久々に聞いたそんたくという言葉はなにやら今年の流行語のトップ10ぐらいには入りそうな勢いです。外国人記者クラブで通訳が「そんたく」を訳す際に詰まってしまったと報道されていました。検索でそんたくを英語にするとconjectureと出ますが、これはオックスフォード辞典で見るとAn opinion or conclusion formed on the basis of incomplete informationと出ますので一般には「推測」と訳すところでしょう。

つまり「そんたく」という言葉は英語でフィットしにくいとても日本的な表現であるとも言えます。そんたくの日本語の意味は「相手の気持ちを推し量る」であります。ちなみにこれに近いのが「斟酌」でこれはそんたくしたうえで手加減する動作が加わります。政治家や役人が斟酌したらダメですが、そんたくは許される範囲でしょう。

そんな苦労をへて英語の記事になるとNYタイムズではThursday afternoon, Mr. Kagoike said he did not believe Mr. Abe had “direct influence” on the discounted land deal.He hinted at “powers at work behind the scenes” and said that unidentified officials in the Ministry of Finance had helped facilitate the deal.
となっており、安い土地価格に関して首相が直接的になにか手を下したわけではなく、「目に見えない力」が働いたという表現になっています。しかし、この場合は「そんたく」というより私は実態としては斟酌の話ではないかと思います。

さて、我々日本人は日常生活において「そんたく」なり「斟酌」はごく普通に行われています。漫談家の綾小路きみまろではありませんが、夫婦30年続けていれば顔かたちが似てくるだけじゃなくて「そんたくに斟酌」がしみこみすぎて朝起きてから晩、寝るまで会話がなくても何の不自由もなく暮らせるということが普通で起きてしまいます。夫の気持ちを推し量り、新聞をテーブルの上に置き、コーヒーを沸かし、いつもの朝食を作るまで阿吽の呼吸ですべて通せます。

新入社員が会社に入って何を覚えるか、といえば裏オリエンテーションとして先輩方から飲みに連れて行ってもらって「うちの会社のそんたくの為の材料提供」を習います。あの課長は午前中は低血圧だから機嫌が悪いとか、あの先輩は人の功績を自分のものにしちゃうとか、係長は奥さんの監視が厳しくてよく会社に電話がかかってくるといった感じでしょうか。

経営術の話には仕事が出来る奴は「1を知って10を悟ることだ」などとよく書かれています。私も若い頃、うーん、3ぐらいは悟れるようになったとか、5まで達成したと自己満足に浸っていたことがあります。

このそんたくや斟酌が日本独特のものである理由はほぼ単一民族故に相手の行動パタン、展開が読みやすいからであります。それゆえに海外でそんたくなるものは基本的に存在せず、相手のことを知るには会話として聞き取り、斟酌の代わりにはっきり要求するしかないわけです。上述のNYタイムズの英語の表現は労作だと思いますが、少なくともそれを読む外国人には神がかりのような意味合いに言わんとしていることがなかなか理解できないと思います。

これは日本人の気遣い、気心、心遣い、おもてなしなどすべてに通じる基本中の基本でもあり、日本からそんたくと斟酌を取ると気が抜けたコーラのようなものであります。

若い人が電話をしなくなった一つの理由は電話をするのはかける側の勝手だという考えから自主規制しているとも言えます。我々が今、身につけているマナーは電話した際「今、お話して大丈夫でしょうか?」というエチケットであります。その「そんたく」は若い人の間ではさらに進化し、新スタンダードは電話の前にラインやテキストで「いま、電話してもよいでしょうか?」と聞いたりするわけです。今の時代、何の予告もなく電話していると若い人から「このオヤジ!」と言われる時代なのです。

私は海外に25年もいますのでこのそんたくや斟酌は日本でのみ使うテクニックのようなものになっています。国境を超えるときは必ず「マインドのギアチェンジ」をするのですが、日本に行くときには前に進み過ぎず、三歩前進二歩後退ぐらいのペースにしないとそんたく出来ない男、つまりKYであるとみられます。では、日本からカナダに戻るときはどうかといえば「論破の世界」が待っているのであります。そういう意味ではそんたくできる限り日本は肩に力が入らなくてらくちんな国であります。

日本人に生まれてよかったとつくづく思います。

では今日はこのぐらいで。

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また明日お会いしましょう。