柔らかい身体を追い求めるのは危険?

ヨガを始めたばかりの時は、インストラクターや周りの生徒さんの身体の柔らかさに圧倒されることがあると思います。

最初きっとまず誰もが憧れるポーズが、ハヌマナーサナ猿王のポーズ)や、ウパヴィシュタコーナーサナ開脚前屈のポーズ) といったところでしょうか。そのようなポーズを目標にしてヨガに励んでいくのは良いことです。実際私もヨガを始めてからの数年間は、そういった高い柔軟性を必要とするポーズばかり好んでチャレンジしていました。

ただ知っておいて欲しいのが、柔軟性だけを追い求めて練習していくのは危険だということです。

「参考可動域」とは

私達の身体にはたくさんの関節があり、それぞれの関節が可動する正常範囲が具体的に何度というように数値が決まっています。これを「参考可動域」といいます。下の表が関節可動域測定の表(一部)です。

関節可動域測定 高井信朗「全部見える整形外科疾患」
引用:高井信朗「全部見える整形外科疾患」
関節可動域測定 高井信朗「全部見える整形外科疾患」
引用:高井信朗「全部見える整形外科疾患」

では実際にこの2つのポーズを例にとって、可動域をチェックしてみましょう。

ハヌマナーサナ(猿王のポーズ)

両脚を前後に180度開脚したポーズです。股関節の屈曲の参考可動域は(膝伸展位の場合)90度、そして伸展の参考可動域は15度です。このポーズだと屈曲している前脚はちょうど90度くらいなので前脚は大丈夫でしょう。ところが後脚はどうでしょう?股関節伸展15度という参考可動域をはるかにオーバーして、90度まで伸展が出ています。

ハヌマナーサナ(猿王のポーズ) 参考可動域
Photo by Yuki Horikawa

ウパヴィシュタコーナーサナ(開脚前屈のポーズ)

座位で両脚を左右に開脚して、さらに上体を前に倒すポーズです。まず、左右に開脚した際の両脚の角度は120〜130度が理想とされていますが、写真を見るとそれを超えて180度に近いところまで開脚していますよね。さらにそこから上体を前方に倒すことで、股関節の屈曲が必要になります。股関節の屈曲の参考可動域は、一つ目のポーズで述べた通り90度です。このポーズは股関節で身体を前後に二つ折りしたような形なので、股関節の屈曲は90度どころか180度まで出ていることになります。このポーズも参考可動域をオーバーしています。

ウパヴィシュタコーナーサナ(開脚前屈のポーズ) 参考可動域
Photo by Yuki Horikawa

決してこれらのポーズが身体に良くないと言っているわけではありません。参考可動域を超えることがダメというわけでもありません。何が言いたいかというと、人体の構造上必要な可動域を超える範囲まで、ヨガのポーズでは可動域を要するものが多いです。そうすると怪我のリスクが当然高まります。そのため柔軟性だけでヨガにチャレンジするのは危険だということを知っておくべきです。



もう一つ、「関節弛緩性テスト」といって、関節の緩さの簡易チェックテストがこのように定められています。

関節弛緩性テスト 肩甲骨 肩 股関節
引用:cramer japan

ヨガをやっている方や、バレエや体操の経験のある方は結構当てはまってしまうのではないでしょうか。4つ以上当てはまると陽性ですが、ちなみに私は4つ該当します。

この結果をみて「私は関節が緩んでいるんだ」とか「ヨガは身体に良くないんだ」なんて勘違いしてガッカリしたりしないでくださいね。

私が言いたいのは、先述したとおりヨガは参考可動域を超えるポーズが多いため、怪我につながることがあります。それを防ぐためにはその可動性をコントロールすることが重要だということを今回知ってほしいのです。この「関節弛緩性テスト」に当てはまる項目が多かった人ほど注意が必要です。その理由を次に詳しく説明します。

筋肉が柔らかいと関節が変形する

身体が硬い原因は、

・関節の硬さによるもの
・筋肉の硬さによるもの

・その他の軟部組織(筋膜、腱、靭帯、脂肪組織、皮膚、神経、血管など)

