2011年01月21日
クラスターハウジングが日本で普及しない理由
不動産鑑定士の伊東良平です。
日本のの代表的な分譲住宅には、宅地・戸建分譲と分譲マンションがありますが(というよりこれしかないかも)、海外(カナダや中国など)ではこの中間的なものとして、クラスターハウジング(cluster housing)という形態があります。
クラスターハウジングとは、下図のように戸建住宅を個々の土地の上に建てる専有宅地と、専有宅地の周囲の共用の敷地から成る、一種の小型住宅団地です。通常は敷地全体が塀などで囲われており、入口にセキュリティゲートがあるなど、防犯対策が取られています。
敷地内にプールや遊戯公園、クラブハウスなどの共用設備が備えられているような豪華なものも、海外では多く見られます。このような豪華な住宅は、中国では「別墅」と呼ばれています。
個々の専有宅地に戸建住宅を一定のルールに従って自由に建てられるケースと、建物が規格品で個々の物件の自由度は内装や専用庭の利用方法程度のケースがあり、分譲のあり方も様々ですが、専有部分と共用部分があり、共用部分が専有部分(個々の宅地)に付随して取引される、という点で”宅地マンション”と呼べるかもしれません。
日本でも、別荘地の分譲などでこのような事例が過去に見られましたが、一般の住宅用地として販売された例は聞いたことがありません。これにはいろいろな理由があると思いますが、今回はその理由を考えて(推測して)みたいと思います。
まず、このような宅地分譲をすることによって、個々の専有宅地と専有宅地上の建物は、個々のオーナーの所有物になりますが、個々の専有宅地に接続する道路(通路)や上下水道は、土地を買った他のオーナーとの”共用施設”になります。この”共用施設”の管理・修繕は、他のオーナーと協同で捻出する管理費等で賄われます。この点は、区分所有のマンションの管理費・修繕積立金で共用設備や配管などを管理・修繕するのと同じ発想です。
しかし、個々の戸建住宅は不動産登記法上「区分所有建物」とすることができないので、その共用施設を管理するために、オーナーが特殊な”管理組合”を設立して管理しなければなりません。共用の敷地は、個々のオーナーの共有とすることで権利が保全されますが(共有の私道のような形態です)、個別の専有宅地に当然に付随して取引されるものではありません。この点が、区分所有建物の敷地権と異なります。
また建築基準法上、個々の専有宅地は建築基準法上の道路に接していないので、共用の敷地全体が各戸建住宅の敷地であると建築確認の際に認識してもらう必要があり、あくまで一つの敷地に数棟の建物(戸建住宅)が建っている、という扱いにする必要があります。
すなわち建築基準法上は、一つの敷地にオーナーの異なる複数の”離れ”が存在するという形式になり、個々の宅地のオーナーが建物を新築/建替えようとするとき、敷地の共有者であるオーナー全員で確認申請をする、という方法を取らなければなりません。
これを避けるためには、敷地内通路を建築基準法43条但書に定める防災用の空地として、自治体から許可を受ける必要がありますが、これは簡単に手続きではありません。
なにより問題なのは、日本の区分所有法(「建物の区分所有等に関する法律」)には「一棟の建物に構造上区分された数個の部分で独立して住居、店舗、事務所又は倉庫その他建物としての用途に供することができるものがあるときは、その各部分は、この法律の定めるところにより、それぞれ所有権の目的とすることができる。 」(第1条)とあり、専用宅地上の住宅のオーナーが”管理組合”を設立しても、個々の住戸は「構造上区分された数個の部分」にならないため、設立された管理組合が法的には区分所有法上の「管理組合」と認められないのではないか、という点があります。
”管理組合”を設立すること自体は、前述の通り可能ですが、区分所有法上の「管理組合」ではないため、その組合のルールが、個々の専有宅地を取得した者にも効力の及ぶのか、極めて不明確です。
このように法的に脆弱な権利形態では、オーナー同士が仲が良いときには問題がありませんが、オーナー同士で紛争が生じたとき、解決する方法が見出しにくいと言えます。オーナー同士を予め契約で縛ることは可能ですが、契約上の権利はあくまで「債権」です。債権(各宅地のオーナーが有する権利)の譲渡には債務者(他のオーナー全員)の同意が必要、とも解釈でき、専有宅地の再販が困難です。区分所有法のような確立した規定が適用されなければ、外部から各オーナーの権利・義務を担保する(拘束する)ものがありません。
したがって、クラスターハウジングを日本で実現するのは、法的な仕組作りにかなりいろいろな工夫が必要です。この点、先日述べた「SI住宅(スケルトンインフィル住宅)」と同じ問題を抱えているのかもしれません。
不動産鑑定士/一級建築士
伊東 良平
045-222-8757