「姿勢」を意識したことがありますか?

皆さんは今まで自分の「姿勢」を意識したことはありますか?

病院で患者さんのリハビリを担当していて、そしてヨガクラスで生徒さんを見ていて日々感じることは、今まで自分の「姿勢」に関心を持ってこなかった方があまりに多いことです。
「姿勢」は幼い頃に誰かに教わったわけでもなく、人それぞれが大人になるにつれて自然と培ってきたものです。その「姿勢」が、将来の身体の不調や病気の原因になるとは思っていない方がほとんどなのではないでしょうか?
病院の患者さんだけでなく、今症状のない健康な方やヨガを続けている方も、必ずしも「姿勢」が正しいとは限りません。将来症状があらわれそうな要素を持っている方が多いのが現実です。

私は身体の専門家なので、人の身体をみればある程度の「姿勢」のクセなどは分かります。ですが、誰でもヨガのアーサナを行うことで、自分の身体の状態を知ることができます。むしろ自分の身体のことは、何十年もこの身体と付き合っている本人が一番感じやすいはずです。
日常生活の自分のクセや、仕事の時の主な姿勢、長年続けてきたスポーツの動きの特性など、数十年間の自分のライフスタイルの中ででき上がったクセなので、自分のことをひとつひとつ振り返ってみると気付きやすいでしょう。

正しい「姿勢」を知っていますか?

患者さんやヨガの生徒さんに、「普段の楽な姿勢をとってみてください」というと、大抵の方が少し背中を丸めた前傾姿勢をとります。それがほとんどの方にとっての楽な姿勢に違いないので、それは良しとしましょう。

しかし、「そこから次に、良い姿勢をとってみてください」と促すとどうでしょう?ほとんどの方が、胸を極端に張ったり、肩をすくめて力を入れたり、アゴを上げたり、全身にグッと力を込めたりするのです。正しい「姿勢」ってそうではないですよね?これは正しい「姿勢」を勘違いしている、もしくは正しい「姿勢」というものをそもそも知らない証拠です。正しい姿勢を多くの方が理解していないこと、これは私が理学療法士として患者さんを担当し始めたころ、最も驚いたことの一つでした。




これが理想的な「姿勢」です

本来の背骨は、横から見た時に頚椎は前弯、胸椎は後弯、腰椎は前弯、仙骨と尾骨は前弯のS字カーブを描いていることが理想です。それを「生理的弯曲」(せいりてきわんきょく)といいます。背骨と骨盤は身体の「軸」となる部分なので、このアライメントはとても大切です。
次に、3つの運動面を理解しましょう。

「タダーサナ」がすべてのアーサナの基本!理学療法士が重視する理想的な「姿勢」とは?
引用:川島敏生「ぜんぶわかる筋肉・関節の動きとしくみ事典」

・矢状面とは、身体を左右に分けるように横から見た面です。
・前額面とは、身体を前後に分けるように正面から見た面です。
・水平面とは、身体を上下に分けるように上から見た面です

この3つの運動面で姿勢を見ていきましょう。

矢状面・前額面からみた立位姿勢の理想的なアライメントは、以下の通りです。

「タダーサナ」がすべてのアーサナの基本!理学療法士が重視する理想的な「姿勢」とは?
引用:川島敏生「ぜんぶわかる筋肉・関節の動きとしくみ事典」

矢状面からみた時に、耳たぶ・肩の先端・大転子(お尻の中にある骨の突起)・膝関節の前・外くるぶしの前、を重心線が通ります。
前額面からみた時には、後頭部の突起・背骨・お尻の割目・両膝関節の中心・両内くるぶし間の中心、を重心線が通ります。
理想的なアライメントとは、イラストのようにこの5つのポイントが床から垂直に引いた重心線上に一列に並んでいることです。

