ネットが発達してからこの業界に「嘘」がはびこるようになった。
ここで言う嘘とは、偽造とか詐欺とかそういう大げさなものではない。「知ったかぶり」という小さな嘘である。

お客様に対して観光スポットの説明をする時に、

・行ったことない場所なのに、行ったことのあるように説明する
・よくわからないのに、知った風な説明をする
・ネットに書いてある情報を、裏付けを取らずに説明する

といったことである。今時はネットで調べたらすぐに、お客さんの感想や、混雑状況などもわかる。
だから例えば「今年から始まった◯◯寺のライトアップって、どんな感じですか?」などと聞かれた場合に、「混雑してるみたいですよ」とか「面白いみたいですよ」などと軽率に答えてしまう。

しかし僕はこのような受け答えを好まない。これはたとえ小さくても「嘘」だと思うからだ。

プロである以上、自分が責任を持てる情報のみ提供すべきではないだろうか。
良いとか悪いとか、評価に関わることは必ず、自分の目というフィルターを通して感じたことだけを伝えるべきである。

もちろん時により、そういった受け答えをせざるを得ない時もある。
しかしそれでもなお、自分が嘘をついているという自覚を持つのが適切な倫理観ではないかと思う。


小さな「嘘」は情報の受け答えだけに限らない。企画提案の際もそうだ。
例えば「茶道体験」を提案する際に、自分がテレビとかネットでしか見たことがないのに「茶道体験はおすすめです」とか「茶道体験は楽しいですよ」と説明するのも、小さな嘘のひとつだと思うのである。
たとえそれが会社の提案するカタログに載っていたとしても、出来る限り全てのことを体験し、自分のものにすることで、説得力も違ってくることだろう。

だから日頃から、様々なことを経験し、自分の目で見て感じたことをお客様に伝えられるよう準備したい。
興味があるものには当然のこと、自分がそこまで興味がないとしても、いつか尋ねられるお客様に対して誠実な振る舞いができるよう、現場に行って見るということが非常に重要なことではないだろうか。
面倒だなと思われても、そこへ行くこと、体験することの意味とか重要性を伝えていくのが仕事の本質だと思う。

なので採用の面接などにあたっても、そういった点は必ず聞くようにしている。
その人がいかに自分の足で見聞きしたことをベースに語っているか、という点を見分けるようにしているのだ。

企画する、提案する、というシンプルな仕事の中に、嘘が混じらないような仕事を続けていきたいし、その価値観・倫理観のすり合わせは大事にしたい。


ここまで読まれた方は、「なんだ、そんなことは当たり前じゃないか」と思われるかもしれない。
しかし、そんな当たり前のことを意識せねばならないくらい、ネットの「手軽さ」は誘惑が強いものなのだ。
ものづくりの世界はさておき、コンサルティングや広告など、形のないアイデア勝負の世界では、驚くほどに、そしてそれを疑う人が少数派になるほどに、「小さな嘘」ばかりである。