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ICCカンファレンス KYOTO 2017が大盛況のうちに終了した。経営幹部ばかり登壇者約200名、参加者450名の総勢650名という壮大な規模。

運営者である小林雅氏は、僕のイベント運営における師匠であり、初めて出会った2010年以来、様々な薫陶を受けてきた。
弟子としての成績はすでにAppLovin坂本くんやベイン・アンド・カンパニーの井上くんに抜かれてしまっているけれど、弟子として教えを受けた年月は多分1番長いだろうと思う。

FBグループでの日々のノウハウの共有などを通じてカンファレンス企画の何たるかを教わり、たくさん食事もごちそうになりながら、日本一のカンファレンスを目指して7年ほど一緒になって運営してきた。

そして今回が、師匠の企画を初めて参加者として経験する機会であった。

結論から言うと、運営側から見ていた時とは違う、実感をともなった満足がそこにあった。
だから自信を持って「ICCには参加した方が良い!」と言い切れる。
また、運営側にいるだけでは見えないものがたくさん見え、今後の運営企画に活かせそうだ。

弟子目線なのでバイアスもかかっているけれど、
ICCの素晴らしい点を、振り返りとして以下にまとめてみたい。


1)セッション濃度

ICCのセッションは75分と決められており、60分が議論、最後の15分が質疑応答(各自のまとめ含む)である。

75分というのは集中して頭を動かしながら聞く限界に近い。聞き終わったらクタクタになるセッションもある。それほどに内容が濃い。

なぜかというと、参加者が前提知識を持っていることから、無駄な自己紹介プレゼンがないことだ。登壇者は1分程度で会社名と事業内容を説明したら、いきなりモデレーターから論点が提示され議論が始まる。

真摯な意見と意見のぶつかり合いがあり、とても面白い。
登壇者の組み合わせは必ずしも同業界ではなく、スパイスとして異分野の人物が含まれていたりする。

その面々も適当にかき混ぜただけではなく、「化学反応」を予期して小林氏が練った組み合わせなのだ。

これは、誰が、どんなテーマの話が面白いからこそ組み合わせることのできる品質である。
(知名度に惑わされず、話が面白い人なのかどうかを、「直接」見極めてから判断しておられる)

そして驚くことには、小林師匠はいったん「仮組み」したセッションタイムテーブルと内容を参加者に公開し、アンケートまで取る。で、アンケート結果を見て、セッションの組み換えや、時にはボツにしたりといった改善を行うのである。

これは簡単なようで相当な手間が増える作業だ。
スピーカーに連絡し調整したスケジュールを変更してもらわなければならないからだ。

そもそもセッションは、勝手に組めるものでもない。Aさんはこの日の15時までしかいられない、
Bさんはこの日は14時から16時の間だけ電話会議がある、Cさんは財務系のセッションは出ない……
などなど細かい条件があり、普通に組むだけでも四苦八苦するものなのである。

そうやって苦労して組んだ案を、小林師匠は躊躇なく組み直したりする。



セッションの質を高めるために機能しているのがモデレーターだ。
新聞社や行政が企画するカンファレンスだと、登壇者がせっかく豪華でも、司会者やモデレーターが、アナウンサーだったり、大学の先生だったりして、参加者が聞きたいことと微妙にずれていたり、必要のない解説を行ったりして時間を浪費し、濃度が薄まってしまう。

ICCは聴衆側もほぼ100%が経営幹部であり、モデレーターもほとんどが経営幹部、あるいは経営的知識を持った専門家であるため、余計な解説とか言い直しがない。専門的な内容であっても躊躇なく掘り下げていく。

いつもなら感じる「そこじゃないんだよな、俺がモデレーターならもっと面白い展開にできるのに」というもどかしさが一切ないため、議論の内容に没入できる。

そんな濃いセッションがなんと6種類も同時並行で展開されるのだ。


2)参加者の多様性
ICCが始まる時、最初のネーミングは確か「産業共創基盤」といういまいち微妙(!?)なものであった。国の組織じゃないんだから……と某所よりツッコミが入り今のネーミングになったのだが、その時から小林師匠の頭の中には、今で言うオープンイノベーションとか、大企業×スタートアップ連携のようなイメージがあったのだと思う。

当時はほとんどそういう動きはなかったが、たった数年で状況は一変し、日経新聞には毎日のようにハッカソンやら企業連携やら大企業によるCVCのニュースが掲載されている。文字通り Co-Creation が求められる時代になってきた。

参加者の多くはスタートアップであるとはいえ、一定の部分を大企業や、研究者の方が占めるようになってきて、それがセッションや交流の質を高めている。

他のカンファレンスはまだまだスタートアップによるスタートアップのための……という域を出ていないことを考えれば、いち早く取り組んだ分だけ、ICCに分があるように感じるし、すでにそういう場になっていることは、大企業の参加者からしてみたらとても入りやすい空気だと思われる。


