March 12, 200721:45The Lives of Others "Das Leben der Anderen" 「善き人のためのソナタ」(2006)5
Comments(14)TrackBack(1)2006年の映画 | Lで始まる映画
監督:フロリアン・ヘンケル・ドナースマルク
出演:ウルリッヒ・ミューエ、マルティナ・ゲデック、セバスチャン・コッホ、ウルリッヒ・トゥクール
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たった一月前、私の「ベスト・アンド・ワースト」を発表したばかりですが、気が変わりました。2006年度のベスト映画、そしてmy favorite映画はこの「善き人のためのソナタ」です。先日のアカデミー賞で、ほぼ受賞確実と思われていた「パンズ・ラビリンス」を差し置いて最優秀外国語映画賞に輝きました。あのヴェルナー・ヘルツォークをして「ドイツ映画史上もっとも素晴らしい映画」と言わしめたとか。観終わって、完全に納得の名作です。観終わって暫くは席を立てませんでした。

1984年、ベルリンの壁崩壊前の東ドイツ。秘密警察(シュタージ)の典型的な冷血役人、ヴィースラー大尉(ミューエ)が行う冷静で鋭利な尋問シーンから始まります。当時のシュタージは、反体制の疑いをかけられた人々を盗聴し、監視し、反体制の証拠を少しでも掴めば投獄していました。ヴィースラーが命じられたのは、東ドイツを代表する劇作家のドライマン(コッホ)の監視です。ヴィースラーはドライマンのアパートの屋根裏に陣取り、四六時中ドライマンと彼の美しく才能ある女優のクリスタ・マリア(ゲデック)の監視を行うことになります。そして監視を続けてゆくうちに、それまではわからなかったさまざまなことが明らかになってゆきます。ドライマンのこと。クリスタ・マリアのこと。そして自分自身のこと。

「白バラの祈り:ゾフィー・ショル 最期の日々」のレビューで、言わんとしていることがあまりにもストレートに表現されすぎていて「緩急がない映画」という印象を受けたと書きましたが、その正反対がこの「善き人のためのソナタ」です。劇作家と女優の、大してエキサイティングでもない毎日の生活を監視する描写が淡々と続くのですが、静かで淡々としているからこそ、メッセージが胸に響くのです。フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク監督は、ヴィースラーのゆっくりとした視線の移動まで、時間をゆっくりかけて撮影しています。それがまた功を奏しています。138分と長めの映画ですが、無駄な贅肉がついているわけではないのです。台詞がないシーンでも、唇をぎゅっと噛み締めてしまう緊張感に溢れていますし、ヴィースラーの後姿をいつまでも見ていたいと思わせてくれるのです。そしてクライマックス!私は昔の刑事モノ「特捜最前線」で(・・・年がバレますね;)も、「母のメロディーが聞こえた!」みたいに、大きな謎が「あーー!あれだーーーっ!!!」と明らかになるエピソードが好きだったのですが(・・・一体何人がこの話について来られることやら・・・;;;)、この映画のクライマックスはそれと同じ爽快感。凄いカタルシスです。でもハリウッドが作った映画だったら、ラストは違っていたでしょうね。目に浮かぶようです。何もかもきれいにまとめようとする、ハリウッド版のエンディングが。

キャストは全員素晴らしいです。特にヴィースラーのウルリッヒ・ミューレは、何故今まで名前を聞いたこともなかったのだろうとびっくりするぐらいの素晴らしい役者さんです。彼以外の役者がヴィースラーの役を演じるなんて想像もつかないぐらい、役と同化しています。ドイツのアカデミー賞と呼ばれるローラの主演男優賞を獲得したそうですが、アカデミー賞の主演男優賞にノミネートされても全然おかしくない・・・それどころか授賞しても全くおかしくない熱演です。彼は実際に東ドイツ出身で、1989年には東ドイツ政府に対してデモを起こした活動家で、シュタージにつかまったこともあるそう。ネタバレはしませんが、今回のこの役がここまで説得力のあるものになったのはそのせいもあるかも知れません。

