ツールドランカウィ
NIPPOに加入しての初レース。
ツールドランカウィは記念すべき10回目の参加だが、今回は随分と勝手が違う。
日本のチームとは言え、NIPPOは監督はエッリ。キャプテンはバリアーニ。という、そうそうたるメンバーであり、それにスプリンターのマウロ。コロンビア人クライマーのジュリアンと鹿屋の大学生2人というでこぼこチーム。
今回の自分の役割はこの大学生の指導役という役割もあるが、今までフランス語、英語でやってきた自分にとって、イタリア語とスペイン語を話すジュリアンがルームメイトであったり、随分とコミュニケーションにおいて振り出しに戻されている。

しかし、それもすべて覚悟の上。
辞書を片手に食事に向かっている。

エッリは自分に英語で話してくれるし、皆気を遣ってくれている。

イタリアチームは団結力が強く、皆一緒に食事、行動する傾向がある。
歩けばそこらじゅうから声がかかる自分にとって、その行動の範囲が限られるのが目下の悩み。
まあ、このレースだけなんだが。

夜11時ごろ関空から日本を発つときに、大門さんから連絡が入り、コロンビア人のジュリアンがどうやらKLでの乗り継ぎでランカウィ行きの飛行機に乗り遅れたという一報が入った。

KLに着いた時に、そこが終着地だと勘違いして、ランカウィ島までの乗り継ぎ便を乗り損ねたというのだ。

翌朝、空港でジュリアンを探す。
その内、「シンイチ フクシマ」と呼び出し掛かる。ジュリアンに呼び出されたのだと思いインフォメーションに行くと
「フクシーマ」と陽気なコロンビアん人に呼びとめられた。
おお、確かにこの顔にはあった事があるな。と思いながら自分のむちゃくちゃな、スペイン語とイタリアのごミックスで話す。
英語がさっぱり分からないようだ。
まずはチケットを買わなくてはならない。いきなり、スタッフのような役割だなと感じながらもジュリアンの新しいチケットを買いに行くと、カウンターの人が、
「お前の便は出発直前だから買えない。10時の便になる。そんなことよりもおまえは早く、荷物を預けないと乗り遅れるぞ」という。
先ほど呼び出されたのは、自分が乗り継ぎ便に遅れそうだというアナウンスであったのだ。
あわてて自分の荷物を預けて、ジュリアンのチケットを買い。
彼に荷物のスポーツエキップメントのお金を100リンギッド拓して、あわてて自分の飛行機に滑りこんだ。
ジュリアンは空港の中で一泊したらしく、空港の中をくまなく徘徊したようで、KLCCことローコストエアポートについては非常に詳しかった。

