2019年09月12日

紗由美の冒険 第5章 13

 夫が、そのメールを読む前に、一体、紗由美に何が起きていたのか。それを知ったのは後々のことだった。最初に送ってきた写真を撮った時ですら、妻が震えていたのを、夫は気付いていなかった。

 最初の写真を撮ったとき、緊張しているのは確かだが、それが羞恥からくるのか、恐怖から来るのか、それとも、官能の予感から来るものなのか、わからなかった。

 恥ずかしい写真を、夫のために撮る。

 そもそも、今日は、夫以外の男と二人っきりのお出かけだ。夫に命じられたことくらい、せめてもの罪滅ぼしだと思っているのか紗由美にもわからない。けれども、ちゃんと約束した以上、送らなくっちゃならないという意識があったことは確かだ。

『山下さんの時、以来ね。ああぁ。私ってやっぱりヘンタイなのかも』

 自分の恥ずかしい写真を男に送る。いくら、相手が夫だって、いや、夫だからこそ、羞恥心が刺激されて、頭の中が真っ白になる。

 快感だ。

 激しく濡れてしまっている秘部が、否応なく自覚させられる。それは、確かに、精神的なオーガズムだったのかもしれない。

 しかし、精神的なオーガズムを得ようとも、朝から子宮をムズムズさせられてきた女体が満足するわけがないのは、紗由美自身が一番わかっている。

 だから、素知らぬ顔をした人妻の子宮には快感への焦燥が澱のように溜まり、快楽の果てへの渇望がジリジリと肥大しているのは確かなのだ。

 美術館を後にしながら、さゆは頭を切り替えようとした。しかし、巧みなオトコは、それを許さなかったのだ。

「いかがでしたか?」
「すごく勉強になります。本当に、ありがとうございます。来て良かったです」

 話題は良い。正真正銘、今はそう思っているのだから。

 心から、感謝の気持ちで頭を下げている紗由美だ。

 しかし、始めはひどかった。

 触られるのはわかっていた。確かに、ある程度は覚悟して来たものの「視点はなるべく近い方が良いので」などと言って、いきなり腰に手を回されて、抱き寄せられてしまうとは、予想の斜め上を行く。

 恋人歩きだ。

 とっさに拒否しようとした。しかし、左側から抱き寄せる北山の視線の近さを考えると、身動きすることを反射的にためらってしまった。

 ピタリとくっついた男の目から、膨らみを強調させる働きしかしないブラまで三十センチもないのだ。

 一端抱き寄せられてしまえば、グッと抱き寄せてくる腕に逆らおうとすると、周りからどう思われるのか。とっさに、ジッと耐えることを選んでしまったのは、マゾ的な受け身の姿勢のせいなのかもしれない。

 男の腕が腰にかかり、ピタリと抱き寄せられる。

 最初はドキドキが止まらなかった。指先も時々、妖しく蠢いてくるのも気になる。いや、気になると言うよりもゾクゾクしてくる快感を知らんぷりしてみせるだけでも、消耗しそうだ。
 おまけに、顔が近い分だけ、ちょっとした動き一つでも、視線がワンピースの中に侵入して、胸が犯されている感覚になってしまう。

 きっと顔が真っ赤だったはずだ。中学生が生まれて初めてのデートで、手をつないだ瞬間よりもヒドかっただろうと思う。

『あなたに言ったら、きっと、これだけでも寝かせてくれなくなっちゃうかな?』

 自分自身に強がってみせる紗由美だ。だが、その一方で、子宮の奥からトローンとした何かが溢れてきていることに気付いてもいる。レース地は、水分をほとんど吸収してくれない。太股から垂れてしまったら、どうしようか、そんなことまで考えてしまうほど。

 そんな密やかで、禁断のアバンチュールだけにのめり込むわけにもいかなかった。他人からどう思われているのか、気になって仕方なかったのだ。

『恋人同士? でも、ちょっと年の差があるし。じゃあ、不倫カップルかしら? あぁ、でも、美術館でこんな体勢だなんて、中学生同士のバカップル以下よね』

 しかし、そんなこと気を取られたのは、絵を見始めるまでだった。

 北山は、第一展示室の一番手前にある絵。つまりは、まだ、国内でも、それほど知られてないマイナー作家の絵を、サラリと説明し始めたのだ。

 そこからは、腰の手は気にならなくなった。なにしろ、美術館の解説イヤホンを使わずに、それ以上の解説をしてくれる北山の知識も、見立ても、すごい。斬新な上な上に緻密だ。おまけに、その一つ一つが、紗由美の勉強すべき課題に触れながらの「特別演習」になっているのだ。

『すごぉい。私って、今まで、いったい何を見てきたのかしら』

 目から鱗が落ちるとはこのことだっただろう。途中から、腰を抱える手のことなど忘れて、メモを取るのに夢中になってしまったほど。美術館は、時々来るけれども、あくまでも楽しみが中心だ。こんな風に、絵を見ながらメモを取るなんて初めての経験だった。

 グルリと一周が終わってから、ふと、身体をピタリと引き寄せられていることを思い出して、慌てて身体を引き離した。北山は、それを咎めも、追いもせず「じゃあ、お昼にしましょうか」と提案してきた。








fsatosi at 21:00コメント(0) 
作品 | 紗由美の冒険

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