そしてこの「善き人のためのソナタ」という邦題。原題は「他人の生活」ですが、この邦題は、近来稀に見る秀逸さです。なぜならばこの「善き人のためのソナタ」(die Sonate von dem guten Menschen)という楽曲が劇中で何度も鍵となって登場するからなのです(正確に訳せば「善き人『の』ソナタ」でしょうか)。「キメ」の言葉がそのままタイトルになっている・・・でもそれが明らかではなく、観た人には「なるほど」とわかるタイトルになっている・・・。これは原題より良い邦題だと思います。

ラストシーンも最高に美しい。「お包みしましょうか?」と尋ねる店員にNein, es ist fuer mich.(「いいえ、私自身のためです」)と答えるヴィースラー。完璧なラストシーンです。

ドイツ映画は数えるほどしか観ていませんからヘルツォークの言う通り、この映画が「ドイツ史上もっとも素晴らしい映画」かどうかはわかりませんが、私の中では2006年度の映画では他に並ぶもののない、大満塁ホーマーのような文句なしのナンバー1です。

追記:↑を書いた後でハリウッドが本作品をリメイクすると発表したことを思い出しました。嫌ですねえ・・・。主役にはケヴィン・スペイシーあたりをもってくるのでしょうが、一体どこを舞台にするのでしょう???




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1. 「善き人のためのソナタ」シネリーブル梅田  [ YUKKOのI LOVE MOVIES ]   March 25, 2007 21:32
5 今年のアカデミー賞の外国映画賞受賞!”近年のドイツで最も賞賛される映画”と賞賛されたこの映画は若干33歳のフロリアン・ヘンケレ・フォン・ドナースマルク監督が作りました。ベルリンの壁が崩壊する前の悪名高い旧東ドイツ国家保安省(シュタージ)の実態を余すところ....

この記事へのコメント

1. Posted by Juellie   March 16, 2007 03:44
こんにちは〜

なかなか、素敵なタイトルですよね。ていうか、この映画凄くレビュー良いですし見たいです。確かに邦題のトンチンカンさに時々唖然としてます。。わたしも。グリーンデスティニーとか デッドコースターとか(笑)

ちょっと前のスパニッシュムービー?でしたが『マリア、一筋のひかり』だっけ?なかなか いいと思いました。映画も じとっとしていて 見応えありました。
2. Posted by Franchesca   March 16, 2007 14:32
某掲示板の邦題スレッドでもアツく語らせてもらったことがあります>この話題
最近は80年代みたいに「愛と○○の××」みたいな安易な邦題がなくなっただけましですが、それでも、ドリューバリモア主演のロマコメは一度アタった作品名をもじったものだったり、かなり微妙な邦題はまだまだありますよね。
「マリア、一筋のひかり」はMaria Full of Graceですね。うーん。確かに良い邦題です。趣があるぞ。私は最近では「海に飛ぶ夢」(Mar Adentro)、「戦場のピアニスト」(The Pianist)、「戦場のアリア」(Joyeux Noel)、そしてこの「善き人のためのソナタ」に感動!原題よか風情があると思いません???
3. Posted by Franchesca   March 16, 2007 16:33
・・・自分が嫌になる〜。何度同じ間違いを繰り返すことやら。
Mar Adentroの邦題は「海『を』飛ぶ夢」ですね。
その他、「めぐりあう時間たち」も秀逸。
ちょっと前なら「めぐりあえたら」がいい!
結構こだわりがあるんです>このトピ
4. Posted by YUKKO   March 17, 2007 09:52
素晴らしい映画でした。でも、ドイツ映画ってほとんど公開されないので、俳優さんたちを全く知りませんでした。完璧な映画でした。でも、リメイクってどういう筋になるのですか?全く・・・・信じられない!
5. Posted by Franchesca   March 17, 2007 14:58
・・・っていうか、アメリカが舞台で一体どういう設定になるんでしょうね???>リメイク
9/11の後成立した反テロ法(愛国者法)がベースなのかも知れませんが・・・。
ちなみに、元ミラマックスのワインスタイン兄弟がプロデューサーで、現在アンソニー・ミンゲラとシドニー・ポラックがすでに関わっているのだとか。
ケヴィン・スペイシーの主役はありそうでしょ?(笑)ああ、いやだいやだ。
6. Posted by にゃむばなな   March 22, 2007 21:34
こんばんわ。コメントありがとうございました。

