2009年08月11日

金融工学は悪か?

不動産鑑定士の伊東です。

 アメリカでサブプライムローン問題が顕在化してから約2年が経ちました。信用力の低い人向けの住宅ローン債権を証券化した金融商品の価格が急落し、世界各地で急激な信用市場の悪化が起こり、リーマンブラザーズの破綻へとつながり、その後世界経済の急激な悪化を招いたことは、みなさんもよくご承知の通りです。
 この世界経済の悪化の原因を、「金融工学を駆使した証券化商品」の氾濫によるものだとする見解も、一部で見受けられます。
 しかし私は、ここ2年間の世界経済の急減速を、金融工学と証券化手法の所為だとする、「金融工学悪玉論」「証券化悪玉論」には、強い違和感を覚えます。

 確かに、アメリカの証券会社が、「成果主義」のもとに次々に証券化商品を組成・販売あるいは自ら購入し、いかにも儲かっているかのような外見を作りだした責任はあると思います。短期的な収益実績を作りだすため、債権の小口転売や資産のハイレバレッジ運用を繰り返し、ちょっとした市場の変化をきっかけとして、転落の道を歩んだことは確かです。またその影響が、当の証券会社だけでなく、金融市場を通して実体経済の大幅な悪化を招いたことも事実だと思います。
 しかしそれは、金融工学が間違っていたことを意味するものではなく、証券化という仕組みが起こした問題でもないと思います。

 金融工学の基本中の基本として「裁定取引は成立しない」という考え方があります。”There is no free lunch”(タダ飯は食えない)、つまり、対価を支払うことなしに必ず儲かることはありえない、というものです。市場が効率的であれば、持てば必ず儲かる金融商品の価格は上昇し、持てば必ず損をする金融商品の価格は下落する。よって、金融商品の価格は、儲かることも損をすることもない、均衡した状態に落ち着く(arbitrage-free)、というものです。
 現実の市場では”心理”が働き、「裁定機会」が存在することも事実です。しかしこれは一時的(株式市場なら数分間、実物不動産市場なら数ヵ月)な現象であり、定常的に裁定機会が成立することはありません。したがって、金融工学を正しく駆使すればするほど、必ず儲かる金融商品を作ることはできず、金融で儲けることはできなくなるはずなのです。

 では、金融で大儲けができてしまうとしたら、それはなぜなのでしょうか。理由は3つしかありません。
 \い涼罎了餠發偏っている。
 金融市場が効率的でない。
 将来の収益見通しに過度に楽観的になっている。

 ,蓮∈すぐにお金が欲しい人と、将来により大きなお金が欲しい人を、仲介することによって商売ができるということです。
 今すぐにお金が必要な人は、将来により大きな金額を支払うことを約束してでも、他人からお金を借りる必要があります。一方、すぐにお金を使う必要のない人は、将来より大きな金額を得られるのならば、人に貸しても(あるいは銀行に貯金しても)もよいと考えます。この2人を引き合わせることで、商売が成立するということです。

 △呂弔泙蝓経済における情報の非対称性によって、ある事実を知る人と知らない人がいることは避けられないという事情を解決することで、商売が成り立つということです。さまざまな契約当事者の情報のやり取りを仲介することによって、利益を得ることができます。
 たとえば、銀行がある会社の実情について把握し、その実情を知らない多数の預金者から低利で資金を集め、集めた資金をその企業に貸付ければ、金利差の分だけ利益を得ることができます。株式市場や債券市場の整備によって、企業の情報を広く一般に公表する仕組みができれば、その企業を信じられる人がいる限り、企業は一般の人から資金を集めることが出来ます。

 は、いわゆるリスク認識の低下による資産価格の上昇、すなわち「バブル」です。消費目的(消耗品にしろ耐久消費材にしろサービスにしろ)以外で売買される資産の価格は、将来の予測収入の割引現在価値で決まると考えられます。
 たとえば国債の購入は、将来もらえる利息と償還元本を、現金と交換する取引です。株式投資は、ある企業の将来の利益と、現金を交換する取引ですし、不動産投資は、将来の家賃純収入と、現金を交換する取引です。
 将来の収入に対する見通しの改善や、将来の利息・元本の貸倒れ懸念の低下は、資産価格の上昇をもたらします。見通しが暗い時期に資産を購入し、見通しが明るくなった時期に売却すれば、利益を得られるということです。

 金融は「お金の融通」ですから、それ自体が付加価値を生み出しているわけではありません。ただ、世の中に上記 銑が存在する限り、必要なものであることに変わりありません。
 金融工学は、金融取引における価格形成を、確率論や統計解析を使って分析するもので、それ自体が間違っているわけではありません。また、資産の証券化は、上記の△魏魴茲垢觴蠱覆砲垢ません。金融工学も資産の証券化も、それ自体が利益を生むものであるはずはないのです。

 今回の世界的な金融危機は、金融工学が原因でも証券化が原因でもありません。がもたらしたバブルが原因です。確かに、資産の証券化によって金融市場が効率化した(△解決していった)ことにより、一時的に金融業界に利益を生んだことは事実です。しかしそれは一時的なもので、永続する利益ではないことは当の金融業界の人にも分かっていました。
 金融工学と資産の証券化が世界的な金融バブルの原因と考える人は、バブルにより儲けていたいた人が金融工学を利用し資産の証券化を行っていた、という事実を見てそう思っているだけで、視点がずれていると思います。
 会計制度や格付機関の対応を問題にする態度も、「魔女狩り」に思えてなりません。交通事故が増えた原因が、自動車工学の進歩や交通ルールの未整備にある、というのと同じ論理です。根本の原因は、運転技術や運転マナーにあるはずです。金融工学や証券化がバブルの原因ではなく、結局のところ過度な信用膨張を起こした金融関係者の見通しの甘さによるものだと思います。

不動産鑑定士/一級建築士 伊東 良平



fudousan_soudan at 23:30コメント(0)トラックバック(1)不動産投資  

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1. カフェオレでキレる男  [ 投資一族のブログ ]   2010年05月27日 21:08
今日はちょっとコーヒーブレイク。ということでコーヒーの話でもしましょう。 ランチの後に飲むコーヒー。 株の世界では必ずしも全てではありませんが、デリバティブの世界では全てが 経済合理性を持ってPriceされると言って過言ではありません。 仕事中に遊び、遊び中にもPr...

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