先日の、非嫡出子の相続分規定について違憲判断を示した最高裁決定(PDF)について少し。
憲法や家族法の観点からの議論は多くの専門家等による論考がされているところでもあるので、特に目新しい考え方を持つわけでもない私としてはひとまず置いておいて、比較的触れられることの少ない相続税法の観点から触れてみたい。

法定相続分の規定の役割は、相続そのものにおいては補充的役割とされている。実際の遺産分割は法定相続分の定めを前提としつつも、結局はそれに拘束されない形での当事者間の合意ないし審判等によって行われることが多いからだ。その意味で本規定が違憲無効とされたとしても、少なくとも過去の多くの相続において(錯誤が問題とされる場合はともかく)直接には法的効果を生じさせないことになる。しかし、法定相続分の規定が直接に法的効果を生む場面が一つある。それが、相続税額の算定の場面だ。
以下が相続税の総額の計算方法を定めた相続税法16条である(文中太字、下線は筆者)。

(相続税の総額)
第十六条  相続税の総額は、同一の被相続人から相続又は遺贈により財産を取得したすべての者に係る相続税の課税価格に相当する金額の合計額からその遺産に係る基礎控除額を控除した金額を当該被相続人の前条第二項に規定する相続人の数に応じた相続人が民法第九百条 (法定相続分)及び第九百一条 (代襲相続人の相続分)の規定による相続分に応じて取得したものとした場合におけるその各取得金額(当該相続人が、一人である場合又はない場合には、当該控除した金額)につきそれぞれその金額を次の表の上欄に掲げる金額に区分してそれぞれの金額に同表の下欄に掲げる税率を乗じて計算した金額を合計した金額とする。
(表は省略)

この規定は、相続税の総額を、法定相続分による相続を「仮定」した場合の各自の相続金額に応じて計算することと定めている。そして、実際の各相続人の納税額は、相続税法17条に従い相続税の総額を実際の相続額に応じて按分することになる。

(各相続人等の相続税額)
第十七条  相続又は遺贈により財産を取得した者に係る相続税額は、その被相続人から相続又は遺贈により財産を取得したすべての者に係る相続税の総額に、それぞれこれらの事由により財産を取得した者に係る相続税の課税価格が当該財産を取得したすべての者に係る課税価格の合計額のうちに占める割合を乗じて算出した金額とする。

つまりこの相続税額の計算の場面では、相続の場面においては「補充的役割」とされているはずの法定相続分の規定が、直接に課税処分による法的効果の根拠規定の一部となっているということになる。
そして、相続税額の計算は超過累進税率によっているから、相続人に嫡出子と非嫡出子がいる場合、基本的には均等に割った方が税額が少なくなる(例外はあるが)。つまり、仮に本件規定が遡及的に違憲無効とされるならば、本来納付すべき相続税額よりも過大に納付していたことになる可能性が大いにあるのだ。

本決定は「(本件)相続の開始時から本決定までの間に開始された他の相続につき,本件規定を前提としてされた遺産の分割の審判その他の裁判,遺産の分割の協議その他の合意等により確定的なものとなった法律関係に影響を及ぼすものではない」と判示して、遡及効を制限している点に特徴がある。
しかしこの判示は、法定相続分の規定が直接に法的効果を生む場面(相続税額の算定と、それを根拠とした課税処分)についてまで遡及効を制限したものであると読むにはかなりの無理がある。「違憲の本件規定を前提としてされた合意等」は本件規定に直接拘束されたものではないが、「違憲の本件規定を根拠としてされた課税処分」は明確に本件規定に拘束されており、意味合いが全く異なるのだから。
恐らく、そこまで考えが及ばなかったのではないか。法定相続分の規定を直接根拠とする相続税の課税処分(大量に存在する)の存在を意識していたのであれば、より明瞭に違憲の根拠規定に基づく課税処分であっても例外的に違法とならないものとして遡及効を否定するべきであったと、私は考える。

さて、ここで相続税額が過大であったとして更正の請求(国税通則法23条)をしたらどうなるのか。本決定の遡及効を制限する判示を根拠として、税務署長は恐らく更正をしないだろう。しかし、少なくとも平成13年の時点で違憲であった法律の規定を根拠としてなされた課税処分が違法の瑕疵を帯びるものであることは(上記遡及効の制限の判示を前提としてもなお)否定するのが難しそうであるし、そうだとするとそれを維持する処分も違法とされるのではないか。きっと、これを問題とする税務訴訟が起きるだろう。

私は、遡及効を制限するという最高裁の意図自体は否定しない。だが、やり方が中途半端だったのではないか、と思わざるを得ない。この点の指摘は少ないが、法務と税務の狭間にいる者としてはどうしても気になってしまうところである。