いや、綱渡りとはこの事だ。
そして、朝ホテルについて、スタッフの西メカニック、恵マッサージャー。エッリ監督に挨拶。
オーガナイザーがいちいち、監督を差し置いて、自分にいろいろ情報を渡すのが、目下の悩み。
自分はこのチームでは新人なんだって!
新しいチームメイト、バリアーニとアルゼンチン人のマウロと練習に出る。
新しいチームメイト新しい自転車、分からないイタリア語。
なかなか、刺激的なスタートだ。
昼過ぎにコロンビア人のジュリアンが到着した。
空港で2度寝して危なく次の便にも乗り遅れそうだったということ。
もう、その時はスタート出来なくてもいいんじゃないか?俺はできる事はやったしな。と思う。
大会一日前
ランカウィ島でプレゼンを終えて、関係者は船でマレー半島に渡る。
結局この島に来た意味に疑問を感じながらも、敢えて誰も口に出さない。
特にプレゼンに間に合わなかった、鹿屋の二人、さらにその後に到着した橋川さんは最初から半島側に飛んだほうがよかったんじゃないかと思うが、それは触れてはいけない話題。
観光だと割り切ればいいが、夜12時近くにチームカーとともにたどり着いたメカニックを見ると、あまりいい考えとは言えない。
第1ステージ
レーススタート。
ツールドランカウィはなんだかわくわくする。
嬉しさのあまり、0kmで右側からスパンとアタックをした。集団は見事に見送った。
メンバーはジュンロン(OCBC)、中国のワン。
差は一気に10分まで開く。
自分以外は無名な選手。
最後に集団がペースアップした時にこっちも上げられるように新しいフレームで乗り方に注意しながら乗る。
最初にスプリントポイントは残り1kmの看板を見落として、出だしで遅れてワンに1位奪われてしまった。2回目は新しい電動のメカが歯とびして、遅れてまたもや2位通過。
その頃、コンディションが少しおかしくなって来ていた。タイ合宿から直接は入れればそんなこともなかったろうが、移動疲れか脚が攣りかけてきたのである。
補給地点で日本から用意しておいた、梅丹の新しい脚が攣りにくくなるドリンクを用意してくれるようにチームカーに頼む。
しかし、補給地点で貰ったドリンクはそれではなかった。
この日のために開発してもらったと言っても過言ではなかったので非常に残念な話である。
しかし、これで条件は皆同じ。
次の中間スプリントを捨てて、勝てば山岳賞確定の本日唯一の山岳ポイントに賭けることにした。そして、最後の山岳の前に後続がすごい勢いでタイム差を詰めてくる。
こちらもペースを上げたいところだが、自分の状態はかなりヤバい。何とか逃げ切って訪れた山岳ポイント。好調のワンを前に入れて残り200m。ワンが賭けた瞬間に反応した自分の足は一気に脚の筋肉が前後とも攣って転びそうになった。
TVを見ていた人はチェーンが飛んだように見えたそうだ。
戦線離脱して後続を待つ。
しかし、先に行った二人は自分の事を待ってくれている。
今まで稼いだボーナスタイムで集団ゴールすれば、総合で上位になっていることも分かる。
つかまるよりも、逃げていたほうが脚をこれ以上攣らさずに走れそうだと思いながら逃げ続ける。集団も山岳賞までに捕まえられなかったので、まだ捕まえるのは早いと思ったのか、ペースダウン。
しばらく、泳がされることになった。
つかまってアタック合戦になっても、この脚の状態なら、ついて行くのは難しい。
むしろ、先頭を一定ペースで走っていたおうがいいかもしれない。
そう思い、残り10kmほどまで逃げ続けた。
つかまった後、集団が一度急ブレーキがかかり、詰まった時に変な踏み方をしたら足が攣る。
そのまま、遅れて一定ペースでゴールを目指した。
4分遅れてゴール。
周りの人にはグッドライドとか言われたが、自分にとっては完全に敗北だ。
調子が良ければ最高のチャンスだったのに…

第2ステージ
今日は2級の登りがある。
今日はエッリから逃げてはいけない指令が出ていた。
逃げろと言われると、
「簡単にいうなよ。俺だって休みが必要だ」と思うが
「逃げるな」といわれると、なんだか元気がなくなる。
「やはり組織の中で生きていくには、こういう経験も必要だ」と必死に自分を慰める自由人の俺。
今日もあっさりアジア人中心の逃げが決まり、スタート前に自分を誘ってきたジュニオン(KSPO)が、マットアミン(TSG)やリーフユ(中国)とともに逃げて行った。
差は6分。
今日は昨日優勝したテオボスを擁するブランコがコントロール。
途中の山岳までは調子が良かったが、登りではやはり昨日の後遺症が残っていて結構苦しんだ。
山頂近くで、幸也に「下りもきついよ」というと
後ろに下がって、チームメイトにボトルを持って帰ってきた。
こっちは自分の重みだけでも精いっぱいなのに、やはり余裕がある。
さて、逃げは最終的につかまり、レースは集団スプリントに
このスプリントが超無法地帯で、落車はなかったがチームメイトと絡む事が出来ずにゴールした。
優勝はテオボスの2連勝。
さすがだ。
NIPPOイタリア式のチーム運営だ。
ミーティングは行われずに食事の時に監督に少し今日はどうだったか聞かれるだけ。
作戦はスタート直前に選手が集まった時に話される。
だから、常に一緒にいないといけない。
今までリベロで生きてきた自分にとって、スタート前に日課だったテタレ(ミルクティー)を飲みに行くタイミングがつかみにくいのが非常につらい。チームメイトはテタレも飲まないし、ジュースに氷も入れない。アジアの食べ物に疑いの目を向けていつる。
今年は自分の殻を破る年。我慢我慢!
しかし、なんだか逆に殻に閉じ込められたいる気がする。
夕食会場でユーロップカーのテーブルに座って幸也と話していたらピエールローランが
「今回はゲンティン、俺が勝つから、お前たちも一緒に引いてくれよ」と言ってきた。
ユーロップカーと仲良くしたいのは山々だが、イタリアチームとフランスチームはほとんど交流もないし、今回自分にそんな権限はない。
ふと、「じゃあ、お前たちがリーダーになったら引いてやるから。俺たちがリーダーになったら引いてくれ」と話を振ろうかと思ったが、相手はツールでラルプデュエスの優勝者であり、こちらは一コンチネンタルチーム」
「うちのチームは高いぞ」と逃げておいた。
今日は梅丹の開発中の足攣り防止のドリンクを摂り続けた。
全然脚が攣らず、大学生の2人も効果を実感したようだ。
近日中に発売になるので楽しみに…