この姿勢、ヨガで登場しますよね?そうです、「ターダーサナ」(山のポーズ)です。ターダーサナは本来の理想的な姿勢と同じです。ターダーサナはすべてのアーサナの基本であり、アーサナの起点であり終点でもあります。

そして、水平面から見た場合の理想的なアライメントは以下の通りです。

「タダーサナ」がすべてのアーサナの基本!理学療法士が重視する理想的な「姿勢」とは?
川島敏生「ぜんぶわかる筋肉・関節の動きとしくみ事典」/有賀誠司「骨と関節のしくみとはたらき」より編集

肩甲帯:頭上から身体を見下ろした時に、左右の肩甲骨は一直線上ではなく、横長の楕円形をした胸郭の形の関係で、約35°前方に向いています。
骨盤帯:骨盤にある左右のASIS(上前腸骨棘)が同じ高さにあることです。

水平面からみた場合は、主にこの肩甲帯と骨盤帯のアライメントをチェックします。もちろん、この理想的な姿勢を維持するためには他に、

・「インナーユニット」(骨盤底筋群・腹横筋・多裂筋・横隔膜)の働き
こちらの記事で説明した「足のグラウンディング
こちらの記事で説明した「抗重力筋」

これらの働きなしにはまず成立しないことを覚えておいてください。
そしてもう一つ誤解しないでほしいのが、常に正しい姿勢でいることが良いとは限らないということです。肩こりの記事でも少し触れましたが、問題は悪い姿勢をとることだけでなく「姿勢を変えないこと」です。長時間同じ姿勢で仕事や作業をする際は、時々立ち上がったり伸びをしたり、歩いたり姿勢を変えるといった「リセット」をする時間を設けることが大切です。そうすることで、筋肉内の循環が改善されて、疲労物質や発痛物質が滞りにくくなるのです。

正しい「姿勢」による効果

正しい立位姿勢をとることができてはじめて、正しく歩ける。そして正しく走れる。そして更に体幹や四肢をダイナミックに動かすスポーツ動作につながる、と私は考えています。
すべての動作の基本は、立位時の「姿勢」です。その基本が崩れていると、パワーの伝達が全身に効率よく行き届かずに、思い通りのパフォーマンスにつながらなかったり、疲労しやすかったり、故障しやすかったり、怪我など今後の不調につながっていく可能性が高いのです。

ヨガでも全く同じことが言えると思います。理想的な姿勢はヨガの「ターダーサナ」と同じだとお伝えしました。すべてのアーサナの原点はターダーサナです。まずターダーサナが正しくとれないと、ほかのアーサナへのチャレンジには限界があると思います。ある程度のアーサナはクリアできるかもしれませんが、ターダーサナが崩れていると、いつか必ず限界が来ます。限界とは、思い通りのアーサナの形にならなかったり、なかなか達成できないアーサナがあったり、アーサナの持久力がなかったり、ヨガによって故障や怪我など今後の不調につながってしまうという意味です。

私もヨガで苦手なポーズはいくつかありますし、決してもともと姿勢が良かったわけではありません。ヨガインストラクターも理学療法士も、あまり大きな声では言えませんが姿勢の悪い方を時々見かけますし、その方達が正しい姿勢を知らない場合や、そもそも姿勢が重要だと考えていない場合も残念ながらあります。

私の場合は、ヨガインストラクターになってその後理学療法士になって、いろんな生徒さんや患者さんと出会うことで、その方達の姿勢とともに自分自身の姿勢を見直す機会をいただくことができたのかもしれません。少なくとも私は姿勢の重要性を理解していて、その正しい姿勢を伝えることはできると思っています。





正しい「姿勢」をチェックしよう

さてここで、自分でできる簡単な姿勢のチェック法(矢状面)を紹介します。ペアの方がもしいればぜひ一緒にやってみてください。一人よりも客観的に見ることができるのでより良いです。

①鏡でチェック

まず、5つのポイント(耳垂・肩峰・大転子・膝関節前部・外果の前方)にシールを貼ってみましょう。相手に貼ってもらうのも良いです。シールは何でもOKです。それを目印にすると、この後のチェックがしやすくなります。