3)全員が真剣

矛盾するようだが、経営は全てにおいて個別的であり、魔法の杖=汎用的な解など存在しない。
汎用的な解は、「汎用的な解などないというのが解である」というメタ認知だけだ。

それでもなお、自社のケースに当てはまるような1かけらのヒントを求めて、
参加者は登壇者の議論を真剣に聞いている。

そのピリッとした空気が会場を支配しており、空気が登壇者に良い議論をさせるスパイスとなる。


4)とても良く計算された「流れ」

75分のセッション、30分の休憩、パーティーは2時間。
端的にフォーマット化されている。

休憩時間には間食が用意され、ホワイエは仕事をしたい人、立ち話をしたい人、景色を見て休憩をしたい人、打ち合わせをしたい人、それぞれに対応できるようレイアウトされている。

館内の移動には、必要な場所に必要なだけの標識が置かれ、適切な場所に適切なだけのスタッフがいる。

限られたパーティー時間を活用すべく、お偉いさんの挨拶や乾杯の発声がない。いきなり始まる。

ビュッフェは提供効率を重視し、両サイドから料理が取れるようになっている。

早く帰って仕事をしたい人も、まだ飲みたい人は2次会に行けるよう、1次会は21時半頃スパッと終わる。

朝から有意義に時間を過ごしたい人のために、アクティビティが用意されている。

などなど、意識する人もしない人も、心地よく1日が過ごせるよう様々な「流れ」が工夫されている。ツギハギ感や、ちぐはぐさが全くない。


5)優秀なスタッフ
大学生と若手社会人から構成される運営スタッフは約60名、なんとすべてがボランティアである。
交通費と宿泊費まで自腹で拠出して京都にやって来る。

通常、ボランティアというのは、労働費を切り詰めたいという目的で採用される。
ICCは真逆で、「無償であっても貴重なチャンスに飛び込みたい」と思う人だけを採用するために、あえてボランティアにしているのである。(お金の問題でないことは、参加者と同じレベルの食事および打ち上げが全日程無償提供されることからも明らかだ。これだけで日給以上の支出がある)

コミュニケーション能力も非常に高いため、イベント運営に必要なタスク理解、およびホスピタリティが高い。

参加者からすると、会場の中に60名もの清々しい若者がいるというのはとても気持ちが良いものだ。
ふとした質問などに的確に対応してくれるし、心を込めて挨拶などをしてくれる。

パーティーで暇になった時は、話し相手にすらなってくれる。それも経営者と対等に話せるだけの知識を持っていたり、経営者と同じようなパッションを持っていたりする。

スタッフの規律が保たれているのは、時として厳しすぎるのでは……と感じるほどの真剣な査定と選抜があるためだ。ボランティアスタッフではあるが、続けていくことは容易ではない。


6)温かい空気

小林師匠の運営の最も大きな点として、外部の関係会社との長期的な関係を非常に重視する。
利用するホテル、レストラン、設営会社、撮影会社などを長らく変えないのだ。
何かミスがあった際も、改善策を求めてやり直していく。

外部企業はいわゆる「下請け」であるので、主催者に対してイエスマンになりがちだ。
率直な意見を述べてご機嫌を損ねると、契約を切られてしまうという弱い関係にある。

だがこのような関係では、良いイベント作りのための建設的な意見交換はできない。

前提として主催側が「失敗があっても乗り越えながらやっていこう」という大人なスタンスで対応してきてくれれば、外部企業も専門性を発揮しての意見提案が可能になる。このことは、イベントの質を高めるだけでなく、会場内に「温かい空気」をもたらすものなのである。

今回、会場でずっと変わらず担当している外部企業のみなさんとも久しぶりにお目にかかることができ、このスタンスが維持されていることをとても意義深く感じた。



加えて、VC時代の小林師匠のイベントは、「断ると悪いから/怖いから」みたいな感じで
参加している人が多かったように思う。あるいは運営上、何となく不透明で、「大人の事情で決まっているのかな」的なことが見え隠れしたりした。

それがICC時代になってからは、コンテンツのメディア化含め、個人としての小林師匠が全面に出ることで、「ここまで必死にやっている男がいるなら、応援していこう、一緒にやっていこう」というスタンスの参加者がすごく増えたように感じる。

このことも一層、場を温かいものにしている要因だと感じた。


長くなったが、今回感じたのは以上のようなことである。
相変わらず参加のハードルは低くはないが、独自かつ高品質な、無二のカンファレンスをぜひ一人でも多くの経営者に体験してみてほしいと思う。