によるものと様々ですが、身体が硬い原因のほとんどは「筋肉」にあります。

男性は筋肉が硬く、女性は筋肉が柔らかい傾向にあります。筋肉は硬いより柔らかい方がいいと一般的に考えられていますが、必ずしもそうとは限りません。関節の変形は、男性より女性の方が圧倒的に多くなります。それは女性の方が筋肉が柔らかいことに原因があります。例として、外反母趾・O脚・変形性膝関節症・変形性股関節症・側弯症・脊椎圧迫骨折・外反肘などです。

一方で筋肉が硬いと、日常生活や運動をする際に筋肉によるストッパーが働くため、肉離れなどの筋肉の障害が多くなります。そして、筋肉が柔らかいと骨や靭帯のストッパーが働くため、関節や靭帯を痛めたり関節の変形が起こりやすくなるのです。

以上を考慮すると、男性ほど柔軟性の向上が、女性ほど筋力の向上が必要といえます。

「運動機能の3要素」とは

ヨガは柔軟性だけでは成立しません。よく誤解されるところでもありますが、「ヨガ=身体が柔らかい、柔らかくないとできない」といった先入観や偏った概念はまず捨てましょう。先述した通り、柔軟性だけでヨガを行うと、関節や靭帯の損傷につながります。柔軟性とともに重要な「運動機能の3つの要素」が、私たちにはあるのです。

「運動機能の3要素」とは、

・「柔軟性」
・「筋力」

・「バランス能力」

です。

これはヨガだけに限定されず、全てのエクササイズやスポーツにも当てはまります。また、日常生活においても全ての人に共通して必要な3要素だと私は考えています。年齢や性別、生活習慣や既往歴などによって、3つの能力には個人差はありますが、全ての人にとって必要な3つであることには変わりありません。

ヨガをする上でも、この3つの要素それぞれを維持・向上させることを目標にしていくと、ヨガが安全かつ効果的に、そして年を重ねてもずっと継続していくことができるはずです。






ヨガで「筋力」アップを目指す方法

では、3つの要素の1つである「筋力」、ヨガで筋力をアップするにはどうすればよいでしょうか?それはヨガのジャンル次第です。少なくとも、以下のヨガでは、筋トレにはなりません。

陰ヨガ
(座位や仰向けポーズ中心に3〜5分ポーズをキープするヨガ)
リストラティブヨガ

プロップスを使いリラクセーションと休息を取るヨガ)
ヨガニードラ

(横に寝ながら行い瞑想へ導くヨガ)
メディテーションヨガ

(瞑想を中心に行うヨガ)
・チェアヨガ

(椅子に座ったまま行うヨガ)

もちろん、自分の中で何か目的があってこれらのヨガをするのは構いません。ただし、筋トレ効果を狙うなら、もっとダイナミックな動きを伴うジャンルのヨガが筋トレに向いています。

ヨガのポーズでいうと、立位で行うポーズや、下半身の筋肉を使うポーズ、体幹の筋肉でコントロールするポーズが筋トレ効果が高いです。

ヨガで「バランス能力」UPを目指す方法

3つの要素の1つであるバランス能力、これをヨガで高めるためにはどうすれば良いでしょうか?

ヨガには片脚で立ってバランスを取るポーズがたくさんあります。まずは代表的で比較的シンプルなバランスポーズである、ヴルクシャーサナ木のポーズ)で立ってみましょう。

Photo by Yuki Horikawa
Photo by Yuki Horikawa

手は胸の前で合掌した形でいいので、目は開けたまま片脚立ちで30秒キープを目標にしてください。

30秒キープが困難な場合は、バランス能力が低下しています。何かしらの「体重のかけ方のアンバランス」があるはずです。背中が丸まっていたり、逆に反っていたり、左右どちらかに身体が傾いていたり、踵だけに乗っていたり、軸脚の膝が曲がっていたり、などです。自分で鏡を見て修正していくか、もしくはヨガインストラクターや理学療法士などの専門家にチェックしてもらうと分かりやすいと思います。

最後に

身体が柔らかくても、必要なだけの筋力がなければ、ヨガや日常生活で結果的に怪我や痛み、関節の変形などのリスクにつながる可能性があります。「柔軟性」と「筋力」と同時に、さらに「バランス能力」の3つを高めていくことができると、非常に均整の取れた運動機能を持った身体といえるでしょう。

一度、今自分が取り組んでいるヨガや日常生活を見直してみてはいかがでしょうか?もし3要素のアンバランスに気付いた場合は、今からでいいので、ヨガや日常生活の中で意識的に「運動機能の3要素」を取り入れていけるといいですね。