う〜ん、ハリウッドでのリメイクはやめてほしいですね。これは東西に分断されたドイツだからこそ描けた作品であってアメリカでは中途半端になってしまう気がします。

でもリメイクされたら映画館で見ちゃうんだろうな〜。あぁ〜そんな私も中途半端なヤツですよ・・・。
7. Posted by Franchesca   March 23, 2007 07:23
にゃむばななさん、おいでませ〜。
舞台としてはやはり反テロ法が使われそうですね。リベラルなハリウッドが、ブッシュ&共和党への痛烈なメッセージとして作りそうじゃないですか??
ケヴィン・スペイシーのほかにレイフ・ファインズ、ジュリエット・ビノシュらミンゲラが大好きな役者達で固めそうな予感です・・・
私もリメイクされたら見てしまうでしょうけどね。Shall Weダンス?も、「まじ???」とか思いながらリメイク版も(ロードショーで)見ちゃいましたし;;;。
8. Posted by OJUN   June 25, 2007 12:58
はじめまして。
つい先日『善き・・・』を見て、深い感動・感銘とショックを受けてしまったばかりです。四十ウン年の人生の中でナンバーワンの映画となりました!全ての台詞が意味深く見入ってしまいました。主演のウルリッヒ・ミューエさん、本当に素晴らしい俳優さんですよね。全編通してほとんど無表情なのに、微妙な変化の演技が凄い!すっかり彼の「虜」状態です。どの場面も好きなのですが、やはりラストシーンですね。「最高に美しい」と書いておられましたが、あの微かな笑みが本当に美しかった。いつまでも見ていたかったです。
8月にリリースされるDVD「初回限定版」を早速予約してしまいました。ミューエ熱は当分の間、冷めないと思われます。(笑) 
Franchescaさん、まだ他の映画に関する項は読んでおりませんので、これからボツボツ読ませて頂きますね!
9. Posted by Franchesca   June 26, 2007 09:09
へーい、Ojunさん、おいでませ〜。
そこまで感動されたなんて凄い!私は一度しか観ていないので、DVD発売が今から楽しみです。
見終わった後に号泣して席から立てなかった映画(「めぐりあう時間たち」とか)は今までもあったのですが、物凄い衝撃に物も言えず、何も考えられず、席も立てなかったような映画は初めてでした。
他の映画のことも好き放題あれやこれや書いていますが、ゆっくりしてらして下さいね。
10. Posted by OJUN   June 26, 2007 18:58
またまたお邪魔します。
実は、機内で見たのですよ。だから、見たい放題!日本と某国の往復で合計7回は見てしまいましたワ〜。それに、お気に入りのシーンは何度も巻き戻して見てしまう始末・・・変ですかね?機内映画は画面がちょっと暗いので、DVDが手に入ったら綺麗な画像で楽しみたいと思ってます。フフフ。
今までドイツ語に全く興味がなかったのですが、この映画を見て「ドイツ語を覚えたいっ!」と何度思ったことか。字幕なしでミューエさんの台詞を理解したい!!無理だと分かってますけどネ・・・。(羨ましいっすヨ)
11. Posted by Franchesca   June 27, 2007 15:08
おー、機内で永遠にループ状態でご覧になったのですね!それは大画面ではまた印象も違うでしょう。私もAmazon.comのWish Listに優先度「高」で載せました(笑)
さすがに私のドイツ語もかなり錆ついてきましたが、暇を見て頑張ってスピーチ訳しますからね。もう少々お待ちを!
12. Posted by OJUN   June 27, 2007 15:55
ややこしい事を頼んで、申し訳ありませぬ〜〜〜
よろしくお願いいたします。
Danke schon !!
13. Posted by OJUN   July 26, 2007 11:09
7月22日、ウルリッヒ・ミューエさんが54歳で胃がんのため、お亡くなりになりました。ショックです。信じられません。ファンになったばかりなのに。。。早すぎます。。。
14. Posted by Franchesca   July 26, 2007 14:14
Ojunさん、ニュースありがとうございました。朝日新聞やYahooニュースでも見られました>ニュース
でもIMDBは更新が遅い!
早速追悼レビューアップします。

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