第3ステージ
遂に山岳が始まる。
キャメロンハイランド。
スタート地点まで1時間ちょっとかかって会場に着く。
天気はいまいち、曇り気味だ。
序盤のアタック合戦は激しかったが、ある瞬間に7人ほどの逃げが決まった。
中国のワンがまたのっている。第一ステージの僕のスタートアタックの後にアジア人が全く臆することなく積極的にアタックするようになった気がするのは買いかぶり過ぎだろうか?
当の本人は、体が少し重い。
初日のダメージはいまだに尾を引いている。脚が肉離れ気味だ。
鹿屋の二人徳田選手と石橋選手は今日アタックして逃げろという指令で動いていたが、逃げには乗れなかった。
そして、集団はパレード状態。
今日はどこもひきたがるチームが現れない。
不思議なものだ。
ある時はわれ先に引きたがるチームが出現するのに、ある時は全く現れない。
10分ほど離れたころ、うちのチームがフェルネーゼと共に引き始めることになった。
エッリに指名された若手二人がいいペースで引く。
登りのふもとに差し掛かり、二人もいいリズムで先頭をひいて、ちょうどのってきたころに石橋選手が先頭でコーナーに突っ込んですっ転んだ。
全く無防備に…
全く洗礼とはこの事だ。
見るからに滑りそうなコーナーだと思うのだが、初海外の彼には分からない。
分かっていても、後ろの選手の事も考えて、ブレーキをかけすぎないよう下気持ちもよくわかる。ちょっと痛そうだった。
登りは延々とだらだらと続き、集団は徐々に人数を減らしていく。
最初の山岳賞の前で自分も遅れてしまった。
後半ちょっとリズムを取り戻して7分遅れでゴールすると、ジュリアンが2位に入っていた。」
中国人のワンが3分差で逃げ切って、ステージ優勝と山岳賞、総合を総なめ。
最後の登りで集団から飛び出したジュリアンは集団から1分抜け出したが、中国人には届かなかったようだ。
小雨が降るキャメロンハイランドをホテルまでバリアーニとゆっくり流した。
TSGの去年のチームメイトとともに…
彼らも頑張っているが、今日は登りのエース、「ソフィー」が遅れてしまった。
スプリントもなかなか上位に絡めていない。
ちょっと今年はきついが頑張ってほしいと思う。
しかし、ジュリアンはいい位置につけたものだ。
これで登りでピエールローランについていけばリーダージャージが転がり込む。
ユーロップカーに話を振っておいたらよかったかもしれない。


