立命館大学で夏期集中講義として開催されている「空間エンタテインメント概論」にお招きいただき、講演をした。単位互換の対象となっていることもあり京都市内の様々な大学から40名ほどが集う本講座での講演はすでに5年目くらいになっている。
そしてまたこの講座には非常に苦い思い出がある。昨年行った講義では、終了後に、質問の手を誰もあげなかったのだ。休み時間になってからも誰も話しかけてもらえなかった。
講演を経験したことがあればわかると思うが、講演の楽しみや手応えは、聞き手の反応にある。自分の話すことで笑いが起きたり、質問がたくさん出たり、時にはハッとさせられる意見や感想をもらうことで、大きな充実感を感じることができる。それが昨年は反応ゼロで、かなり寂しい気持ちで帰りのバスに乗り込んだことを覚えている。
今年も同じ結果になったらどうしようと不安にとらわれながら準備を進めたところ、結果としては見違えるように盛り上がり、とても楽しい90分となった。
自分なりに去年と変えたのは以下のような点だ。
・なぜこのような講演をしているのか
→自分自身が目的意識のない学生だったころ、活躍する社会人の話を聞いてとても刺激を受けたため、大学生向けの講演の機会をというのをとても大切にしていること
・会社をなぜ立ち上げたのか
→友達はみな大企業に就職していったが、自分としては、なんとなく先が見えてしまうようなキャリアは嫌だった。リスクもあるけど挑戦できる環境に身を置いてみたいと思った。
・その時々でどのようなことを考え、何をしたのか
→自分のノウハウや経験をどうやって伝えたり教えたりすればいいかに苦心している。編集の世界もイベントの世界も、企画や発想が全て。なぜそのように考えるのか、なぜそのようにするのか、という部分を教えるのがとても難しいし時間がかかる。そうは言っても現代では3年も5年も下積みということではスタッフが離脱していく。自分の考えや、業務内容を記載したマニュアルをベースに運用することを大切にしている
・当時悩んでいたことや考えていたことは何だったのかという、ここだけの話をする
→自分としては編集の世界で生きていければいいなと思っていたが、驚くほどの速さでインターネットが普及し、スマホが出てきて業界が一気に不況になった。旅行事業にシフトしていったが、波に乗れそうなところでリーマンショックが起きたり東日本大震災が起きたりして、山あり谷ありで大変だった。そんな中、京都観光ブームが起きてとても追い風になっている。
上記のような要素を、手がけた企画事例に織り交ぜながら話を進めていった。
話の途中から活発に質問が出たりと、去年とはあまりにも異なる反響に自分でも驚いた。
思い返してみると去年のプレゼンはやや硬かったと思うし、良いところだけを話していたので、学生さんにとっては、何か違う世界の話というか、身近に感じることが難しかったのかもしれない。
成功例ばかり話すと、親近感がわきにくくなって、質問をしたり、メールを送ったりすることにビビってしまうのかもしれない。
女性が一定の割合含まれる講演では、必ずキャリア設計についても話をする。
僕が伝えたいのは以下のようなことだ。
・人によってリスク許容量や、人生における振れ幅をどれほど求めるのかは異なる。3年先、5年先が見えるから逆に安心して働けるという人もいれば、それではつまらないという人もいる。みんなが行くから大企業、ではなくて、自分はどういう性格タイプなのか、自分の人生をどういう風にしたいか、決めなければならない。自分探しとかそういうことではなく、プライドだとか親の意向だとかにとらわれず、自分の気持ちと真剣に向き合うことが重要ではないか
・女性の場合は必ず結婚や出産について考えざるを得ない。子育てが終わったあとも働き続けたいと少しでも思うなら、手に職系の専門スキルを身につけるのが良いのではないか。それも、知能を生かした専門職をおすすめしたい。語学力を磨いた先にあるものや、深い知識や学習が必要なものだ。僕がかつて働いていた編集の業界では子育てをしながらとか子育てが終わった女性もたくさんいた。また在宅でできる仕事という点も特徴であった。
こういう話をすると必ず講演後に、参考になりましたというメールをもらう。就職に関する生のアドバイスを聞ける機会というのは意外と少ないのかもしれない。
自分の限界は自分で作り、課題を打開するには自分を磨くしかないという認識を新たにした今回の機会だった。毎年貴重な機会をご提供いただく菅野さんには深くお礼申し上げます。
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