この本を読んで以来、人事関係の本が読みたくなったので、いろいろ図書館で借りてみた。



 これは、以前から気になっていた本。
 著者の大内先生は神大の労働法の先生で、労働法の立場から今の人事、そしてこれからの人事について論じられている。これに対して、守島氏は企業の人事の立場から話をすすめている。大内先生の話もおもしろいのだが、やはり守島氏の発言に企業の本音があらわれていておもしろい。
 以下は、新卒一括採用について。
 守島 「結構一生懸命基準などを考えるのですけれども、最終的に誰が選ばれるのかというところは、実際に面接をしている人であるとか、採用に直接にかかわってる人の主観的な判断に任されている部分が非常に大きいのです。『うちの企業に合う』とか『一緒に働きたいと思う』というような曖昧な基準が使われることもあります。……明確な基準があって、それも客観的に測れるような基準があって、それで人を雇っているというよりは、会社の雰囲気に合っているだとか、人間として優れているとか、同僚とうまくやっていけそうだとか、ある意味では長期雇用だから当然なのですけれども、会社にうまくフィットできるかどうかという基準が重要視されるのが新卒採用の実態です」
 守島 「専門性が尖りすぎているというのは、一般的に企業は嫌います」 
 これらの発言は、新卒一括採用があらたなメンバーとして入社させるべきかどうかの価値判断にもとづいていることを如実にあらわしている。先日読んだ濱口桂一郎氏の「若者と労働」で書かれていたように、日本の雇用システムは、ジョブ型ではなくメンバーシップ型であることを痛感させられる。
 そして、このようないい加減ともいえる採用方法で本当にうまくいっていたのかという大内先生の疑問に対して、(a)長期間雇用されていた役員だとか部長といった企業文化に精通した人たちが最終的に判断することになるから比較的正確に適性を判断できた、(b)日本の企業は育成の力が非常に強いことから、育成によって最終的にはフィットできる人材に変えることができたという二点をあげている。
 まぁ、(a)については人の判断力を過信しすぎているといえるだろう。人間力や相性といった恣意や偏見が介在しやすい基準を用いている以上、個人的にはこれが理由でうまくいっていたとはいえないと思う。やはり(b)が主たる理由ではないかと思われる。
 
 これに対して、いわゆる非正規雇用の場合には、ジョブ型に近づいていくことが大内先生の「パートや有期の従業員の採用でなにを見ているのか」という質問に対する返答でわかる。
大内 「(パートや有期の従業員の採用で)何を見ているのですか。」
守島 「主にスキルです。ある仕事をやってもらうために来てもらうわけですから。」
大内 「スキルを見るというところが、新卒と違うのですね。」
 非正規雇用については、濱口桂一郎氏の「新しい労働社会」で次のように説明されている。
(非正規労働者の)採用は企業が労働力を必要とするときに、そのつど行うのが原則です。…労働力を必要としなくなれば有期契約の雇い止めという形で実質的に解雇されます。職務に基づいて採用されるのですから、原則として人事異動はなく、契約の更新を繰り返しても同じ職務を続けるだけです。したがってまた、企業が教育訓練を行うということも(ごく基礎的なものを除けば)ほとんどありません。
 まさに、正社員のメンバーシップ型雇用とは逆で、この点では日本以外の雇用システムのジョブ型に近づいている。



 さて、人口減少型社会において、今の規模で新卒一括採用をとりつづけていくことはできない。
 まず、今まで、男性正社員をすべて総合職ですべて幹部候補としていったことから、管理職が過剰となっている。しかも、人口は減少しているから今後、部下の数が不足していく。このままでは、管理職が多くて部下が少ないという歪な組織ができあがってしまう。これを避けるためには、管理職にあがっていく人を減らす必要があるだろう。その人材こそが、ジョブ型正社員である。彼らの特徴は、以下の点にある。
  • 限定された雇用契約 職務、労働時間、就業場所を定めた期間の定めのない雇用契約
  • 雇用保障の縮小 職種限定、時間限定、場所限定といういわば特権的なものをもつ代わりに、自分の担当職務が当該企業からなくなってしまった場合には、ただちに整理解雇の対象となる
 このあたりのことも、濱口桂一郎氏の「若者と労働」に書いてあった。わたし個人としても、このような方向性に賛成である。スキルを磨く自助努力と雇用保障がないことへの覚悟は労働者側でする。企業には、雇用保障をしない代わりに限定的な雇用契約を締結してほしいという層の受け皿をつくってほしい。

 これは全く感覚的な話ではあるが、わたしの世代は全員が管理職を目指しているわけではないと思う。たとえば、最近話題になった「コンビニ人間」の主人公は、36歳の未婚女子で大学卒業後はコンビニのバイトをつづけ18年も経っている、世間的には負け犬的立場にある。しかし、彼女は今の状況に満足しているところもある。そして、そんな彼女にシンパシーを覚える人がたくさんレビューを書いている。おそらく、職務も労働時間も無限定のメンバーシップ型正社員になりたくなかった層のこころをつかんだことからここまでヒットしたのだろう。

コンビニ人間
村田 沙耶香
文藝春秋
2016-07-27


 この点をとらえて「今の若いもんにはハングリー精神がない」だとか非難する説教が大好きなおっさんがいる。しかし、もし今の若い世代全員が管理職を目指せばお前は部下がいない管理職になるが、それでいいのか?お山の大将でいたいんじゃないのか?という皮肉な話だ。