第4ステージ
朝6時起床、キャメロンハイランドを下る。
イタリア式には、夕食の後はマッサージをしないのが通例らしく。
前日はマッサージを受けられなかった。
2日前はレースが終わったのが夕方だったので、これで2日連続マッサージを受けられないことになる。
初日に脚が攣ったまま走った筋肉痛と腰痛で、かがむのもつらい状態なので念入りにセルフマッサージをした後、友人のダニーに夕食後、近くのマッサージ屋に連れて行ったもらった。
そこのおばさんが、マッサージしながら自分の金玉を触ってくる。
後30バーツ出せば、金玉をマッサージしてやる。お前の腰板はそこから来ている。
マッサージしたら、ばっちりだ。これは非常にまじめなマッサージだ。と力説されて自分も興味がなかったわけではないが、時間も遅かったので受けなかった。
どんなマッサージだったのだろう?気になる。
さて、今日はゲンティンの前の日だから、逃げるには絶好の日だ。
6年前にステージ優勝した時もこの日だった。
だから、狙っていこうと思ったが、昨日ブランコは全員ゆっくり登っていたし、こちらはジュリアンが総合2位につけている。
あまり、自分が逃げる意味はないと思っていたが、序盤の激しいアタック合戦の中、幸也が目配せしてアタックをかけた。
分かっていたが、他の選手に邪魔されて抜け出せず。
その後、幸也の逃げが決まった。
メンバーはバス(OCBC)、西谷(愛三)幸也の3人。このメンバーなら、ぜひ行きたかった。
中国のワンにおめでとうと言うと嬉しそうにしていた。
しかし、リーダーの中国チームは3人でいいペースで追う。
なかなかしぶとい。
幸也たちも最後にペースアップしたが、中国チームが垂れてきたときにブランコなどが加勢して幸也はつかまりスプリントはチッチ(ファルネーゼ)が制した。
暑い一日だった。
幸也もいい逃げをしたが、今日は逃げ切れる日ではなかったようだ。
しかし、これもやってみないとわからない。
ある時は、どこの先頭をひきたがらず、中国人が逃げ切り。
ある時は、次から次へと引くチームが現れる。
逃げている選手にもよるし、気分にもよるし、運にもよるかもしれない。
幸也じゃなかったら…
なんて考えても仕方がない事だから、とにかくやってみるしかない。
今年、自分にまたチャンスがやってくるかわからないが、プロとしてちゃんと仕事をしようと思う。
第5ステージ
今までゲンティンハイランドをいい成績で登ったことがない。
勾配がきつすぎるのか?
今日も最初から逃げてもいいと言われたが、一度アタックしただけで後は、集団で登り始めた。グリーンエッジの選手が一人で逃げて集団は不安定だ。
スプリントポイントでもがいた選手がそのまま逃げようとして、集団がペースアップしたり、集団の脇を上がろうとした南アフリカの選手をグレームブラウンが幅寄せして看板に押し付けて落車させた。
彼は昔から康司をスタートアタックさせまいとして掴んでみたり。(康司はグレームブラウンを引きずったままアタックをかけて、集団では随分受けた)
悪行が多い選手だがまだ健在だ。
バリアーニは元チームメイトだけど挨拶もしていないので聞いてみたら
グレームの事を好きなチームメイトはあまりいないらしい。
自分としては彼が年をとってもまだ丸くなっていないのが少し嬉しかったが、南アフリカの選手は痛そうだった。
そうこうしている内に登りに入って集団はペースアップ。
アレドントがスポーツドリンクを要求するので自分の分を渡し、自分の分を取りに帰る。
それでも、いつもよりも早いところで集団から遅れてしまったので、そこからは一定ペースで登った。
トレンガヌの応援団が大挙して訪れており、そのゾーンで随分押してもらって、そのゾーンを過ぎたら、一緒に登っていた選手をぶっちぎってしまった。
そして、ゴール後、ジュリアンの優勝を知った。
いや、強い。
どうしたらそんなに登れるのか?
バレリーニがいいアシストをした。バレリーニも総合8位につけている。
なんとなく、そんな気はしていたが残り5ステージを残して、リーダーチームになってしまった。
今回のメンバーは大学生を二人起用している。
彼らにとっては試練になるだろうが、こんな経験なかなかできるものではない。
トレンガヌのコーチ、セバスチャンが俺の立場を憐れんでけらけら笑っていた。
セバスチャン、俺のチームはステージ優勝に現リーダーだが、トレンガヌは今のところいいところはないんだよ。
俺に同情する前に自分の事を心配したほうがいいな。
夕食後皆で乾杯をした。
レースはこれからだ。