世界各地で仕事をしてきたある方と話をしていて、気になることを伺いました。「赴任経験のある外国で定年退職後、退職金の半分ぐらい突っ込んで自分の会社を起業する人の後が絶たないのだけど、ほとんど成功した例はない」というのです。正直申し上げると私もここバンクーバーで25年、ビジネスをしていて定年退職後にビジネスの花が咲いたケースはほとんどない、と言い切れると思います。

日本でも同様に退職後に自分の専門エリア通じてビジネスをしようとする方は多いと思います。当然ながら一定の資本が必要ですので退職金の何がしかを突っ込むのでしょう。ではなぜ、それがうまくいかないのか、考えてみたいと思います。

退職後に起業をしたいと考える人にはまず自分のサラリーマン時代の自信がバックボーンにあることが多いかと思います。「この仕事は俺が一人でもできる」。これが過信であります。

サラリーマンを辞めてまず多くの方がしょげ返るのは今まで勤めていた時のような社名もロゴも肩書もないのです。多くの名刺交換では社名、部署、肩書をみてその次に名前でしょうか?つまり、その方個人の能力に期待をしているわけではなく、会社のバリューがその個人の能力を担保するような形になっています。ですので、サラリーマン時代に「できた」仕事が独立すると途端にできなくなり、「そんなはずじゃ」と思ってしまうのです。

何故でしょうか?それは仕事のリスクを担保できるのか、であります。会社ならば人材から資金まであらゆるサポート体制が整いますが、個人ではおのずと限界があります。私がバンクーバーで会社買収をした時、銀行から巨額の借り入れをしたのですが、銀行の頭取がトロントからわざわざ私とランチをしにやってきたことがあります。銀行としてこの男に貸し付けた資金の担保は何処にあるのか、一応、見極めておきたかったのでしょう。

二つ目の間違いは起業後のビジネスの「体裁」です。まず、オフィスは港区の住所が欲しいとか、美人の受付がいるシェアオフィスがいいとか、事務所内は最新のITガジェットで埋め尽くされる、更には品川ナンバーの車をリースしたりとビジネスがまだ一つも進んでいないのに会社勤めしたいたときのビジネススタイルが抜けきれないのです。

堀江貴文さんが起業した時、マンション事務所で数名で寝泊まりしながらスタートアップしています。若い方の起業はカネはないけど夢があるのでどんな苦しい起業生活でも全然問題にしません。いつかこのビジネスアイディアが世に出回ればきっとよくなると思い続けています。定年退職後の起業でも自分をここまで落とせるか、です。

三つ目は専門以外のことが何もわからない、です。会社経営は大企業も零細企業も基本は全く同じです。直接的な業務活動以外に経理、財務、人事(労務)、総務等といった付随作業が出てきます。「よし、俺も経理を少しかじってみるぞ」ぐらいの意気込みあればよいのですが、「俺は専門の分野に集中するから経理なんて誰かに任せておけばいい。年に一度、青色申告すればいいのだろう」と考えていると大きな失敗をします。

経理とは税務申告のためだけではありません。経営状況の通信簿なのです。だから、月締めの数字が全てであるといっても過言ではないのです。私が月締めを大体翌月の10日までには把握し、数字をなめるように見続けるのは成績が物語る経営のベクトルなのです。この事業は先行き、てこ入れが必要だ、とか、この分野はもっと利益を強化できると方針を出せるのは覚えてしまうほど数字をチェックしているからです。

人事もそうです。人を「使う」ことほど疲れるものはありません。機械なら働け、といえば文句も言わず、休憩もせず、手抜きもしないでしょう。人はそういうわけにはいきません。ニンジンをぶら下げ、信賞必罰というルールと社長さんの「人柄」が全てです。社長と一心同体になれるほどのコミュニケーション、そして仕事のフォローをする「人を使う労力」が必要なのです。

会社勤めの時は人事部や上司がいましたが、これも自分でやらねばならないのです。時々、「一緒にやっていたビジネスパートナーとうまくいかなくなりまして」ということを聞きます。ここは肝に銘じておかねばなりません。

最後に一番大事なのは孤独のビジネスに耐えうるか、です。私は雇われ社長から独立した社長に変わりました。雇われていた時は肩書が違えど「同じ釜の飯」の仲間関係を従業員と維持できました。しかし、独立した瞬間、私は孤独になります。全てを自分で判断、処理しなくてはいけないのです。私がビジネス系のNPOの活動に精を出したのはそこにいる似たような境遇の独立者との交流が必要だったのです。

定年後のビジネスはまず、大きな風呂敷を広げないこと、それと従業員がいるなら一緒に汗をかくこと、ここからスタートです。起業してサラリーマン時代の年収を目標にする必要は毛頭ありません。まずは会社が3年続くことをターゲットにしたらよいのではないでしょうか?

では今日はこのぐらいで。

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また明日お会いしましょう。