチックな潮変わりをしばしば体験するが、こんな変化は滅多に見たことが無い。いったい、どう釣ればいいのか。

そして師匠は座を動いた。「ちょっとこっちで釣るわ」潮下へ座を移し、右沖の瀬の上を流し始めた。『なるほど、瀬を釣るか』師匠の手の内を観察しながら、こちらは深みの駆け上がりを狙う。餌盗りの正体は何か、ハゲが居るのならハゲを釣るか。師匠や先生たちは、釣況に合わせて自在な仕掛けでお土産を確保していた。『ここはダンゴでウマヅラを追加するべき』と判断し、大マサを警戒する7号ハリスを外す。

ところがウキを揺らすのはハゲではなくチビイサキ。まあ、丸焼きにくらい出来る魚だが、こんなのを釣っていたのでは何もならない。自嘲気味に鈎からイサキを外していたら、師匠が大イサキを抜き揚げた、なんと!

「こりゃあ5号が要るかね?!」冗談交じりに云う『イサキが居るんなら段々鈎じゃ』。こっそりと仕掛けを交換して、依然としておかず確保に余念なく釣っていたところ──。続いて師匠の竿が満月のように曲がっているではないか!「うわ、ヒラじゃ!!」後悔先に立たず。

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またしても余計な釣り方で貴重な時間を浪費していたら、その隣で寡黙に打ち返していた師匠がヒラマサを釣る。これは10年前に習得した一番ダメな釣り方。執念深く狙ったポイントへ、なぜ打ち返さないのか。ヒラマサは磯際へ寄せられても抵抗を止めない。何度も突っ込み、そのたびにがま磯の穂先が海面へ突き刺さろうとする。掬ってみたら、なんと80超えの大ヒラマサ。『またやられた』orz....

猛省。こんな事をやっていたら、いつまで経ってもヒラマサなんて釣れない。久々の釣りで集中力が保てなかった事を省みて、さっそく段々鈎を中止。再び7号一本鈎でヒラマサに備える。だが影響は、これだけでは済まなかった。

「大きかったですねえ、あの辺ですか」相手が師匠なだけに、そう凹んだ気分でもなく、無事に掬えた事に安堵しながら、しかし気分はヒラマサを掛ける気満々。そんな手持ちの竿を道糸が引っ張った。

「わっ、来た来た!」。『やっぱりヒラはまだ居るんじゃ』慌てて臨戦態勢。ベールを戻して竿を立てる。竿が撓ったところで手応えが消えた。「ありゃー、外れたわ。餌を銜えたとこへ合わせたけえ放したんでしょう」見たような事を云って己を慰める。今度はもっと走らせてやろう『豆ヒラみたいな居食いをしよる』勝手な想像をして自信を漲らせる。

だが、原因は違っていた。完全な思い上がり。仕掛けを引っ張っていたのはヒラマサではなくイサキ。もっとも手に来るくらいなので小さくは無いが、決してヒラマサなどではない。それを「オレにもヒラが来た!」と決めつけて大合わせ。あんなに竿を立てたらイサキの口なんて一溜まりもなく切れる。そのことに気付くまで2〜3枚のイサキのアタリを無駄にしてしまった。アホか>自分。

そうと解ればこっちのもの。ヒラマサを警戒したハリスはそのままに、瀬を流してはイサキを追加。右流れの潮でも、やはり魚はパラパラと掛かる。長閑な風景がそこにあった。

高島で釣り悩んでいた頃なら、ここで自滅していた。相手は魚なのに、一緒に釣っている仲間の釣果に嫉妬して手が乱れる。それまで造り上げたコマセ場を見捨て、所構わず仕掛けを投げまくる。仕掛けを変えたり、ハリスを落として千切られる、丸でトンチンカンな釣りで時合いを流し、貴重な時間を失ってしまう。仕舞いには道具の扱いが乱雑になって筋を切る、竿を折るなど、まったく碌でもない事に沈んでいた。

だが、今日は違った。成長分と云っていいのか、相手が師匠だったからそうだったのか、人を妬むよりも半年ぶりの高島の釣りに感謝する思いが先に立ち、和やかに手返しを続けていた。午後11時。終了まで1時間を残して師匠は納竿。潮は再びゆっくりした左流れになり、残った磯を独り占めに仕掛けを打ち返していた。イサキが遊んでくれた。『これでいい』。

納竿まで10分。この一投を今日の最後にしよう。師匠のヒラマサを掬い、チャリコとは云えお目当ての真鯛も釣って、重畳なる一日ではないか。サシ餌を付け、正面の深みへ遠投。早朝のチャリコが掛かった辺りへウキが達したとき、強烈な勢いでスプールの道糸が弾けた。

「来たわ!」
「やったねえ、獲りんさいよ。獲ると獲らんじゃ大違いよ」

剛弓が円を描く。ポンピングでなくては寄せられないパワーで道糸が引っ張られる「どこへ寄せましょうか」、右手で竿を支えながら足場を確認し、浮いてきた魚影に目を遣ると、それはヒラマサではなく真鯛、大鯛だった。凹まず執念をもって打ち返した仕掛けに、最後の最後、高島の女神が微笑んだ。

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こうして半年ぶりの高島が終わった。聞けば東の磯でも80超えの大ヒラマサが揚がったという。アタリの数こそ少ないが、連休前のこの時節に魚が見えるのは良い傾向。結果的に真鯛2、イサキ3、ハゲ1なら上出来ではないか。

お腹をあけてみたイサキは、もう真子を抱いていて脂肪も蓄えていた。今年のイサキ祭は、少し早い立ち上がりかも知れない。VIVA高島!

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foujitas at 18:24コメント(0)高島回顧録 | 潮待放談 
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