「タダーサナ」がすべてのアーサナの基本!理学療法士が重視する理想的な「姿勢」とは?
5つのポイント(耳垂・肩峰・大転子・膝関節前部・外果の前方)にシールを貼ろう。貼るシールはなんでもOK。

そして、全身鏡の前で立ってみましょう。

写真のようにメジャーやヨガベルト、紐(ひも)などを使います。ちょうど重心線を通過するように、メジャーの下端は外くるぶしの少し前を通過する位置で踵で踏んづけて、肩の先端までメジャーをピンと伸ばしてチェックします。4つのポイントをきちんと通過するでしょうか?

「タダーサナ」がすべてのアーサナの基本!理学療法士が重視する理想的な「姿勢」とは?
メジャーやヨガベルトなどを使ってチェックしてみよう。

ただし、一人で鏡でチェックする場合は鏡の方向に顔を向けるため、アライメント線が通る耳たぶの位置が必ず後方にズレてしまいます。ですので頭部のアライメントは除外した4つのポイントのチェックになってしまいます。このデスクワーク社会そしてスマホ時代、頭だけ前方偏移している姿勢の方が急増しているので、頭部のアライメントもチェックできる②③の方法か、ペアでチェックする方がおススメです。

「タダーサナ」がすべてのアーサナの基本!理学療法士が重視する理想的な「姿勢」とは?
鏡を見るための頭部回転で耳重のポイントが後方にズレてしまう

②写真でチェック

写真を撮ってチェックする方法があります。

セルフタイマーか、相手に自分が立っている姿を写真に撮ってもらいましょう。その写真に線を引くのです。私が患者さんに姿勢を自覚してもらう時にもよく利用する方法ですが、iPhoneのマークアップ機能を利用します。撮った写真を開いて、「編集」→「・・・」→「マックアップ」→「+」→「↗︎」の順にタップすると、自分の写真に直接ラインを描き込むことができます。その機能がない場合は、写真に透明の定規を当てる方法でもチェックできます。

「タダーサナ」がすべてのアーサナの基本!理学療法士が重視する理想的な「姿勢」とは?
スマホカメラのセルフタイマーを活用しよう

③壁でチェック

3つ目の姿勢チェックの方法は壁を使います。壁を使って正しい姿勢を感じてみましょう。両踵を壁から5cm程離して立ち、仙骨の辺り・肩甲骨の間・後頭部の3点を壁にくっつけます。この3点全てが壁に触れている状態が正常です。これ以外に壁にくっつく部位はありません。この時に、両肩の先端を無理矢理壁にくっつけようとする方がいますが、そうはしないでください。水平面のアライメントで説明した通り、肩甲骨は壁から約35度離れているのが自然です。

「タダーサナ」がすべてのアーサナの基本!理学療法士が重視する理想的な「姿勢」とは?
壁にくっつけてチェックしよう

最後に

理想的な「姿勢」はお分りいただけましたか?姿勢はすべての日常動作や、スポーツなどの応用動作の基本となります。そして、理想的な姿勢とはヨガの「ターダーサナ」と同じであり、ターダーサナはすべてのヨガのアーサナの基本となるアーサナです。

急に今の姿勢を正そうとする必要はありません。むしろ今までの姿勢を突然変えようとすることで、身体のどこかに急に無理な負担がかかり、痛みなどが現れてしまう可能性もあります。
何十年もかけて培ってきた姿勢ですから、数ヶ月または何年かかけて修正していくつもりで良いと思います。そして、理想的な姿勢がとれると、重力の影響も最小限にして立つことができ、また姿勢を保持するために必要な筋活動やエネルギー消費が最小になるという特徴があります。

10年先、20年先の自分の健康のために、理想的な「姿勢」に少しずつ気付いていけるといいですね。